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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『私の悩みと大学祭の悩み』

 バルーン特訓から数日経って。

 平日のある日。

 私とアーヤはテープルを挟んで夕食をとっていた。今日のメインは豚の生姜焼と千切りキャベツ。あとは白ご飯と味噌汁とお茶である。

 私は生姜の匂いが漂い醤油が滴る豚肉をパクっと食べる。


「美味しい。アヤメの作る料理は本当に美味しい」

「褒めても何もでないよ」


 相変わらずの素っ気なさである。黙々と目の前のキャベツを食べるアーヤ。

 私は少しだけ不貞腐れながらも、ホクホクと湯気が立つ白ご飯を箸で摘まみ、パクっと口に含む。美味しい。口の中に残った肉の油と醤油と生姜の味が見事に混じり合い味が躍る。

 やはり肉とご飯は最上級の組み合わせだと思う。

 黙々とご飯を食べていく。

 モグモグモグモグモグモグ……。


「む」


 噛むのをやめて箸を止める。


「どうしたの?」


 すかさず私の変化に気づき、千切りキャベツを摘まむ箸を止めて私を眺めるアーヤ。

 どうしようか。どう誤魔化そうか。

 考えていると、すとんと降りてきたもうひとつの悩み事。一旦それにすりかえて話をする。


「実はね。バルーンの練習はしているけどね。実際大学祭の時にどうするべきか具体的な案が思い付かなくてね」


 アーヤは眉をひそめたあと、箸を置いて口を平べったく閉じて考える。


「んー。それはただ作ったバルーンを売るじゃダメなの?」


 それはそれでも悪くはないとは思うけど……。


「作ったバルーンを売るというのが嫌。タダで渡したい!」

「あーね」


 アーヤはクスッと笑う。ちょっとだけムッとする私。


「何で膨らむの?」

「何か、ディスられた気がする」

「別に? カスミンっぽいし、安心したという笑みだよ」


 お得意の言葉とにやけ顔である。慣れたけど一度ぐらいは優位に立ちたいと思ってしまう。


「いいでしょ。特に子供から金とりたくない」

「そうだろうね。元々は細長い風船、人の手で作ってアートにはなるけど、代金をとるのが私も気が引ける。プロでもないし」

「そうそう。プロじゃないし」


 世の中にいる大道芸人はパフォーマンスをしてお金を貰っている人たちがいる。その人はプロだ。その道のスペシャリストだ。それで生活しているし仕事だ。だから出来ている。でも私達はまだまだひょっ子だから、フリーマーケットいえどお金をくださいとは口が割けても言えない……。

 エリならさりげなく言いそうだけど。


「でもカスミン。今はその考えは良いことだけど、卒業してからプロになるのなら、その考えが障害になるかもしれないと覚えておいて」


 アーヤの言葉が針のように胸に刺さった。二本も。


「そ、そうだね。でもそれはプロになった時に考えるよ。今は今の気持ちを大事にしたい」


 その時が訪れるといいな。

 

「それもそうか。まあ一応頭の片隅にでも置いていて」

「わかった」


 そう言って、気を紛らわすために、さっと箸を取って、ご飯に手をつける。そして口に含む。舌に味が伝わらない。


「あ。バルーンの話はまた後にする?」


 アーヤはキャベツを咥えたまま私に答えを求める。私はこくんと頷いた。

 アーヤは、生姜焼きの肉をご飯の上にのせて食べ始めた。おいしそうに頬に手を添えていた。

 対して私は味気ないごはんの残りを機械のように処理したのだった。

 

 

 諸々家事等終わらした後、綺麗に片付いたテーブルの上に白い紙一枚とペンを一つ構えて、私とアーヤは向かい合って座った。

 そして大学祭のバルーンについて、二人で考え始めた。

 正直胸にはまだ重い岩がズーンと残っているが、今は胸に押し込めてでも考えなくてはいけない。


「あのスペースに十人も入れないよね」


 私の懸念である。

 ここで軽く説明するけど、私たちがもらったスペースは、学校の体育館にある標準の長テーブルの長さで、幅は大体三つくらいのスペースである。

 要はテーブルを一つ立てると、その後ろに人が三人くらいしか入るスペースしかないのである。ということは全員はまず無理である。


「そこはシフト制にすればいい。大学祭に回りたい人もいるし」

「……あ。そうか」


 あっさり解決した。


「全員出したい気持ちもわからなくもないけどね」


 さりげなくフォローを入れてくれるアーヤである。そして紙にシフト制と書き込む。


「シフトは私たちで考えるとして、具体的にどうするか?」


 アーヤはシャーペンをクルッと回してから、ペン先を私に向ける。

 私はフムと考える。正直バルーンの作品を見てこれがいいというのを渡すのも、味気ないし。大道芸の人って確か。


「んー。本格的にするのなら実演かな?」

「実演かあ」


 アーヤが難しい表情になる。


「どうしたの何か不満?」

「いや。あれ。要は来てくれたお客様と話ながら作るあれだよね。そうなると作るだけでなくて、会話能力が必要だからね」

「あー。会話能力ね」


 私とかアーヤはそういうのはまあ、それなりに出来るからいいけど、苦手そうな人物が何人かいるし、特に箱の演技の後輩がね。


「でも、訓練としたほうがいいと思う。今後のために」

「んー。確かにこれからも人前に立つなら、慣らすべきことだと思う。それに社会に出たとき、困らないためにも」


 だがアーヤは、決めかねているのか腕を組んだまま考え込む。


「もしかしてあと三週間ということに引っ掛かっている?」

「それかな。それに話ながらするということは、バルーンの作品を完璧に出来てないとね」

「あー」


 確かにそうだ。ただ作るだけでもまだ苦戦している人がいる中、会話をしながら作るというのは素人からすれば難易度が高い。

 けど。


「でも子供は話ながら作られていく仮定とか見るの絶対興味惹くと思う。子供以外でも初めて見る人ならできる仮定は絶対面白いって」


 私はテープルに身を乗り出していた。

 うーんと考え込むアーヤ。しばらく悩んだあと。


「確かにね。やるからにはそれくらいやらないとね。やってみようか」


 と、同意を貰えたのである。

 私はパッと表情を明るくした。

 それと同時に、アーヤはパッと手を私の前にかざす。


「だけど問題は場所」

「あー」


 そこが問題である。キャンパスのメインの通りから更に離れた建物の地下一階、その入り口から一番遠い隅っこの場所。

 実演するとはいえ、そもそも目につかない限り人が来ない。


「テーブルに紙だけぶら下げて、バルーンアートしてますとかしてもね。たぶん見えない気がする」

「そうだね」


 当日なんて人がいっぱいである。手前で混雑したら奥まで絶対に目につかない。


「あー。何かインパクトあるものを置きたいけど」

「例えば?」

「それが思い付いたら苦労しないよ」


 テーブルに静かに落ちていく私。

 バルーン出し物、前途多難です。

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