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童貞ペンギンとボッコンギッタンパンダ

 服選びゲームを何とかクリアした俺は、その他諸々買い込んだ日用品を両手にぶら下げながら店内を散策している。


 安くて使い勝手が良さそうな物やこの店でしか見かけない物まで多種多様な品が山のように陳列されていたり、店独特のカラフルな手書きのPOPが目を引いたりと、まるでテーマパークに来た気分だとは言い難いが……まぁ、見てて飽きはしない。


 「……ぺんぺんぺんぺんぺーんぎん、ぺんぎん、どーてーっ」


 そんな店内の雰囲気も相まってか、すっかり機嫌を直したアイニィが服が入ってある袋片手にイントロを口ずさみながら俺の前を歩いていた。


 「ああーっ! 見なさい多田! 何か変なグミがいっぱい売ってるわよ!」


 彼女が指さした方向にはいかにも外国産って感じなグミがずらりと並べられていた。地球を模した物からムカデやらクモやら気持ち悪い虫の形をした奴、おまけに血管までこ細かく再現した眼球グミなんて物が……。一体誰がこんなの食べるんだよ、まぁ何処かの金髪幼女は魚の目玉食ってたけどな。


 「ああーっ! コレ! オカマさんがいっつも着てるやつじゃない!」


 次に彼女が見かけたのはアスモデウスがいつも着用しているレオタードだ。オーソドックスな白から黒色、黄色までバリエーション豊かに揃えられている。いくら品揃えが強みだからといってこんなのは揃えなくいいんだよ、無駄にもっこりしてるし。そんなもん店頭に堂々と飾るな。


 「ふふっ初めて来たけど中々面白いじゃない、“ペンギン・ドーテー”。今度人間界に来た時お師匠誘って遊びにこようかしら?」


 三歳児のように目に留まる物全てに嬉々と反応しながら先程の鼻歌を口ずさむアイニィ。歌詞や店名の致命的な部分を間違えていることにいい加減ツッコミを入れようか迷っていたが、また機嫌を損なうかもしれないので黙って置いた。


 彼女の機嫌が直ったことに関しては嬉しい限りである。今日を除いて後五日間あんなクソ気まずい雰囲気の中で過ごさなくて良くなったからだ。


 しかしここで疑問に残るのが機嫌の直り様である。数か月間不機嫌だった奴がこうも簡単に良くなるものだろうか? 俺が服を選んだだけで、しかもクソダサ熊スウェットで?


 彼女のことを分かろうとした手前、またしても分からなくなってしまった。そんな疑問が自分の尻尾を追いかける犬のようにグルグルと頭の中を駆け巡る。


 「ああー!!」


 そんなことを考えていると、犬とパネルディスカッションしたら普通に負けそうなアイニィが今日一番の声を上げて立ち止まる。彼女がキラキラと目を輝かせて見つめる先には田舎のデパートにある規模の小さなゲームコーナーがあった。


 「まさかゲームまで売ってるなんて……! 多田! 早速買い占めるわよ! 多田ん家をゲーセンに改造して夜通しゲームパーティよ!!」


 「いや、これ売り物じゃねぇし。そもそも売ってても買えねぇから」


 「何でよ! 一台くらい買ってくれたっていいじゃないドケチ! 馬鹿ッ! 金無しビンボー大学生!!」


 「だから売り物じゃねぇってば。つか金無し貧乏大学生って分かってるんだったら玩具感覚で筐体(きょうたい)なんかねだるな!」


 目の前のゲーム機に興奮を抑えきれず全くもって聞く耳を持たない彼女に、今回ばかりは黙らず言ってやった。大体夜通しゲームパーティとか俺が出来るわけないでしょ。俺のバイト先どんなのか知っている? 夜通し金髪幼女に虐められたりゲロ処理パーリナイトする職場だよ? どんな職場だよ! クソ!


 「ふぅん、あっそ……。買えないのは残念だけど折角見つけちゃったんだし? ここは勿論勝負するわよね? ね?」


 アホ毛を左右に振りながら毎度恒例の勝負を挑んでくるアイニィ。まぁ、別に断る必要も無いし、一台数百万掛かる筐体を買うくらいなら千円ちょっとで遊んだ方が大分リーズナブルではある。


 だが。


 「…………お前ゲームとか大丈夫なのか? 色々と」


 そう、周知のとおりアイニィは神に全てを見放されたレベルで全ての項目において最低スペックなのだ。だいぶ前にボードゲームであるオセロで勝負したことがあるが、特に苦戦することもなく俺が圧勝したことがある。


 のんびりまったりスローライフ的なゲームならまだしも、ゲーセンの、それも口振りから察するに対戦型のゲームをやるのであれば正直楽しめないのではないかと思うのだが……。


 「ふっふっふ……! 実は私、人間界に来たら絶対行くくらいゲーセンに通い詰めてるの! 遊びに行ったらパチンコ打ってるオジサンとオバサンにいっつも褒められちゃうんだから!」


 声高々にそう言った後、彼女はエッヘンと胸を張り、決まったといわんばかりにフフーンと鼻を鳴らす。


 ゲーセン好きそうなのはイメージに合うし、それだけ称賛を浴びているのなら今回ばかりは相当自信があるのだろう。称賛の声をあげている相手が全国何処のゲーセンにも存在してそうな古ぼけた帽子と袖無しダウンジャケットを装備してそうなオジサンであったり性格もパンチパーマーもキツイおばさんなのは滅茶苦茶引っかかる部分ではあるけども。


 「そこまで自信あるんだったら全然やってもいいけど。いつもみたいに負けて大泣きするのは勘弁だからな」


 「ふんッ! それはこっちのセリフよ! 今まで負けてきた分、今日はその倍にしてボッコンギッタンのコッテンパンダにしてやるんだから覚悟なさいッ!!」


 堂々と宣戦布告してきたアイニィが自信たっぷり意気揚々とした足取りで戦場(ゲーセン)へと足を運び、俺もそれに続いて歩く。


 普段よりも何処となく気合が入っている感じがしているアイニィだが、勝負の結果なんてぶっちゃけ分かりきっている。ホットコーヒーは熱い、仕事はだるい、右足を出して左足を出すと歩けるなんて当たり前の事と同様に俺が特段苦労することなく普通に勝って終わるのだろう。


 しかし分かりきっているだとか、目に見えているだとか独りよがりの視点で考えるのは良くないことだと今さっき痛感したばかりだ。アイニィのことを分かろうと思ったのならば彼女の好きな物を一緒に体験すれば何か新しい考えが生まれるかもしれない。


 


 因みに、ボッコンギッタンのコッテンパンダの意味は全くもって分からないし、これっぽっちも微塵も分かろうとするつもりはないけどな。

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