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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
白髪幼女といちゃらぶデート~天使の殺意と悪魔の悪戯を添えて~
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正しい答え

 三つ巴の激闘となった激辛早食い対決。泪は当然の如く自爆。アイニィは俺の『個人的』な恨みを買い脱落。


 残ったミカただ一人だけが、勝負に挑み続けている。自分のために、自分に勝つために戦っているのだ。


 そして。


 「…………ご馳走さまでした」


 ミカが最後まで丁寧にすくっていたレンゲを置き、今にも消え入りそうな声でこの勝負に正真正銘の終止符を打った。


 「お疲れさま…………まぁ、何? 大丈夫なの、色々と?」


 リングの外、客席でただ傍観を決め込んでいた俺。彼女に対してどんな言葉をかけて良いのか分からなかったので無難な労いと心配する言葉を選ぶ。


 「ええ、何も問題ありません。少し舌がピリついて火傷したみたいになっていますけど」


 そんな情けない俺にミカはぶっきら棒にそう答えた後、何かを訴えるような眼差しを此方に向ける。食べ終えた激辛坦坦麺より鮮明で、美しい紅の瞳がジト目ではありながらもしっかりとした意志がある。


 居た堪れなくなった俺は彼女から目を逸らし、眼差しに秘められている何かを考えるために再び思考を張り巡らすことにする。逸らした先にはアホ娘とアホ毛がテーブルに力無く横たわっているが今の俺には心配する余裕と時間がないし、恐らくは大丈夫なので暫くは見なかったことにする。


 俺が思うに候補は二つ、一つ目は最後まで食べきれたことをもっと褒めて貰いたいということ。


 クドいようだが、再度言わせて貰うとミカは自分の為にこの勝負に挑んだ。だから棄権させるような野暮な真似は止めたのだ。


 だがそれは勝負の話で、それが終わり勝利したのだから少なからず賞賛を浴びたいというのはごく普通で至極当然の欲求だ。


 そして二つ目、俺がアイニィのことを蹴り飛ばしたのが見透かされており、それに腹を立てているということ。


 勝負の最中に第三者が邪魔をする、しかも大事な局面で横槍を入れてきたものだからそれは怒るに決まっている。トランプタワーを組み立てているとき、最後の頂点を誰か通りすがりの奴がひょいっと適当に作りだしてしまったら誰だって怒るし、数学の難問を解いている際、後一歩の所で答えまで辿り着けそうな時に急に誰かが答えを教えてくれたらそいつに素直な礼を言えたりはしない。


 助ける、親切なんてのは時と場合によって毒になる。そいつが頑張っていればそれだけ、濃度が色濃くなり胸の奥底を焼き尽くすような苦しみを与えてしまうのだ。


 そして言葉を投げかけた奴はそいつが苦しんでいる様を見て悩む。自分は良かれと思って言った言葉、行為なだけに何故苦しんでいるのかが理解出来ない。それが段々と苛立ちや怒りに変わったり、自分がした行為は相手にとって毒なんだと悟った時、恐ろしい程の脱力感と嘆き悲しみに満ち溢れてしまうだろう。


 それだけ助ける、親切という事柄には危険性があり、取り扱うには細心の注意を払う必要性があるのだ。


 俺は今まで培ってきた普通の倫理観と価値観を基本ベースとし、どんな言葉が一番適切なのかを考える。しかし頭の中で思い浮かぶのはは酷く曖昧で抽象的な文字の羅列にしかならず、中々一つの言葉にはならない。


 何が良い? どんな物が似合う? 相応しい? 悩みに悩んでも答えは出ず、俺は相応しい言葉の代わりには到底なれないため息を零し、何気なくボックス席内の景色を見渡す。


 そこに広がっている景色には三人の女の子がそれぞれ映っており、ドジ、間抜け、アホの三重苦を背負いながらも自分の夢のために紆余曲折しながら頑張っているアイニィが未だに顔を伏せたまま横たわっている。


 彼女の隣では見ているだけで痛々しく数年後には黒歴史となるであろう中二病を患い、どんな馬鹿げた行動も可能性が極めて低い挑戦でも挑んでやると豪語した狼少女泪がソファーにもたれ掛かり、魂が抜けているかのようにぽっかりと口を開け馬鹿面を晒している。


 そして俺の隣には非凡な才能を持ちながらも、それ以上の才能を持っている姉に比べられる人生を過ごし、他人に認められる為、そして自分自身の為に俺という凡人なんかには到底理解しようがない努力を続けているミカが俺の答えを待っているかのように行儀良く椅子に佇んでいる。


 そんな三人の様子を見て、今度は笑みがこぼれてしまった。何故ため息ではないのか自分でも不思議だったがきっと恐らくこれが答えなのだろうと根拠の無い納得で考えることを終わらせる。


 「……なぁミカ、アイスでも食べないか? 俺が奢るよ」


 俺は徐にメニュー表に手を伸ばし、謎の激辛ラインナップから可愛らしいポップのデザート一覧を開く。

 

 「いえ、私は結構です。お腹も一杯ですし、それにこれ以上誰かに奢ってしまったら多田さんのお金が……」


 「ああ別に気にしなくていいから。そんなアイスも奢れない程金無し貧乏大学生じゃないからさ」


 「ですがこの勝負は私が提案したことなので自分で辛い物を食べたのに介抱されるような事をされるのはちょっと気が引けます……」


 「だからそういうの気にしなくていいんだって、俺がアイスを食べたかったからついでにミカの分も一緒に注文する。こんなの普通で当たり前のことに引け目取らなくていいんだよ」


 半ば強引にそう言い包めてやるとミカは分かりましたと呟いた後、少々申し訳なさそうにメニュー表を覗く。


 そう、こんなのは普通で当たり前、頑張ったミカに少しばかりの俺が出来るご褒美を上げたかった。何も始めから難しく考えたり、ベストな回答を導き出す必要なんか無かったのだ。


 普通の倫理観と価値観を基本ベースにして、半年間クソバイトで学んできたことを上乗せにした答えが辛い物を食べた後にアイスで舌を癒す。こんなごく普通の答えが一番俺が出来ることで、一番やりたいことなのだ。それだけの話だ。


 「ではバニラアイスでお願いします……」


 坦坦麺の後遺症……ではないが小さな指先を震わせながら写真のアイスを指差しミカが言う。


 「分かったバニラアイスだな………………で、お前らはどうすんの?」


 俺は向かえの席でぶっ倒れているアホ馬鹿コンビに声をかける。まぁあいつらのことは別に放っておいても一向に構わないのだが、公平じゃないだの後で色々文句言われても面倒くさいし。


 「…………チョコとイチゴとバニラの雪ダルマのやつ」


 「…………檸檬の氷塊(レモンブロックアイス)


 「雪ダルマって別の店の奴だからな? 後お前食いすぎだからバニラ一個にしとくから。そしてレモンシャーベットを格好つけて言うな馬鹿」


 一人ひとりにツッコミを済ませ、俺もバニラアイスを選択したところで注文をする。物の数分でやってきたアイスを食べてみると、どこにでも売っていそうな平々凡々で何とも無難なバニラの味が口に広がる。


 だけどそれが何故か分からないが何時もより特別美味しく感じる。それがおかしくてまた自然と笑みがこぼれてしまった。


 

   ×   ×   × 


 ああ、なんともお労しいことやら……! 凛とした表情が天使界隈一似合うミカ様が表情を曇らせながらあんな劇物を召し上がっている光景を目の前で見る羽目になるだなんて! 出来る物なら今すぐにでも代わりたい! そしてタオルで聖水が如く滴る汗を拭き取った後それを私の服と共に選択したい! 勿論柔軟剤は使わずにだ!


 「…………ウリエル、心の声がうるさい。少し自重しなさい」


 まるで拷問にでも処されているような苦悶を浮かべるミカ様のお姿に嘆いているとラグエルさんにそう怒られてしまった。自重するとかしないとかアンタに一番言われたくないんだよ!


 「いや待って下さいよラグエルさん! ミカ様があれだけ苦しんでいるというのに我々は監視しているだけというのはおかしいんじゃあないですか!? 今すぐにでも助けにいってあの多田の首を刎ねないと!」


 「だから黙ってって言ってるでしょ? 今冬コミに使えそうなアイデアと表情を模写出来るチャンスがやってきてるんだから」


 私の決死の談判にも関わらず、ラグエルさんの訳の分からない理由でそれを一蹴されてしまった。因みに今彼女は人間界で主流となっているスマートフォンを三倍大きくした物に、ペン型のアイテムで使い物凄い勢いで何かを書いている。何を書いているのか訊ねたところ「絶対に教えてあげない」とのことだった。


 「はぁ……Vも何処かへ消えていってしまったし、これから本当にどうしようか……」


 「…………Vちゃんのことなら気にしなくていいわよぉ、ちょっと次の暗殺に必要な仕込みと調教に時間がかかっているだけだから」


 先が見えない不安が思わず口から漏れてしまい、それを聞いていたAがそう答えてくれた。仕込みと調教って暗殺にどう関係してくるんですかねぇ……。


 「それよりウリエルちゃん。あの光景を見て貴方どう思うかしら?」


 「あの光景と言いますと、ミカ様達の席の光景ですか?」


 「そうよぉ、なんだかちょっと良い雰囲気だと思わない? あたしも年を取ったのかしらねぇ、あんな素敵な光景を見てたらお尻の穴が緩んできちゃいそう」


 「それを言うのなら涙腺でしょうが……」


 全くあれの何処にそんな感動的な要素があるのだろうか。ガキ臭い悪魔二人がのたうち回り、ミカ様が苦痛を虐げられ、それを多田が眺めているのみ。もし仮にラグエルさんがあの光景をスケッチして売り物にしようとしているのだとしたらセンスの一欠けらもないな。


 「――年を取った。今ここに居る貴方は老い耄れたただの残骸。自分でそう認めるのね?」


 尚もスケッチを続けているラグエルさんがいつも通りの能面顔でそう呟く。その言葉にAはただ紫色の唇を上げるのみで何も答えようとはしなかった。


 一体この言葉の真意は何なのか、この二人はどんな関係性があるのか。多田 崇暗殺を目的としたこの計画には何かもっと深く、闇に包まれたような壮大な裏側が隠されているような気がし始めてきて果たして自分が正しい行いをしているのかさえ疑ってしまう。


 …………いいや、大丈夫だ! 絶対的正義の神に従い、親愛なるミカ様の為に行動をしている私が間違っている筈が無い! 私は正しい! 


 待っていて下さいミカ様! 必ずこの私めがお救いいたしますので今しばらくはご辛抱をなさって下さい!

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