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トラックで異世界転生するのはキモオタの特権

 俺は公園を後にして、ムウマを追いかけることにした。


 この公園は住宅街に位置しており車に轢かれることはまずないだろうが、十字路などが多く、土地勘がない人にとっては迷路である。


 しかも彼女のあの見るからに変質者な格好でうろちょろされれば一発で警察に通報物だ、その前に見つけなくては。


 しかし、俺もここの立地をよく知っているわけではなく、探すのは困難だろう。


 手当たり次第に道を歩きムウマを探す。


 「おーいっ!どこ行ったんですかーっ!」


 声を出してみても返事は返ってこず、自分の声だけが辺りに響く。


 どうしてこうなった、大体ムウマもムウマだ、何故あんな男に惚れたのだろうか。


 俺が言うのもなんだが完全に見た目で全てが察する男だろう、しかも重度のロリコンだなんて救いようがない。


 惚れる要素が一つでもあるのなら教えて欲しいくらいだ。


 俺が思うに、恋に落ちてしまった人間は意中の人の良い所しか見えなくなる、それが酷くなると自分の理想像を押し付けてしまうのだ。


 そして、理想像と違うと思った瞬間、熱は一気に冷め、時には攻撃的になる。


 アイドルや女優の熱狂的なファンもこれと同じで『処女膜から声がでてない』とか『耳に精子がかかる』だとか簡単に手のひらを返すのだ。


 なんとも愚かでくだらない。


 だから俺は彼女も作らないし、誰かのファンになるつもりもない。


 俺の望む人生において必要ないことだからだ。


 そんなことを考えながら尚もムウマを探す。


 暫く歩いた後で適当に右左に曲がっていると彼女はいた。


 電柱の下で膝を抱えながらうずくまっていた。


 声をかけるのもなんだか面倒くさいがそれでもやらなくてはいけないので大きくため息をついた後で。


 「ムウマさん、何やってるんですか」


 なるべ優しい声を作り話しかけた。

 

 すると彼女はこちらに気づき、振り向く。


 目が赤く腫れ、大きな瞳には涙を溜めながら。


 「すいません、私、皆さんに迷惑をかけてしまいました……」


 本当だよ、なんで俺がこんな目に……。


 とは言えず、俺はお得意の笑顔を作って。


 「いえ、大丈夫ですよ。さぁ、皆のところへ帰りましょう」


 少し屈んで、彼女に手を差し伸べる。


 しかし、ムウマは手を伸ばそうとはせず、顔を俯かせて。


 「でも、皆さんに合わせる顔なんてないし……それに国ヶ咲さんに酷いこと言っちゃった」


 確かに、そうだがここで泣いていても意味がないだろう。


 はぁ……本当に女は面倒くさい。


 「私なんて……私なんて……うわああああんっ!!!」


 急に泣き出したかと思えば立ち上がり、また何処かへ走り出したムウマ。


 「ちょっとっ待って下さいっ!そんな走ったら危ないでしょっ!」


 俺の忠告も彼女には届いていないようでどんどん遠くへ走り去ってしまう。


 まずいぞ、早く追いかけないとっ!


 俺も走って彼女を追う、そこであることに気がついた。


 彼女の向かっている方向は住宅街を抜け、大通りになっているのだ。


 そんなところ、急に飛び出したら危ない。


 そう思っていると彼女は案の定道路へと飛び出す。


 そこにやってきたのは貨物を積んでいる大型のトラックだ。


 なんてベタな展開、いやそんなこと言っている場合ではない。


 「危ないっ!」


 俺がそう叫ぶも虚しく激突する衝撃音が辺りに響いた。



 まずい、まずいことになったぞ。


 今すぐ駆け寄って様子を見に行ってから警察と救急車に連絡を……でも事情聴取とかされたら面倒だしなぁ。


 いっそこのまま何事もなかったように退散して……。


 いや、これは道徳的にまずいよなぁ……行くしかないか。


 意を決した俺は事故現場へと向かおうと足を伸ばしたところで。


 「やっと追いついたな」


 後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


 振り返るとそこにはマスターが、いつの間にやってきたのか分からないが今はそれどころではない。


 「マスターっ!大変ですよっ!ムウマさんがトラックに……っ!」


 混乱で話の整理が出来ないがそれでも懸命に事の状況を説明する。


 しかしマスターは慌てた様子もなく、いつも通りの口調で。


 「心配することはない。よく見てみろ」


 はっ?心配することはないだぁ?何を言っているんだこの幼女は?


 言われた通り見てみると……。


 「え、えぇーっ!」


 俺は思わず叫び声をあげた。


 トラックは見るも無残に前側はぺちゃんこに潰れている。


 しかし、ムウマは無事だった。


 何故ならアスモデウスが両手でトラックを止めているからだ。


 そして国ヶ咲がムウマを大事そうに抱え込んでいる。


 ど、どういう事ですかぁ……。


 あまりのことに開いた口が塞がらない俺の隣にマスターがやってきて腕を組みながら。


 「君が彼女を探しに行った後、私達も探していてな。狭い住宅街なので私が空を飛び全体を見渡しながら二人と連絡をとっていたのだよ」


 「そ、そうなんですか……」


 へぇーマスターって空飛べるのか、すごーいっ!……とかはどうでもよくて、今はあっちに向かうのが先決だろう。


 マスターと二人で歩き、現場へ向かう、人々がその珍しい光景に立ち止まり群衆の群れが出来ている。


 俺は背伸びをすればなんとか見えるのだがマスターはぴょんぴょんとその場でジャンプしているが当然見えない。


 するとジャンプするのを止めて俺の方をジィーっと見つめてくる。


 その視線で大体察した俺はマスターに背を向けてしゃがみ込み肩車をする体勢に入った。


 流石にこの場で空を飛ばれても困るからな。


 俺の両肩に足をかけるマスター、そして一気に持ち上げる、思っていたよりずっと軽かった。


 そのままマスターを担ぎながら現場の様子を覗いていると。



 「国ヶ咲さん、どうして私を助けにきたんですか?……私、貴方に酷いこと言っちゃったのに……」


 国ヶ咲に抱かれたムウマが涙を流しながら問う。


 すると彼はムウマの涙をそっと指で拭いてから。


 「いいんですよ、某、罵倒されるのはむしろご褒美ですから。……それにトラックに轢かれて異世界転生するのはキモオタの特権ですぞ?貴方には似合わない……デュフフっ」


 得意げに話す彼、なんだかそこら辺の男よりイケメンに見えてきた。


 「あ、あのっ!国ヶ咲さんっ!私貴方のことが好きで……こんなところで言うのもなんですけど、その、お付き合いして下さいっ!」


 「ふほほっそ、そそそうですか……某でよろしければ是非……っ!」


 行き成りの告白を承諾した国ヶ咲、これによってカップルが成立したわけだ。


 そのことにより沸き立つ群衆の群れ、祝福の言葉が溢れかえった。


 ……なんか一気に茶番じみてきたな……そろそろ俺帰っていい?




 こうしてムウマの恋は成就しバーに遊びに来たときの彼女の顔はすっかり元気になった。


 そして次の日の新聞の見出しで『トラックを止める謎のレオタード男っ!?』なんか記事にされたのはまた別の話。

二章もこれで完結になります。

次回からはマスターの弟子が登場するかも……?

お楽しみにっ!

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