表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
白髪幼女といちゃらぶデート~天使の殺意と悪魔の悪戯を添えて~
116/153

試される

 決して知名度が高くないこの動物園に秀才天使、馬鹿、アホ悪魔達が顔を合わせる。


 こんな確率は宝くじの一等並み、まさに奇跡でそれに立ち会うことが出来た俺は何て幸運の持ち主なんだろうか……。


 「さて、これで役者は全て出揃った。そろそろおっ始めるとしようじゃあないか。崇奪還を名目にした天使と悪魔の聖戦(ジ・ハード)をね」


 「ちょっと! あんまり訳分かんないこと言わないでってさっき言ったばっかりじゃない!……それに人前でおっぱいとか……は、恥ずかしいと思わないわけ?」


 「……ふぅ、全くやれやれ。こうも話が通じないと同じ種族なのかさえ疑ってしまうよ。僕は何も難しいことも恥ずかしいことも言ってない。そう感じるのは君がお間抜けで胸のことばかり考えている痴女だからなんじゃあないかい?」


 「誰がお間抜けですって!! 変な髪形してて訳分かんないこと言うアンタの方がよっぽどお間抜けじゃない!」


 「君みたいなアホ毛女に言われたくない!……ふっ同族殺しは気が進まないがまずは君から地獄に送り返してやろうか? このマルコシアスを侮辱した罪、償ってもらおうじゃあないか!」


 「あぁん? いいわ、やってやろうじゃない! かかって来なさいこの片目女ぁっ!」


 勝手に喧嘩を始めた馬鹿泪と阿呆アイニィ、それを冷ややかに見つめるミカ。俺はこの状況が嫌になったので空を仰いだ。


 最悪だ。俺はなんて運がない人間なのだろうか。多大な幸福も要らない代わりに不幸に巻き込まれない人生を送りたいのに不幸の方に比重が傾きすぎじゃあないだろうか?


 「…………多田さん」


 そんな中、ミカが俺のパーカーの裾をつまみ、小声で名前を呼ぶ。しっかりと彼女の声を聞く為に屈んで、耳を傍まで近づけてから。


 「あの二人を置いてもうここを離れましょう。今度は虎さんが見たいです」


 眼前で子猫のじゃれ合いのようにお互いが寝そべりあいポコスカ喧嘩をしている彼女達に愛想が尽きたのか、はたまた本当に虎が見たいのかは定かではないがミカはそんな提案をしてくる。


 「そうだな、こいつらの事は放っておくか」


 「ちょっ!? ちょっと待ちなさい! こんな馬鹿と一緒に置いてかないでよ!」


 馬鹿とアホから踵を返し、次なる場所へと向かおうと思っているとアホのアイニィが俺達の足を止める。


 「おいおい、馬鹿とは随分な言い草じゃあないか……だがまぁ君の意見には賛同だな」


 振り向きたくは無いが仕方なく後ろを見れば顔に引っかき傷を作り半べそのアイニィ、そしてもう既に意気消沈の泪がよぼよぼと立ち上がりながら言う。


 「僕にこのアホ女の相手を任せて自分は崇とデートに洒落込むなんて都合が良すぎるんじゃあないかい? それとも負けるのが分かっているから逃げているのかな? この天使殺し(エンジェルスレイヤー)の僕からね」


 「だからあんまりミカのこと煽るなってこの馬鹿ッ! ミカもミカで落ち着こうな? 天使が舌打ちとかしたらイメージ下がるからな?」


 「うげぇっ指擦り剥いちゃって血出ちゃった……多田ぁ絆創膏持ってない?」


 「持ってるわけないだろ。唾付けて治しとけよ」


 「それ迷信だって言ったのアンタじゃない! うぅ……このまま血止まんなくて死んじゃったらどうしよう、ぐすっ」


 「あーもうっ! どいつもこいつも面倒くさいんだよくそっ!」


 俺の気苦労も知らず好き勝手を横行する三人に堪えきれず、つい声を上げ髪の毛を掻き毟ってしまう。これで折角整えた髪型も台無しだ。まぁこのデート事態既に半壊してるんだけどな! くそっ!


 全く、なんで毎回俺はこんな酷い目に遭わされるのだろうか? 何か神様に嫌われることでもしたただろうか? 普通の幸せを願っているだけの俺がそんな罰当たりな行為をしでかす筈がないのに、一体何が癪だって言うんだよ?


 「多田ぁ……どうしようこれぇ……」


 アイニィが目に思い切り涙を浮かべながら近づいてきて血が出た箇所を俺に見せてくる。見ると人差し指の爪の付け根から一滴にも満たないほんの僅かな血が浮き出ている。


 「分かった、もう分かったから。ほら、これ使えよ」


 俺はいつもの様に持参したハンカチを彼女に渡す。彼女はそれを受け取ると大事そうに指を包み、逆の手でギュッと握る。別に止血用に渡した訳ではなく血を拭き取るためだったのだが、一先ず泣き止んだのでそれはそれで良しとしておこう。


 ほらな? 神様今のちゃんと見たか? こんなどうしようもない阿呆アイニィにも俺は優しく構ってやってるんだぞ? こんな普通に真面目好青年な俺をどうして試すような真似をしたがるんだ? 相手が悪魔なのは多少目を瞑って頂きたい箇所ではあるがそれでもやはり――。


 「――試すような真似、か」


 心の中で神様に零した愚痴、その言葉の中で一つ、妙に引っかかる物がある。俺はそれを口にした後、依然として無言の威圧を放つミカ、それに段々と怖気づき、後ずさりしていく泪、そして握った指を心配そうに見つめるアイニィと順に眺めていき、ある考えをまとめ上げる。


 俺は今本当に試されているのではないか、そしてこんなクソみたいな状況を作り上げたのは神様ではなく金髪悪魔幼女のマスターなのではないかと。


 何故こんなことをするのかはまだ分からない。しかし、マスターは意味の無いことは絶対にしないのできっと隠された意味が秘められている筈なのだ。あの夏の夜の様に、俺をまた手のひらで転がそうとしている訳だ。


 だったら俺のやるべき事はただ一つしかないだろう。


 「……三人とも、ちょっと俺について来て。ここじゃあちょっと話すのも無理だから落ち着いた場所に行こう」


 俺はそう提案に、三人の了承を得るまで待つ。


 「多田さんがそう仰るのなら私は構わないですよ?」


 まずミカが俺の声掛けに反応し、平素通りの落ち着いた顔と声音に戻ってそう答えた。次に俺はアイニィの方に顔を向けると、唇をもごもごと噛み締め渋い表情を浮かべていたがハンカチと俺の顔を交互に見比べた後ピョコンと生えたアホ毛を縦に揺らした。


 取りあえず、二人は大丈夫だな……さて、最後の奴は。


 「ついて来いだって? ふふっほざくのも大概にしてくれよ。漆黒の狼であるこの僕が簡単に従うとでも思っているのかい?」


 「あっそ、お前なら絶対そう言うと思ってたよ。じゃあ俺達もう行くからな」


 再び踵を返し、動物園のマップを広げながら条件に合う場所を探す。俺としてはついて来ない方が馬鹿が一人少なくなる分楽で助かるし。


 「待って! 待つんだ! 僕も行く! 僕も行くんだよーッ!!!」


 少し歩いた所で背中にドスンっと衝撃が走り前に転びそうになったが寸での所で堪える。衝撃の正体は言うまでも無く、何時ぞやの様に腰に手を回し、張り付いている孤高の狼少女だ。


 「…………まったく、崇のそういう所、ほんとズルいと思う」


 「はいはい、分かったからもう離れろ。歩きづらいんだよ」


 今度は俺の言うことを聞いてくれる泪は回した腕を俺から離し、獣耳と肩をしょんぼりと下げながら俺についてきた。



 これで一先ずはオッケー。後の事はその場で考え、行動し、俺の、俺らしい解決方法で乗り切ってやる。何時までの巻き込まれるだけで終わる俺では無いことを、マスターに証明させてやるのだ。


 そう心の中で意気込みつつ、そこ等で檻に入っている動物よりも珍しい格好をしている女の子三人を引き連れ、群集の中を進む。


 その物珍しさに群集の目が集まったので、早足で歩いていたことは格好悪いし恥ずかしいので内緒にしておいてくれよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ