緊急
「今日の現場はここだ」
場末はスマホを取り出し、マップアプリを開いて指を指す。
その場所は…
「ちょ、ちょっと待ってください」
俺は取り乱す。
だって、そこは…
「俺の家のすぐ近所じゃないですか!」
場末が示したその場所は、間違い無く俺の家の近所、しかも指さした地点は丁度俺の家だ。
親父と妹が危ない。
「ほう…貴様、家族と暮らしてるのか?」
これまで無口を貫いていた斬咲が口を開く。
その眼差しは鋭く、それでいて悲しそうな目だ。
「はい…これまで無職だったので…」
とか言ってる場合じゃない、すぐに向かって家族を守らなければ。
「斬咲!叶海!直ぐに向かうぞ、叶海の家族が襲われる前に片付ける!」
場末はそう叫ぶと、事務所の扉を荒々しく開ける。
「駐車場は裏だ、急げよ叶海」
そう言うと場末は大きな背中を俺達に向けて車へ向かった。
斬咲に声を掛けようと思ったが、俺が声を掛けるよりも早く斬咲は動いていた。
「貴様…俺に呼び掛けようと思っただろ、プロをナメるなよ」
的確すぎる。斬咲の観察眼はプロのソレだった。
そして何より、短い言葉が重かった。
俺も急ぎ駐車場へと向かう。
駐車場には機関銃を搭載した装甲車が1台と、ハイエースが1台止まっていた。
場末が装甲車の運転席の窓から俺に声を掛ける。
「助手席は斬咲、叶海は後ろだ。家族を助けたきゃ早く乗れ」
そう言われバタバタと掛け乗る。
車内を見渡すと、俺が座っている隣に口の開いた段ボール箱があり、そこに銃器や刃物が入っているのが薄明かりの中でぼんやりと見えた。
「飛ばすぞ!」
車が揺れ動き、俺は体勢を崩すがすぐに立て直す。
この時俺は1つ思っている事があった。
ーー依頼を受けて出動という事は、既に誰かが襲われた後なのでは?
悪寒が体の中心を貫く様に、渦巻く様に、俺の中に芽生えた。