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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
白髪幼女といちゃらぶデート~天使の殺意と悪魔の悪戯を添えて~
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殺し屋『AVコンビ』

 協力者と自らを名乗る黒服二人組み。そんな奴らに私は警戒を解くことはなく、依然として弓矢を構える。


 当たり前だ、初対面でしかも天使である私に対し傾斜(けいしゃ)が大きすぎて体が仰け反るのではないかという程見下してくる金髪幼女。そしてラグエルさんとは逆の女男……と言う言葉では表現仕切れない何とも異質な奴二人組みを信用する奴は誰もいない。今こうして矢を向けているにも関わらず金髪幼女は退屈そうに欠伸をしているし、異質な奴はウィンクなんかを送ってきている。ほんと何なんだこいつらは?


 「構えを解いて。二人の言っている事は本当よ」


 そんな中いつの間にか鼻血を拭き取ったラグエルさんが私の手首を掴んでくる。掴まれた手首からはべったりとした何かが付着し不快感が広がってるのだがピリついた雰囲気が壊れるので訊ねることは止めて置く。


 「この方達は私が雇ったの。確かな実績のある殺しのプロよ」


 殺しのプロ……つまりこのトンチンカン二人は殺し屋という他者の命を摘み取り、それを金に換える糞畜生の様な商売をしていると言う事だ。


 「紹介が遅れたわね、あたし達、こういう者よぉ」


 異質な奴が黒ジャケットの袖口という可笑しな所からニュルリとこれまた可笑しな効果音を立てて名刺を取り出し、私に差し出す。


 そこに書かれていたのは『安い、上手い、早い』と言うキャッチコピーに『090‐4545‐1919』と意味深な電話番号。そして極めつけは……。


 「AV(エーブイ)コンビ……?」


 非常に不愉快で下品なコンビ名を口に出してしまうと紫色の分厚い唇がニヤリと斜め上を向く。


 「そうよぉ、あたしが『A』でこっちのかわい子ちゃんが『V』って言うの」


 「おい、私の頭文字の発音は『V』ではなく『B』なのだが?」


 「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない、あの天使ちゃんも名前だけで釘付けになってるでしょ? きっと文字の羅列だけでイケるようなムッツリスケベなのよ。ねぇ貴方、あたしと一緒に電話番号音読してみない?」


 自分のコードネームに不服だったVは少しばかりムッと頬を膨らませ、Aはシコシコなんちゃらと口ずさみながら筒状の物を上下に摩るようなジェスチャーをしてくる。こいつら! 好き放題やりやがって! 仮にも殺し屋なのにそんな表情豊かでいいのか? なんならうちのラグエルさんを見習って口数少なく淡々と仕事をこなして貰いたいものだが……。


 「驚いた……まさか貴方にそんな性癖があるだなんて」


 チラリと彼女の方を向いてみるとそんな事を呟き、能面顔を若干朱に染めながら、恥じらいを含んだ好奇の眼差しを私に浴びせてくる。鼻血を垂らしながらミカ様を隠し撮りしている貴方だけには絶対に言われたくないんだよ! 


 「……ラグエルさん、何故殺し屋なんか雇ったんですか? あんな奴我々だけで十分でしょうに」


 殺し屋AVコンビにもどうしようもないラグエルさんにも色々言いたいことが溜まっているのだが自転車のブレーキをギュッと握るように自制し、本来話すべきことを切り出す。


 少なくとも今回のミッションは暗殺だ。それならより少数で実行するのが基本、それに命より金を選ぶ殺し屋だとしてもこんなトンチンカンな奴らと手を組むというのも疑問すべき点である。


 尤も、多田 崇如きの人間にこれだけの人数と労力を使うのが何よりも腹立たしい……!


 私が折角話を正常に戻したのに対し、ラグエルさんは密かに眉間に皺を寄せ、AVコンビは肩を透かしながらせせら笑う。


 「確かに、多田君の一人や二人君達の手にかかれば秒単位で殺せるだろうな……それで後処理はどうするつもりかね?」


 せせら笑いの延長線でVが私にそんなことを訊ねてくる。


 「後処理? そんなもの死体ごと天界へ運べば何も問題はないでしょう」


 「いいや、そうじゃない。目の前で多田君を殺されたミカに君達はどうやって言い訳をするつもりかと聞いているんだ」


 「ぐっ! そ、それは……」


 このVの問いかけに私は言葉を詰まらせてしまう。そんな様を見て彼女は容姿には似合わない憎たらしくも余裕のある笑みを浮かべた。


 今回の暗殺計画に置いて一番のネックが正にそこ、多田を始末した後、ミカ様になんと説明すれば良いのか私はまだ決めきれずにいる。


 理由は皆目検討もつかないが昨日の動画や今日の言動、仕草からミカ様はクソ人間である多田に少なからず好意を抱いている。そんな相手を目の前で、しかもあろうことか部下に殺されてしまえば深く悲しんでしまうことも容易に想像がつくことだ。


 多田 崇、又は彼と繋がりがある悪魔がミカ様に洗脳をかけて操っている可能性もまだある、しかしその説を裏付ける決定的な証拠がなく、何より昨晩彼女が見せていた可憐で美しい笑顔を否定することになってしまう。


 だからこそ、ラグエルさんは殺し屋なんかを雇ったのだ。


 「うふふ、どうやらその顔をビンっ! ときたようね。お察しの通り、優柔不断なチェリーボーイの貴方達の代わりにたかしちゃんをイかせてあげようってわけ」


 良く分からない擬音語を混ぜながらAはそう言った。要は外部の輩が多田を殺せば言い逃れはおろか私達は無実無縁で事を完結させることが出来るのだ。


 この作戦は私とラグエルさんにはメリットが十分にあるが、結果としてはミカ様を悲しませることになる。しかし、やるしかないのだ。平素通りの麗しく気高い天使であるミカ様を守る、維持させるためには近づく羽虫は全て叩き潰さなくてはならないのだ。例えそれが彼女のお気に入りである(パピヨン)であっても。


 「では早速仕事に取り掛かるとしようじゃないか。情報によるとあいつ等は目的地まで電車で向かう予定だ。そこでまずAが仕掛ける」


 「ちょっと待って下さい! 電車で動くのはまずいのではないでしょうか?」


 実行に移るべく、事の概要だけ伝えてさっさと向かい始めたAVコンビを私は呼び止めた。凄腕なんだかは良く知らないが電車という人目が多い場所で殺すのは流石にリスキー過ぎるのではないだろうか?


 「んもう、心配しなさんなって。車内でたかしちゃんがあたしの凄テクで盛大にイく様を貴方達はゆっくり堪能しておけばいいのよ」


 そう言ったAはグットサインの代わりに親指を拳で固めた人差し指と中指の間に突っ込む謎のサインを私に送り、現場へと足を進め始めた。


 

 「……ラグエルさん、本当にあの二人の事信用していいんですか?」


 彼らとの距離が少しばかり離れた所で私はラグエルさんに耳打ちをする。腹を括ったつもりだが今ひとつ信用することが出来ないからだ。


 「大丈夫よ、あの人達とは以前からミクシィ親交があるの」


 「…………ミクシィ?」


 殺し屋と親交があるのは天使として如何なものかという疑問もあるが、まずはそのミクシィとやらが気になったので聞いてみる。


 「そう、そこで私はポエマーの神と呼ばれてるの。因みに内容は教えてあげない」


 そう言ってラグエルさんは私からの追及から逃れるようにAVコンビの後を追っていった。



 底が見えない謎過ぎる殺し屋、そしてラグエルさんの発言により一度括った腹が緩みそうになったが、ミカ様の笑顔を思い出し再び括り直す。


 ミカ様、待っていてください! 必ずやこのウリエルが貴方の平穏な日常を取り戻してみせます!

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