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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
白髪幼女といちゃらぶデート~天使の殺意と悪魔の悪戯を添えて~
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劣情は再び蠢く

 「マスターと触れ合うんですか?…………こんな場所で?」


 訳の分からないあまりにも突飛した話に、今まで考えていたことや思っていたことが一気にぶっ飛び、頭の中が真っ白になってしまう。


 「ああ、そうだ。何か問題でもあるか?」


 「まぁ、その……絵面的に色々まずいというか、何というか……」


 「そんなチンケなこと気にするな、ここは私と多田君二人きりの密室だぞ?」


 「でも、一切手で触るなって言ったじゃないですか。だったら無理なんじゃあ……」


 「ふむ、確かに言ったな。だが今日の君の頑張りを踏まえて考え方が変わったと言ったらどうだ?……それに手で触れられずとも他に方法があるだろ。違うか?」


 俺は吹っ飛んだ思考で色々断ろうとするも、弱い力で射た言葉の弓矢はマスターの前方でことごとく弾き返される。


 そして彼女の甘い言葉が、晒された身体が扇情的な光を受けながらからっぽになっている俺の頭に侵入していき、どんどんと思考を蝕み始めてきた。


 「ほら、そんな場所に何時までも突っ立っているな。早くこっちへ来て座りたまえ」


 そんな俺に対してマスターはいつ脱ぎ捨てたのか分からないが、華奢で肌色が露になった生足を組み、ポンポンっと自分が座っているベットの隣を叩く。


 その仕草が、言葉が、姿が俺の思考を蝕む速度を加速させ、まるで教祖の全てを信じきっている狂信者のように、電柱の明かりにただ群がるだけの羽虫のように、マスター(悪魔)の言葉に何も考えず俺は彼女の隣に歩いていく。


 何故こうも素直に従っているのかは俺自身でも分からない。ただ一つ言えることは理性や常識、倫理観では抑えきることが出来ない『何か』が俺を突き動かしているということだけだ。


 この感情は以前何処かで誰かに抱いたことがあったような気がするのだが、果たして何時だったかな?



  ――ポスン。


 

 誘われるがままにマスターの隣へと座った俺。当然のことながらマスターは俺より背丈が小さい為、俺が彼女を見下ろす、彼女が俺を見上げる構図になってしまう。


 「……こうして多田君が隣に居るにも久しい気がするな。ふむ、隣に並んでみると中々に男らしいじゃあないか」


 俺のことを見上げるマスターが、普段の憎たらしくそれでいてスマートな笑みではなく容姿相応のあどけなく愛らしい笑みを浮かべてくる。


 勿論これは確実に演技だと俺は見抜いている。マスターが悪口、皮肉抜きで俺を褒めるわけがない。きっと隣に座っているのが園長や国ヶ咲だとしても同じ台詞を吐くのだろう、と。


 しかしどれだけ頭で分かっていても彼女の笑顔や露出された素肌を見る度に心臓が不気味な音を立て、心の奥底にある『何か』を肥え太らせていくのだ。


 「む?」


 そんな肥え太った『何か』はまたしても俺の意思を乗っ取り、彼女の手の甲にそっと指を滑らす。滑りの良い肌、それでいて普段何でも器用にこなしているにも関わらず、短く、細く伸びた指。それらがまた心臓を動かす要因となり、動悸が激しくなって息苦しくなる。


 「あっ、すいません! 急にこんなことしちゃって……っ!」


 息苦しくなった俺は水面から堪らず顔を上げるように、とっさに手を離そうとした。


 だが、マスターがそれを許さない。離そうとした俺の手を、水面から浮上した頭を上から押さえ込むように逆の手でしっかりと掴み沈める。


 「多田君、あまりまどろっこしい真似はよしたまえ。手を添えるのならこっちだろ」


 そう言ってマスターは俺の手を掴んだままそっと自分の腰へと誘導していき、掴ませる。


 引き寄せ、抱きしめてしまえば粉々に崩れてしまいそうな彼女の華奢で繊細な身体が俺の腕に収まってしまった。


 その後暫しの沈黙が生まれ、俺をじっと覗き込むマスター。その沈黙とラピスラズリのように輝き、煌く両眼の視線が本当に水中にいるかのような錯覚に俺を陥りさせる。


 ……まずい、この状況は非常にまずい。このまま流れに身を任せてしまえば今後人生を送る上での大きな汚点、つまり後悔を生んでしまうのだろう。


 据え膳食わぬは男の恥という言葉があるがそんなもん原始的欲求に塗れ己の欲望に屈したクソ野郎の言い訳に過ぎない。


 俺はそんな輩とは違う。今目の前に出されたお膳は罠であることを理解し、それを確固たる意思で断ることが出来る人間だ。『普通に幸せな人生』を目標に掲げ、それに向けて努力が出来る人間だ。


 大丈夫、まだ『何か』を抑えられるだけの理性は残っている……俺はまだ大丈夫なんだ…………!


 「――またいつもの悪い癖が出ているぞ、多田君?」


 今一度自分を見つめ直し、しっかりと心境を整理したその時、俺の腕の中にいるマスターが、ポツリとそう呟いた。


 「悪い癖? 何ですかそれは?」


 「……君は何かを考え込んでいる時にな、いつもそうやって辛そうな顔になるんだ。そんな君を見ていると此方の気分も下がるよ」


 そう言ってマスターは俺の二の腕に顔を持たれ掛ける。モチモチの頬がフニャリと音を立てたような気がした。


 辛そうな顔、か。確かに俺はそんな表情を浮かべているのかもしれない。しかしそれは言ってしまえば当たり前のことだ。何かを考え、決断するという事は大変辛い行為なのだから。


 だからと言って俺は考えることを辞めてはいけないと思うし、辛い行為の一歩先に幸せがあるのなら決断するべきだとも思う。それが人生というのもので、人間というものだからだ。


 「ほらな、また辛い顔をしている。いい加減自分の気持ちに素直になりたまえよ……欲しいんだろ? 全てが」


 腕にもたれ掛かるマスターがそう言って笑みを浮かべる。持たれ掛っている為何時もの余裕のある笑みが少しばかりだらしなく見える所にまた胸が高鳴った。


 彼女が再び出した全てというワード、何を指しているのかは分からないが恐らくは契約条件の緩和と癒しのことだろう。


 マスターと触れ合えば彼女から課せられた挑戦は成功し、バイト先での労働基準を緩和して貰えることが出来る。そしてハグや抱き合うという行為にはストレス解消の効果があり、満身創痍な俺が欲していた癒しの条件にも合うだろう。


 しかし、それは単なる目先の事柄であり、決して俺が望んでいる物ではない。


 こんなことは分かりきっている筈なのに、胸の高鳴りは止まず、苦しさと切なさは収まらず、『何か』はモゾモゾと蠢いている。


 なんなんだ、この『何か』って奴は本当になんなんだ?


 「……ふむ、全く本当にどうしようもない男だな、多田君は」


 『何か』が蠢きを感じている時、腕の中のマスターもモソモソと動き始め俺の両ももに腰を下ろす。ほぼ密着状態となってしまった中、彼女の両手がそっと俺の無骨な頬に添えられた。


 「――命令だ、私を抱け、多田君。君が欲している癒しも、幸福も………そしてその劣情の捌け口も全て私が与えてる」

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