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地獄の主 ベルゼブブ閣下

気品と威厳がある執務室で、主の男が葉巻を吹かす。


 キッチリと分け揃えられた金髪と口髭、幾ら皺が刻まれようとも決して色褪せることのない翡翠色の瞳。まるで歳月をかけて熟成させたワインのような渋さを外見から感じる。そして何よりも男が放つ雰囲気というのは、感じただけでも思わず膝をつき(こうべ)を垂れてしまいそうな、そんな凄味があった。


 「エリゴス、君も一息入れたらいいじゃあないか。私と君との間柄だろ? 今更遠慮など必要ない」


 煙を吐き捨てた後、男はそう言う。しかし、扉の前で姿勢よく立つ元悪魔軍師団長エリゴスは煙草を取り出す素振りを見せず、ただ黙って男を軽く睨んだ。


 「……更生施設でクソガキ共を逃がした罰として禁煙を命じたのは貴方でしょう? ベルゼブブ閣下」


 「はて? そうだったかな……? いやぁ最近物忘れが多くなってしまっていてね、全く歳は取りたくないものだな」


 自らの老いに苦笑するベルベブブは、そのまま葉巻を咥え煙を吹かす。無論、この男が物事を簡単に忘れる筈が無いということ理解しているエリゴスは唇を噛んで舌打ちするのを堪えた。


 「それで、本日はどの様な要件で私を呼んだのですか? まさかそれすらもボケて忘れてしまったのではありませんよね?」


 「ははっ君は相変わらず手厳しいな。もう少し性格に可愛げがあれば世の男性を虜に出来るだろうに。花は花だから美しいのではない。可憐に清く佇むから美しいんだよ」


 そう言って成熟された男にしか出来ない余裕の笑みを浮かべるベルベブブ。『可愛い』、『美しい』等と言った彼の言葉とその笑みに一瞬騙されかけるも咳払いをして場を収めるエリゴス。そんな彼女の表情を肴にしながら彼はまた一つ煙を吹かした。


 「別に大した用事ではないのだが、今日は何故だが無性に酒が飲みたくなってしまってね。どうだい? 私と久しぶりに一杯やろうじゃないか」


 「……私は別に構いませんが。一体何方に?」


 「私の旧友が近頃BARを始めたらしくてね、なにやら『娘』もそこで随分世話になってるみたいなんだ」


 「…………本当に行くおつもりですか?」


 エリゴスの問いに少し間を置いて、最後の一吸いを終えるベルゼブブ。彼が吹いた葉巻の紫煙はゆらゆらと天井へ向かって上昇していく。


 そして――。


 「――ああ、行こうか人間界に」


 吸い終わった葉巻を灰皿に押し付け、ベルゼブブは席を立つ。背後にある大窓からは地獄を象徴する血が凝固したような赤黒い日差しが彼を照らしていた。

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