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オタクは早口

 ちょっと待て、一旦落ち着いて整理してみようか。


 確か、ムウマが先日言っていた男性の特徴はまじめで誠実。


 うん、人は見かけではないからな、いかにもオタクな格好だが内心はそうなのかもしれない。


 そして次に身長と体格だが……。


 身長は俺くらいだとして、体格は……ぽっちゃりでは済まされないほど太ってるんですけど。


 なんだったら腹部がベルトに乗っかってるんですけど。


 「……ムウマさん、人違いじゃあないんですか?」


 俺を両肩を掴んでいるムウマに聞いてみる、表現が悪いがあきらかに女性に好かれる外見じゃないからだ。


 「いえっ!間違いありませんっ!あの子豚ちゃんみたいな可愛いフォルムに脂ぎった顔、絶対そうですっ!」


 そう興奮気味に話すムウマ、鼻息が荒く、それが俺の首に当たってくすぐったい。


 いや、おかしいでしょ、なんであんな奴好きになるんだよ、もしかしてムウマさんも変わってらっしゃる?


 それよりも……。


 「あの、男性嫌い設定はどこに行ったんですか?あんなの見るからに性欲の塊ですよ」


 「多田さん、甘いですね。彼を見てください。先程から私達を見てキョドキョドしてるでしょ?あれは異性おろか同性と話すときでも緊張しちゃうタイプですよ。あぁ……調教しがいがありますねぇ」


 段々ムウマの声が艶っぽくなり息が荒くなる、だからくすぐったいんだけど。


 しっかしムウマも変わり者だったとは、やはり悪魔とはなるべく関わりたくねぇ……。


 「ふむ、あれがムウマ君の意中の男か。どれ私達が話をつけてやろう」


 そう言ってオタクの方へ向かっていくマスターとアスモデウス。


 「ちょっと待って下さいよっ!あんたらじゃ無理でしょっ!」


 こんな変態な格好としているオカマとドレスなんか着ている幼女が言っても話なんか出来ないってっ!


 「大丈夫よ、崇ちゃん。あたしを誰だと思ってるの?色欲の悪魔よ。任せて頂戴」


 俺に振り返った後、再び前を向いて、某有名洋画の様にグットサインを作った。


 本当に大丈夫かよ……不安でいっぱいだがとりあえず二人の様子を見守ることにする。


 すると早々にアスモデウスが。


 「はぁ~いっ!そこの坊やちょっとお姉さんとおしゃべりしなーいっ?」


 行き成りのハイテンションで話しかける、当然オタクはびっくりした表情だ。


 「ふひっ!……えぇっと(それがし)とですか?」


 おどおどしながら応えるオタク。


 なんだよ、某ってお前は少し前までの漫画のオタクキャラクターかよ。


 「そうよぉ。あんたとおしゃべりがしたくてぇ。ねぇ、お名前はなんて言うのかしらぁ?」


 「く、国ヶ咲 光國(くにがさき みつくに)です、はいぃ……」


 お前名前凄いな、ライトノベルの主人公かよ。


 「あの、某、急ぎの用がありまして、その、お話している時間が…………ってこの姫方はっ!?」


 なにかと理由をつけて断ろうとしていた国ヶ咲だが、マスターを見つけると眼鏡の奥にある一重の瞳が見開いた。


 「ああ、なんと麗しきお方だ……まるで名画に出てくる幼女、いや、天使か?」


 ……なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。


 「ふむ、褒められるのは嬉しいが今はそんな話をして」


 「素晴らしいっ!完璧だっ!パーフェクトっ!エクセレントっ!……その金色に輝く美しい髪っ!ヨハネス・フェルメールの名画『真珠の耳飾りの少女』の様なブルーサファイアの瞳っ!すべすべでもちもちのほっぺたっ!そして今すぐ抱きしめて抱っこしたい小さな身体っ!こんな素敵な幼女に出会えるなんて……っ!」


 「……だから今はそんなこと」


 「極め付きはその服装っ!フランス人形を思わせるフリル付きのドレスっ!これぞ正に真のロリータっ!漫画やライトノベルで量産されている妹属性だったりお馬鹿なロリッ娘とは違うっ!貴方様がキング・オブ・ロリータだっ!!!」


 最後に空に向かって思い切りガッツポーズをして話を締めた国ヶ咲。


 うわぁ、なんだあいつ、気持ち悪いな。


 でも一つ評価するところを挙げればあのマスターを困惑させているところだな。


 「あ、あのっ!よかったら某と握手なんか、ふひひっ宜しいでしょうかっ!?」


 顔中に溜まった汗を拭きながらマスターに手を差し出す。


 「あ、ああ……」


 困惑しながらも彼の怒涛の一人喋りに圧倒されたマスターは両手を伸ばし、包み込むように手を握る。


 「うひょおおおおおっ!すべすべで綺麗なおてて、最っ高っ!!!もう某一生手を洗いませんっ!」


 「あ、あははは……」


 気持ち悪い事この上ない国ヶ咲に対して乾いた笑いしかできないマスター。


 いいぞっオタクっ!もっと困らせてやれっ!


 心の中で応援しながら次は何をやるのか動向を見守っていると、何故か急にモジモジしだす国ヶ咲。


 そして両手で股間部を覆ってからその手を内股で挟みだす。


 「おい君、その手はなんだ?」


 「い、いやぁこれは気にしないで下さい。生理現象というか、某も男なので……」


 「ぶほほっ!」


 俺は国ヶ咲の行動を見て思わず吹き出してしまった。


 本当に気持ちが悪い奴だ、まさかこんな奴と同じ大学に在籍しているなんて。


 今度見かけたら声をかけてみようかな?いや、やっぱやめておこう。


 「最…………低です」


 国ヶ咲によってなんともいえない空気になっている中、俺の後ろから声が聞こえてくる。


 「最低ですっ!まじめで誠実だと思っていたのに幼女に興奮するなんて、最低ですっ!うわあああああああっ!!!」


 ムウマが声をあげて泣きだし、そのまま走って公園を後に何処かへ行ってしまった。


 「はて?某は何かしましたかな?」


 状況を掴めていない国ヶ咲が小首を傾げるが今はそれどころではない。


 くそっ!まずい展開になってきたぞ……っ!

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