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サキュバスだって悩みます

 「あの、お客様。ご注文は何になさいますか?」


 俺は嫌々ながらもカウンターでうつ伏せになる痴女のオーダーをとる。


 「ごめんなさい。今そんな気分じゃないので」


 「は、はぁ……そうですか」


 以外にも丁寧に断られてしまった。


 こんな格好をしているのだ、きっと例のオカマみたく、テンションがやたらと高い部類だと思っていたのだが。


 「マスター、あのお客知ってますか?」


 俺は彼女のことが気になり、マスターにこっそり耳打ちで聞いてみる。


 「あれは、恐らくサキュバスだろう」


 「サキュバス?」


 ゲームなんかで聞いたことあるな、あの手のキャラクターもこんな露出が高いが。


 「悪魔は人間の魂を地獄に送ると以前いったな。それとは別でサキュバスは人間の精気を吸い取るんだよ」


 「精気ですか……」


 「そうだ。だからあんな格好をしているわけだ。人間の男は皆ああいうのに弱いだろ? そこを狙って彼女達は精気を吸い取る。といってもノルマがあるためその分だけだがな。まぁ中にはノルマを早く達成したいから一人の男性の精気を吸い尽くす輩もいるが。」


 なんだよそれ、怖いな。


 マスターの説明を聞いて益々彼女のことが気になった。いや、別に精気を吸い取られたい訳でななくて。


 サキュバスとして人間の精気を吸い取る仕事をしている彼女がこんなにテンションが低くていいのか?


 なにか、問題でも抱えているんじゃないか?


 気になってしまい、ついつい彼女をチラ見してしまう。


 それをマスターが見ていたのか、俺の腹を肘で小突いて。


 「そんなに気になるなら聞いてみるといい。客のお悩み相談も接客のうちだぞ」


 「そうですか……」


 だがしかし、気になるといっても関わりたい訳ではない。


 こういう人の悩み事に足を突っ込むと色々面倒くさいことになるからだ。


 俺の人生に面倒ごとは持ち込みたくはないのだが……マスターもそう言っていることだし、話だけでも聞いてみるか。


 俺はカウンターから出て彼女の方へ向かう、そして彼女の傍に立ってコホンと一つ、咳払いをしてから。


 「あの、すいません。僕で宜しければ話を聞きましょうか?」


 そう言うと彼女は顔をあげる。


 大きな赤い瞳には涙が溜まり、鼻を真っ赤にしている。


 「……いいんですか?」


 「え、ええ。お客様のお悩みを聞くのも仕事の一つですので」


 マスターの言葉を拝借して、俺は同席を求める。


 彼女が頷いたので、俺は座った。


 「あの、それで、早速なんですが……」


 「…………」


 「えっと、その……」


 「…………」


 「もしもーし、聞こえてますか?」


 「…………」


 俺の問いかけにも一向に話し出す気配がない。


 なんだこいつは、もう面倒くさいんだが。


 「えっと、ごめんなさい。私男の人と話すの苦手で……」


 「そうなんですか」


 サキュバスの癖に男が苦手って。


 ……なんだが悩みの原因が分かってきた気がする。


 「あの、お名前なんて言うんですか?」


 「ムウマといいます」


 「僕は多田 崇です。……それで早速なんですが何かお悩みなんですか?」


 「そ、それは……」


 そこまで言いかけてからまたも目に大粒の涙を溜めるムウマ。


 「さっきも言いましたけど、私男の人が苦手で……それでお仕事が全然上手くいかなくて……」


 ほら、やっぱりそうだろ?


 しっかしこんな破廉恥な格好をしておいて男が苦手っておかしいだろ。


 「……やっぱりおかしいですよね。サキュバスなのに。これじゃあお仕事首になっちゃう……」


 「それは大変ですね……」


 可哀想だな、サキュバスだからってこんな苦手な仕事をさせられて。


 仕事なんてただでさえストレスの原因なのに更に負荷がかかるなんて。


 俺も将来は就職する訳だしこんな目に合わないように気をつけよう。


 ムウマは大きくため息を吐く、その度に彼女のたわわな二つの実が揺れた。


 「男の人って何を考えているか分からないじゃないですか。それに私の事イヤラシイ目線で見てくるし。それが気持ち悪くて……」


 それは自分の格好が悪いだろ。


 とは言えず。


 「困りましたね……そんなんじゃお仕事もまともに出来ないでしょう」


 「そうなんです……だから私、成績がいつもビリで……」


 視線を落とし、シュンと落ち込む、ムウマ。


 なんとか力にはなりたいが方法が思いつかない。


 彼女は根本的にサキュバスの仕事が向いていないのだ。



 野球選手にサッカーをさらせても無理だし、物理学者に作家をさらせても無理なように人には向き不向きがあるのだ。


 しかし、彼女はサキュバス、生まれながらにしてもう職は決まっている。


 こればかりは仕方がない。


 どうしたものかと考えていると、マスターとめが合った。


 マスターも話を聞いていたのか、何か解決法を考えているようだ。


 するとおもむろにポケットから携帯電話を取り出す。


 そして。


 「私に君の悩みにのってくれそうな友人がいるから、そいつに電話してみよう」


 そう言ってマスターは両手で携帯を弄り、誰かに電話をかけ始めた。


 「もしもし、私だ。今暇か?……そうだ。今すぐ着て欲しい。……ああ、そうだ。ではまたバーでな」


 ブツリと電話を切って何故かやれやれと言わんばかりの表情を浮かべるマスター。

 

 「マスター、誰に電話をかけたんですか?」


 「君もよく知っている悪魔だ。……あいつ、また酒を飲んでいたらしくてな。困った奴だ。まぁ直ぐに来るらしいから、楽しみにしているといい」 


 はぁ、楽しみねぇ……。


 何だか凄い嫌な予感しかしないのだが。


 それから数分後。


 入り口のドアがバンと勢いよく開けられ、ベルが大きな音を立てた。


 そして入ってきた人物は……。


 

 「ハローっ!エブリワンっ!呼ばれて飛び出てこんばんわ~超絶怒涛のきゃわいい悪魔、アスモデウスちゃんでーすっ!」


 ハイテンションでやって来たのは例のオカマ悪魔、アスモデウスだ。



 …………ほらな、予感が当たった。

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