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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『分かりやすい僕』

 次の日。

 昨日とはメンバーを変えてひたすらバルーンアートを作り続けていた。そして……。


「やっとまともなのができた」


 僕はため息混じりに出てきた達成感に合わせて、完成したウサギのバルーンを持ち上げた。不揃いな耳もなく後ろにしっぽがあり、バランスのとれたバルーンのウサギだった。


「お疲れさん」


 隣に座るカスミン先輩は、器用にクマのバルーンを作っていた。僕がウサギに苦戦している間にもう他の種類のを何個も作っていた。

 今やっとウサギができた自分を思うと何か先が思いやられる。


「カゲル! 大丈夫だ! 俺はまだウサギ微妙だ!」


 堂々と不揃いなバランスのウサギを見せるてるやん先輩。先輩フォローになっていないです。


「そうそう。そんな落ち込まなくても私もやっとできた感じだし」


 メグはバルーンの山から自分のまともな作品を引っこ抜いて見せる。それよりも僕、気に病むのが顔に出ていたのか。


「カゲルは分かりやすいでござる」

 

 フフっとした笑みを見せる。エリ先輩の手元にはかなり凝った帽子が作られていた。この人はさりげなく精神攻撃を仕掛けてくる。

 やっぱり先が思いやられる。

 とはいえ、ここでくよくよしても仕方ない。地道に一個ずつ作っていくしかない。次のバルーンを手に取ろうと袋に手を突っ込む。


「あれ」


 中をゴソゴソと探ってみるが、袋の感触だけしかなかった。


「先輩。なくなりました」

「あれ。もうなくなったの?」


 カスミン先輩に袋を渡して確認してもらう。ぱっと中を見て他の袋を探す。だが他も同様に全くの空だった。すると先輩はポケットからスマホを取り出し電話し始めた。

 たぶん相手はアヤメ先輩であろう。


「そっちもなくなったか。じゃあ今日はもう。そうだね」


 話が終わると電話を切って立ち上がった。


「今日はもう終わりにしようか。バルーンもなくなったことだし」

「わかった。ぬあー。肩凝った」


 腕を伸ばした後、首を回すてるやん先輩。 


「うー。私もです。疲れたー」


 同じくメグも大きく上に腕を伸ばしたあと軽く肩をもむ。


「ありゃ。なくなったでござるか。もうすぐで完成だったのでござるが」

「エリ。使いすぎ。もし続き作るなら、通販で売ってるから自分でも買ってみたら」

「そうでござるか! じゃあ帰ったら早速作るでござる」


 ぱっと目を輝かす好奇心旺盛であるエリ先輩。一番上達するのが早かったし、相も変わらずこの人の能力の底が知れない。

 

「ふう」


 一方の僕は、どっと疲れが出てきた感じである。ペタッと壁に背中をつけて体を休める。あと一か月、思ったより時間がないよな。僕もエリ先輩と同じく通販で買って練習するか。あとボールも練習を一応しておかないと。


「カゲル。お疲れのようだね」


 上から覗き込むように見つめるカスミン部長である。

 自分の姿がみっともない姿だったので少し恥ずかしい。だか慌てて起き上がろうとしようにも、思うように力が入らないので、ゆっくりと背中だけ上に上がるように誤魔化しなから起き上がる。


「そうですね。少しだけですね。部長は元気ですね」


 その強がりに気づいたか気づいていないかは分からないけど、少し微笑む部長である。やっばり恥ずかしい。


「そうでもないよ。指が痛いよ」


 静かに自分の指をさすっていた。

 言われて僕の指も眺める。少しハリみたいなのを感じ始める。それにザラザラとした粉がつき変な色になっていた。僕も部長と同じく指を擦る。


「そのうち指も強くなって慣れるよ。結局慣れだよ」

「慣れですか」

「慣れ慣れ!」


 赤くなった指を立てて、くるっと回す部長。お得意のポーズが出るときの言葉は大体納得のいくものである。

 地道にやるしかないな。それに少しだけ疲れがとれた気がする。気のせいだけど……。


「おっしゃ。じゃあ。終わりに何かどっかみんなで食べるか!」


 てるやん先輩がガッツポーズで立ち上がる。


「行きます行きます!」

「行くでござる!」

「いいね。だけどその前に……」


 カスミン部長は静かに部屋の真ん中に視線を送る。そこには山積みになったバルーンの残骸が鎮座していた。


「片付けだね」

『そうですね』 


 僕ら五人は、風船の山を少しずつ崩しながら片付けていくのであった。


 昼御飯いやもう夕食ぐらいになるのか、それくらいの時間に、僕ら部員と顧問は近くの定食屋で食べた。

 何と今日は顧問が奢ってくれたのである。失礼にも意外と思ってしまった

 するとエリ先輩が、「強がっている」とか野次を飛ばしていた。そしたら「社会人舐めんな」と必死に言い返していた姿が少し面白かった。この部活に入ってから、奢ってもらってばかりで少し申し訳ない気になった。それでも素直に奢ってもらった。

 その後定食屋で僕たちは解散し、各々バラバラに帰った。

 同じ方向のてるやん先輩とエリ先輩は、耕次先輩を誘い「二次会だー」と叫びながらどっかに行ってしまった。元気な人たちである。

 ということで僕はカメケンと一緒に歩いて帰った。先輩たちにいじられることがないので内心とてもホッとしていた。


「本当にあの人達元気だよな」

「あの先輩たちは、たぶん別人種だと思う」

「ああ。なんかそれ分かるわ」


 僕の意見に同意すると、カメケンは途中で立ち寄ったコンビニで買った緑と黒が目立つ栄養ドリンクの缶を袋から出し、シュパッと音を鳴らして開けるとそのまま一口飲んだ。


「プハー。練習後の栄養ドリンクは旨いわ」


 その言葉に僕の耳がピクッと震える。もう一度カメケンの持っている栄養ドリンクを確認してほっと息つく。


「ん? どうした?」

「いや。何でもない。それよりもカメケンはバルーンどれくらい進んだ?」

「カメケン……。何か慣れんな」


 隣で缶を持ったまま腕を組み始める。


「嫌なのか?」

「そうじゃない。でも今までそんなあだ名で呼ばれたことないから。ちょっと違和感というか。むず痒いというか」

「あー。そういうことか。僕も最初はそうだったよ。名前で呼ばれることに妙に気持ち悪い感じはあったよ。でも言われ続けたら慣れるって。慣れだよ。慣れ!」


 するとカメケンは僕の姿を見て固まり、そしてふーんと唸る。


「カゲルって、そんなキャラだったけ」

「ん?」


 思わぬ言葉にピタッと足を止めた。そして怪訝そうにみるカメケンを見つめ返す。


「な、なんで?」

「なんでってもな。何かさっきの『慣れ!』って言葉にカゲルの感じがなくて、ちょっとビックリした」

「気のせいだろ」

「そ、そうか?」


 納得はしていないのか、目付きを変えながら僕を観察する。僕はカメケンに悟られないように、平然を装って歩いた。

 出来る限り目を合わさないようにした。


「まあいいか。風船はまあウサギば出来て、剣とか、熊とかつくったな。まだまだバランスが悪いけど」


 なんだと、そこまで進んだのか。僕はウサギ作るだけで手一杯だったというのに、何か気持ちが萎えてしまう。


「カメケンって器用な方なのか?」

「いや? 特にそう言われたことはないな」

「そうか」


 余計に気分が下がる。


「カゲルって結構面白いな。喜怒哀楽の差が分かりやすい」

「うそっ!」


 自分の髪が一瞬逆立った気がする。その上もう目を合わせてしまった。

 そんなに自分って分かりやすいのかな。先輩たちにもいじられた気がする。


「そんなに落ち込むことか?」


 言った本人は少し笑っている。

 悪気がなさそう。


「いや。何か楽しまれているような、手玉にとられているような気がして」

「いやいや俺はそこまで思ってない。それにそんなに深く思う必要ないと思う。素直なのは悪いことじゃないし、カゲルの利点だからあんまりネガティブに考えるのは損だよ。まあ面白いのは事実だけど」

「何かうまく言われたような気もするけど」


 僕って結構表情に出るのだろうか。むにーっと頬を引っ張ってみる。

 それを見て笑いを堪えるカメケンであった。

 色々込み上げてくる言葉を強く閉じて、胸の中に飲み込んだ。

 エリ先輩みたいに悪気があるわけではないし、たぶん純粋な感想だろう。でもやっばり胸には変なしこりが残ったままだった。

 アパートに着き、カメケンとは扉前で別れ部屋に戻った。

 部屋は片付いていたのだが、バルーンの独特なゴムの臭いは残っていた。あれだけ大量に作ったなら仕方ないか。

 僕はスマホを開き、今日を使ったペンシルバルーンを探した。そしてそれを見つけてすぐさま購入した。とはいえ、僕はクレジットカード等持っていない。だからコンビニ払いである。すぐに家を飛び出してコンビニに向かった。

 カメケンが栄養ドリンク買ったときに買わなかったのかと問いたいだろうが、隠れて買いたいというか家で一人で練習したいというか、そのあんまり見られずに練習したいそんな気持ちのせいか、カメケンと別れてから行動したのである。

 コンビニある機械で操作し、バーコードをレジに持っていきお金を払い購入完了。あとは届くのを待つだけであった。本当に簡単である。世の中便利になっているな。何か思考がちょっと古くさいなと思いつつも、満足した気持ちで帰ったのであった。

 そしてアパートに辿り着いた時だった。正確には階段をちょうど上る手前くらいの時、一階の一番階段に近い部屋のドアが開いたのだ。二階の住人は全員知り合いだが、一階の人は全く知らなかったので、ちょっとだけ興味があった。なのでほんの少しだけ止まったのだ。軽く顔だけ見て気がつかないふりして二階に上れば大丈夫と軽い気持ちでいたのだった。

 扉が開いてものの数秒で中から人が一人出てきた。格好からして女性で茶髪で先が赤色で少しそとにはねていて、服はライブTシャツみたいな柄の服にジーンズとスニーカー……。


「あ」


 僕の自然と漏れた声に反応し女性は僕に視線を向けた。

 女性は大きく目を見開き、口をポカンと開いたのだった。


 その時僕は、世間って本当に狭いんだなあと思ったのだった。

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