戦線
深夜に装甲車が人気の無い車道を走る。
端から見れば異様な光景だが、深夜だからこそ人目に付かず好都合なのだろう。
移動中、車内で色々な話をした。
場末は奥さんと娘をゾンビに襲われて亡くした事、斬咲には生き別れの妹がいる事、俺の家族は父と妹だけだと言う事。
車内では、主に場末がシリアスな話の合間にジョークを混ぜながら話を振ってくれたお陰で緊張が少し和らいだ。
「着いたぞ」
現場に到着する。
俺の家の近所、よく見慣れた光景だ。
しかし、見慣れないものがちらほら伺える。
破壊された街灯、道端に倒れピクリとも動かない男性、そして、街を彷徨う無数の人ならざる者。
「チッ…数が多いな。斬咲、頼んだぞ」
場末が斬咲にそう伝えると、斬咲は黙って助手席のレバーやらボタンやらを弄りだした。
刹那、機銃の掃射の様な音が聞こえた。というか装甲車に搭載されている機銃を掃射している。
それは亡者共を正確に直撃で狙い、奴らの頭を吹き飛ばしていった。
頭部を失った亡者は鮮血を吹き出しながらその場に崩れ落ちる。
ゾンビの血が赤い事を俺は初めて知った。
「流石の精度だな、この辺の雑魚は粗方片付いた、後は残りの駆逐だ」
場末は俺たちにそう伝えると、後ろ席を向き俺に手招きで「武器を渡せ」の合図をする。
俺は段ボール箱ごと抱き抱え、場末にそれを渡す。
段ボールは重く、中に入っている物の重みがしっかり伝わった。
場末は段ボールからサブマシンガンを取り出し、斬咲はサバイバルナイフを取り出した。
「俺はどの武器を使えば…」
「そうだな…斬咲、ちょっと叶海を見ろ」
場末の指示通りに斬咲はじっと俺を見つめる。
無口な男にここまでじっくり見られると、何もしてなくても疚しい事をした気持ちになってくる。
「こいつは問題無い」
斬咲がそう告げると、場末は「そうか」と言って俺に黒光りする拳銃を手渡した。
ゲームでは見慣れた代物、しかし実物は重く、予想以上に光沢があった。
「斬咲には不思議な力があってな、視界に映る相手の意図を少しだけ読めるんだ。ま、ほんのちょっとだけどな。相手が強く思ってる事があったらそれくらいなら斬咲にはまるっとするっとお見通しって訳だ」
なるほど、これが本当なら事務室を出る時の斬咲の発言も合点がいく。
そして「お前さんがテロリストで武器を悪用する可能性も斬咲以外には否定できないからな」と付け加えた。
「さあ、ここからはこの装甲車を使えない狭いエリアの雑魚を蹴散らしにいくぞ。スリーマンセルのミッションだ、叶海は俺と斬咲に付いてきて援護してくれればいい」
「わかりました」
ガチムチの場末、心が読める斬咲、そしてFPSで鍛えた眼を持つ俺。このチームなら無敵だ。
「叶海の家の周辺から先ずは漁る、付いて来い」
場末は俺たちにそう指示し、俺の家へと向かう。
その道中で、奴らを発見した。
その数は5体、まだ此方に気付いていない様だ。
場末は無言でサブマシンガンを構え、発砲する。直撃、場末が放った弾丸は確実に奴らの腹部や肩等に当たった。
しかし奴らは倒れない、此方に気付いて動き出した。
その動きは…ーー思っていたより早い!
此方に襲いかかってくる奴らは人間の陸上オリンピック選手並、いや、それ以上のスピードで走ってくる。
走り方は肩をだらんと落として無気力な感じに見えるのだが、人は見かけに寄らず、もといゾンビは見かけに寄らず。物凄いスピードで間合いを詰めてきた。
「好都合よ」
場末はそう言うとサブマシンガンの引き金を引く。
二波目の場末の弾丸は奴らの頭を吹き飛ばしていく。
崩れ落ちる化け物、しかし場末の弾丸で倒れたのは3体、残りの2体がもうすぐ側まで迫っていた。
「斬咲!」
場末が叫ぶと同時に斬咲が動き出した。
ナイフ片手に独特なステップで化け物との距離を更に詰めて行く。
斬咲と化け物との距離がほぼゼロになった時、斬咲はナイフで化け物の頭を一刺し、化け物は一撃で倒れた。
しかし標的は後一体残っている。
残りの一体が拳を振り下ろす。
その拳はボクサーもビックリな超スピード、それを回避する辺り斬咲の運動神経は神がかっているのだろう。
振り下ろされた拳はそのまま地面に当たる。
すると、路面にヒビが入った。とんでもない攻撃力だ。
体勢を立て直した斬咲はまたもナイフの一突きで化け物を屠る。
これでこの化け物集団は全滅だ。
そしてここで一つ疑問が浮かんだ。
ーーあのゾンビには、ひょっとしたら徒党を組むくらいの知性があるのだろうか?