主【上】
見慣れた夜の田舎道を、歩いていく。
彩香は1人で残しておくのは危険なので、場末や斬咲がいるうちのチームと合流させる事にした。
ーー親父が死んだ実感が湧かない。
遺体を見ていないからだろうか、それともあまりのショックに精神を刈り取られたのだろうか。
お袋が死んだ時はあんなに泣き喚いたのに。
ゾンビは頭部を破壊するまで攻撃を止めない。
という事は、頭部を破壊された親父の遺体はさぞかし見るに辛いものになっているのであろう。
それを俺に見せなかったのは、彼らなりの優しさなのだろうか。
「着いたぞ、この辺りだ」
斬咲が歩を止めると、その付近一帯は空気が緊迫しているような…そんな気がした。
俺が警戒していると、突如斬咲が飛び退いた。
斬咲が居た地点の背後の電柱には黒い矢の様なものが刺さっている。
続けざまに二本、三本と矢が降ってくるが斬咲はそれを全て避けた。
「ほう…私の矢による不意打ちを避けるとは…いい反射神経だ」
暗闇の奥から黒いローブを纏い弓矢を携えた大男がゆっくりと歩いてくる。
見た目は人間そのものだが、纏うオーラが明らかに違う。
素人にも解る、禍々しい何かを発していた。
「貴様の腕が悪いだけだ」
斬咲は挑発するが、今のは明らかに斬咲が凄いだけだ。
「おっと、自己紹介が先か?私はアンデッド達の主…」
彼が自己紹介を終える前に銃声が響く。
場末がサブマシンガンをぶっ放したのだ。
距離が遠く狙いが定まらなかったのか、弾丸は頭部に当たらず腹部や肩を掠める。
「馴れ合いはいいからさっさとくたばれってんだ、ザコが」
場末が叫ぶ。
「気持ちのいいご褒美をありがとう、お返しに絶望にリボンを掛けてプレゼントするよ」
黒ローブの彼がそう言って取り出したのは、巨大な鎌だった。
「この大鎌からは何人たりとも逃れることはできない、さあ、気持ちのいい叫び声を上げてごらんよ」