金髪の軍服っ娘
「はぁ……しんどい」
俺の口から本音が漏れる。
今日もバーは繁盛していて、悪魔共の宴が始まっている。
バイトをしてから二ヶ月程が経過し、このクソみたいな仕事にも少しは慣れてきた。
人間というのはそれなりに適応能力があるらしく、住めば都という諺があるが慣れればなんとかなるものだ。
それでも疲れる時は疲れる、なにせ相手をするのが酔っ払いでしかも悪魔だから。
変ないちゃもんもつけられるし、酒を飲む前から支離滅裂の輩までいる、俺は得意のセルフスマイルで誤魔化してきたがどれだけぶん殴ってやろうとしたことか。
接客業なんてストレスが溜まるだけだな、将来は違う職種に就こう。
オーダーの嵐も終わり、俺はカウンターで休憩をとる。
マスターは何処か楽しげな顔でグラスを丁寧に拭いていた。
……よくそんな顔が出来るもんだな、俺だったら今頃グラスを叩き割っている。
そういえば俺が来る前はマスターがここを一人で経営していたのだろうか。
だとしたら素直に凄いと思う。
そんなことを考えながらマスターを見つめていると、マスターがこちらに気がついたようで。
「なんだ?乾いた蛙の様な顔をして」
「……例えが分かりづらいんですよ。……いや、マスターってずっと一人で店をやっていたのかなって考えていただけです」
「ふむ、そんなことか。……実は君がここで働く以前に一人働いていたのだよ」
え、そうなのか、それは初耳。
しかし、引っかかるな何故今はいないのか。
「その前に働いていた人って今なにしてるんですか?もう辞めたとか?」
俺の質問にマスターが腕を組んでから。
「彼女は私が人間界に来る前から私のことを妙に慕っていてな……人数不足なので雇ってみたが予想以上のポンコツなのでそのまま解雇した」
「へ、へぇ……」
どんなポンコツかは知らないが正直辞められたのは羨ましい。
俺もワザとヘマしてクビになろうかなぁ。
そんなことを考えていると入り口のドアが勢いよく開けられ、設置されているベルも大きく音を出す。
なんだ?また酔っ払いでも着たのか?
内心嫌々ながらもその客に向かって挨拶をする。
客は女性、それにまだ見た目が十代に見える。
金髪のショートヘアーにぴょこんと立っているアホ毛前髪を赤いピンで留めており整った眉毛と大きな緑色の瞳が特徴的だ。
服装は……緑色の軍服の様でインナーにシャツとネクタイを付けており、黒いブーツを履いている。
その客は店内をきょろきょろと世話しなく見渡し誰かを探している様子。
「あ、あのどなたかお探しでしょうか?」
仕方なく尋ねてみると。
「お師匠を探してるんだけど、おっかしいわね。どこにも居ないわ」
「そうですか、どんな人なんですか?」
「そうね、凛々しくて気高くて、とっても素敵なお方よっ」
何処か得意げに鼻をフンスっと鳴らし答える彼女。
いや、俺が聞きたいのは外見のことなんだけど。
俺も店内を見渡して探して見るが居るのは酔っ払いの悪魔だけ、そんな立派な人物は見当たらない。
「あの今はいないみたいですね。どうします?少し待ってみますか?」
「そんな筈はないわっ!だってお師匠は何時も店に居る筈だからっ!」
尚をきょろきょろと探す彼女、なんだこいつ面倒くさいなぁ。
すると彼女はカウンターの方を向いてから。
「あっ!いたっ!お師匠っ!私が帰って来ましたよっ!」
一目散にカウンターへ駆け寄る彼女。
そこにいたのはマスターだが、もしかして探してるのって。
「お師匠久しぶりですっ!私ですっ!アイニィですっ!」
アイニィと名乗る彼女がカウンターに身を伸ばしながら目を爛々と輝かせて話す。
マスターはというと顳顬を押さえて頭痛でも起きたかの様な表情だ。
「……久しぶりだな。アイニィ君。今日は何をしにきたのかね?」
「決まっているじゃないですかっ!修行の成果を見せにきたんですよっ!お師匠に力不足だと言われた私はこうして軍隊に入って厳しい訓練を乗り越えて再びやってきたのですっ!見て下さいこのバッチっ!格好いいでしょっ?」
よく分からない銀色のバッチを自慢げに見せびらかすアイニィ。
見てみれば真ん中に日本語で『もう少し頑張りましょう』と書いてあるのだがそこは黙っておこう。
「あの、マスター。この娘誰なんですか?」
俺はカウンターに戻ってマスターに耳打ちをする。
マスターは手を口に当てて背伸びをしながら。
「あれが先ほど言っていたポンコツだ。」
ああ、そうなのか、見るからにポンコツオーラ放ってるけど。
尚もマスターは耳打ちで。
「彼女、どうやら勘違いをしているみたいでな。まだ自分がクビになったことが分かっていないようだ」
「ちょっとなんですか二人でこそこそ話してっ!っていうかこの人間誰ですか?なんでここで働いてるんですかっ?」
喜んでいたと思えば今度はぷりぷりと怒り出すアイニィ、なんなの?情緒不安定なの?
「彼はここの新しいバイトの多田 崇君だ」
「どうも、多田です」
「お師匠聞いてないですよっ!大体従業員なら私が居るじゃないですかっ!納得出来ませんっ!」
どうやら本当に自分がクビになったことが分かっていないようだ。
ここは本当のことを言ったほうがいいんじゃないのか?
「えっとアイニィさん。言いづらいんですけど貴方は……」
「こうなったら勝負ですっ!どっちがこの店に相応しいか白黒つけましょうっ!」
三章突入ですっ!
果たしてアイニィが提示してくる勝負の内容とは……っ!?