初めてのオリジナルカクテル
早速俺はカクテル作りにとりかかる。
まず、シェーカーとストレーナーを取り外し、ボディに氷を入れる。
それから、レシピとなる酒をいれるのだが。
「マスター、お酒はどれを使ったらいいんですか?」
「ああ、この棚に並んでいる物を好きに使ってくれて構わないよ」
カウンターの奥にある壁棚にはいつも数多くの酒が並ばれている。そこから自由に使っていいようだ。
といっても、どれを使えばいいのか分からないな。
俺は壁棚に近づき、一つ一つ手にとって品定めしてみる。
赤ワインからウイスキー、日本酒や芋焼酎など本当に各種揃えてある。
中にはハブ種などの変り種もちらほら。
さて、どれを使おうか。いや違うな、その前にどんなカクテルを作るか考えるんだ。
俺が酒を飲むとき、それはどんな状況だ?友人との付き合い、それから店で悪魔にウザ絡みされたときくらいで普段は飲まない。
飲むと言えばお茶だよな。
素朴で無難な味がするペットボトルの緑茶。ごく一般的日本人である俺にぴったりの品じゃあないうか。
そうだ、これをベースにカクテルを作ろう。
俺は壁棚から離れて冷蔵庫から『うぇーいwwwお茶』というパッケージの物を手に取る。慎ましい和の心を失った感満載な商品名だがこの際余計なツッコミはしておかないでおく。
それと、なるべくお茶の味を主張したいので味が薄そうなイメージがあるウォッカをチョイスした。
次にボディへと注いでいくのだが、これも難しい。
と言うのもカクテルでよくある割合というやつだ。
お茶とウォッカを何対何で割れば美味しくできるのか正直わからない。
ここは勘に任せるしかないか、コーラはなるべく多めに。
不器用な手つきでボディへと注いでいく、その様子をマスターはカウンターに肘をつき頬杖をしながら眺めていた。
……視線が気になるな。
「……俺何かおかしいですか?」
「いや、中々面白い発想をするものだと思ってな。早く作業にとりかかりたまえ。氷が溶けてしまうぞ」
褒められているのか皮肉を言われているのは分からなかったが今はカクテルに集中しよう。
二つのレシピを注ぎ終わったのでストレーナーとトップをつけていよいよシェイクタイムだ。
確かこう、三本指で持ってたな。
マスターの見よう見まねでシェーカーを持ってみる。だが慣れてないせいか、思ったように指に力が入らずかなり不恰好になっているだろう。
マスターはこれを小さい手でこなすのだから凄いな、なんて素直に思った。
そのままもう片方の手を添えてシェイクしてみる。
斜め45度にお客様と反対方向で。
心の中でマスターが教えてくれたコツを呟きつつシェイクしていく。
しかし、マスターのようにシャカシャカという心地の良い音がならない。おかしいな間違ってない筈なんだが。
何処がおかしいのか考えているとマスターが。
「多田君、振り方が甘いんだよ。中のレシピがシェーカーの中で八の字を描くように振るんだ。そうすれば上手くいく」
「そうですか。ちょっとやってみます」
教わった通り、今度は八の字を意識してシェイク。
すると段々とシャカシャカと子気味の良い音が聞こえてきた。シェーカーの中で飲み物が規則正しく触れているのが感覚的に分かってくる。
俺はそのままシェーカーを振り続ける。これいつまで振ればいいんだろう。
でも振り続けても駄目だよな。炭酸で泡立ってしまう。
適当な時間で振るのを止める。これで一応は完成の筈だ。
運命の注ぐ工程に入る。不思議と心臓の鼓動が加速してきた。
上手くできてますように……そう思いながらグラスに注いでみると。
「お、おお……っ!」
出てきたのは物は透き通った緑色。どこからどうみても普通のお茶だ。
しかし、仄かに香るアルコールの匂いは、それが酒だと言うことを証明付けていた。
「ふむ、どうやら完成したようだな。折角だ、何か名前をつけてみるといい」
マスターがグラスを見つめながらそんなことをいってくる。
名前か、名前ねぇ。
「……それじゃあ『普通の休日』で」
お茶を飲みながら休日を過ごす、そんな思いが込められた実に普通で俺らしいカクテルが出来た。
それがマスターにも伝わったのか分からないがフッと笑みを浮かべながら。
「実に君らしいな。では一口貰おうか」
グラスを持ち、その柔らかい唇にフチを当てる。
緊張の一瞬、例えるなら試験の合否を言われる寸前といったところか。
そのままマスターはニ、三口喉を動かし、グラスをカウンターテーブルに置いた。
そして。
「うむ、『普通』だな」
そんな感想をポツリと呟いた。
普通、普通か。普段から普通を願う俺からすれば妥当で上等の評価だと言える。
言えるのだが、何故だか胸が妙にモヤモヤする。何故だろう。さっき飲んだカクテルが回ってきたのだろうか。
「特別美味くもないし不味くもない。普通の味。まぁ初めてにしては合格点といったところか。よくやったな。どうやら君は筋がいいらしい」
「そうですか、嬉しいかな、少しだけ」
普通と言われればそれは俺にとって光栄なことで嬉しいことだ。
しかし、それだけではない。他に違うところが何故だか嬉しくて少し身体が暖かくなる。
本格的に酔いが回っていたのかもな。
「お師匠っ!私も出来ましたっ!」
どうやらアイニィも完成したようで、グラスに注いでいく。いくのだが。
「あの。アイニィ君……これは?」
マスターが思わず聞いた。何故なら彼女が注いだグラスには明らかに飲み物の色ではない液体が入っているからだ。
「ふっふっふ。これは私の中でも自信作。その名も『大悪魔カーニバル』ですっ!ささっ!グビっと飲んでくださいっ!」
彼女に勧められるがままにグラスを持つマスターだが顔を引きつらせ、眉毛をピクピクと動かす。
「さぁお師匠っ!飲んでくださいっ!絶対に美味しい筈ですっ!」
「そ、そうだな。見た目こそそドブだが問題は味だ。……では」
覚悟を決めたマスターが一気に飲み干す。
果たしてお味の方は……。
「うん。まぁその独創的というか、発想が天才的というか……個性が出ていていいと思うぞ。うん」
額に冷や汗を掻きながらぼそぼそと呟くマスター。
どうやら俺はアイニィに一つの点で負けたらしい。
マスターにお世辞を言わせたのだから。
明日28日火曜日はおそらくお休みしますが時間があれば投稿しますっ!




