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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
襲来のアホの娘

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デスマッチ

 「それでお師匠判定はっ!?どっちが美味しかったですかっ!?」


 「多田君で」


 「ぼへええええっ!!!」


 餌を待つ子犬のような瞳で結果を催促した結果、判定は俺の勝ち。アイニィは間抜けな声を出して後頭部から倒れこんだ。


 まぁ勝って当たり前というか、妥当で当然な結果というか。


 「うぅ……何がいけなかったのかしら」


 よろよろと立ち上がり顎をカウンターに乗せて涙を流すアイニィ。


 何って言われてもそりゃ見た目が全てを物語ってるだろ。


 「あの、アイニィさん。何でレシピを作ったんですか?」


 気になったので聞いてみる。


 するとアイニィは口を窄めながら。


 「えっとウイスキーでしょ?それから赤ワインに日本酒。味を整える為に芋焼酎をちょっと。それから隠し味にチョコレートを……」


 「う、うわぁ……」


 こいつ、正真正銘の馬鹿だ。美味しい物を混ぜればより美味しくなると思っているパターンの馬鹿。


 メロンに納豆は合わないし、ショートケーキにラーメンも合わないだろう。


 それと隠し味だ。よくいるよな、碌に料理したことない癖に隠し味だとかこだわるやつ。


 なんだよチョコレートってカレーライスじゃないんだから。


 「さて、アイニィ君。これで君の二敗だがどうする?まだ勝負を挑むのか?」


 マスターが何処か諭すように話しかける。


 「ぐぬぬ、ま、まだよっ!まだ私は負けられないっ!こうなったら多田、表に出なさいっ!直接勝負よっ!」


 そう言って俺の腕を強引に引っ張る。


 正直もう結果は見えているし面倒くさいのでやりたくないのだが、まぁこれで諦めてくれることを願って付き合ってやるか。


 そのままアイニィに連れられやってきたのはバーがあるビルと隣のビルの間にある狭い路地。


 夜風が入ってきて俺の頬を掠める、流石に肌寒いな。


 「で、今度はなんの勝負をする気なんですか?」


 白く光る三日月を背にして腕を組んでいるアイニィに尋ねる。


 闇夜に彼女の緑色の瞳がキラりと輝いて。


 「……これが正真正銘最後の勝負よ。内容は至ってシンプル。己の身体のぶつかり合い。どっちか片方が気絶するか戦闘不能まで戦いあう正にデスマッチ。これであんたを完膚なきまでにボコボコにして私が店員に……っ!」


 デスマッチねぇ。……なんとなく結果は察しが付くが。


 「アイニィさん。気になってたんですがなんでそこまでして店員になりたいんですか?ここの仕事なんてキツいだけなのに」


 腕相撲の後も聞いたが俺はどうしても気になったので再度尋ねる。


 しかし、返って来るのは沈黙、そしてアイニィが顔をしかめるだけ。


 まぁ言いたくないなら無理して聞かないが。


 俺はその場で軽くジャンプしたり手首を回したりしてウォーミングアップをする。


 別にやる気がある訳ではない。ただこんな勝負で怪我をしたくないだけだ。


 アイニィも首を二、三度左右に振って音を鳴らし組んでいた腕を解いてから。


 「じゃあ、そろそろ始めましょうか。……先に言っておくけど手加減はしないからね。」


 「はいはい、分かりましたよ」


 「ふんっその生意気な口を二度と聞けないようにしてやるわ。それじゃあ行くわよっ!!!」


 そう言い終えるとアイニィがこちらに向かって走ってくる。


 足は腕っ節と比べてマシなようだ。と言っても平均の女子中学生並みだが。


 「はぁっ!」


 そして大きく腕を振り、俺を殴りつける。


 だがしかし。


 「な、何も痛くねぇ……」


 「たぁっ!」


 彼女は俺の胸を殴りつけるが。何も痛くない。


 効果音をつけるなら、『ドカっ』とか『バキっ』とかではなく『ポカっ』だ。


 その後もアイニィは俺をポカスカと殴り続ける。


 本当にノーダメージ。全くもって痛くない。こいつ、手加減でもしているのか?


 しかし彼女は顔を真っ赤にして目を瞑りながら一心不乱に殴りつけている。これは本気でやっているのだ。


 俺はアイニィの頭を掴み、軽く押してみる。


 「ふぎゃっ!」


 彼女は呆気なく間抜けな声を出し後ろに尻餅をついた。


 「まだまだぁっ!喰らうがいいわ、必殺『ローリングアタック』っ!」


 彼女は両腕をグルグルと回し始め俺に猛突。


 おいおい、それ今時の小学生でもやらないぞ。


 「ふぎぃいいいいいっ!!!」

 

 声をあげながら向かってくるアイニィを俺は再び頭を押さえつける。


 彼女の両腕は空を切り、壊れかけの扇風機のように微弱な風を発生させている。


 「よいしょっと」


 「あぎゃっ!」


 また彼女の頭を押し、アイニィは尻餅をついた。

 

 「う……うぅ……」


 アイニィは立ち上がることなく、両膝を抱えて体育座りをしだす。


 ……これで決まったか?


 「アイニィさんもういいでしょ。勝負は俺の勝ちですね」


 「まだよ。まだ私は負けたつもりは……ぐすっないんだから……っ!」


 もう既に半べそを掻いているアイニィ。それでも立ち上がり考えなしに俺に突進してきた。


 俺はそれを軽くかわす。行く宛てがなくなった彼女はそのまま三歩先へとよろよろ進み、そして小石にぶつかったかと思うと顔から一気に落ちた。


 流石に参っただろう。倒れて動かないアイニィに寄り添ってから。


 「ほら、もう帰りましょう。風邪引くかもしれませんし」


 優しい声を作って俺は手を差し伸べる。


 すると。


 「ふ、ふえええええええんっ!!!」


 まるで赤ん坊のように大きな声をだして泣き出すアイニィ。


 ……こりゃ困ったなぁ

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