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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『部活終わりの会議』 その2

「『大学祭何をしようか会議』を始めようと思います」

『ええええええええ!』


 驚きの声があがる。

 と言っても叫んだのはてるやん先輩とエリ先輩と大介とメグだけ。

 意外と多いな。


「そんなに驚く?」


 カスミン部長は予想外の反応にぎょっとして目を丸くしている。


「いや。何となくだ」

「私もござる」

「私もです」

「……」


 前者三人、特に二人はまあ何となく分かるし、メグの反応もそんな気がしていた。ただ大介だけは本気で驚いていたみたいだ。顔を赤くして俯いているし。ピュアなのかな。


「いつも通りみたいだから、心配ないみたいだね。じゃあ何か案がある人」

「じゃあ。屋台やろう! 焼きそば! 焼きそば作ろうぜ」


 元気よく手を挙げるてるやん先輩である。

 とても似合いそうである。祭りの屋台で焼きそばを焼く兄ちゃんみたいな雰囲気が想像できる。


「ごめん。屋内なんだよね。もう一度言うけどフリーマーケットのスペースなんだよね」

「できるんじゃないのか? 屋内で屋台なら……」

「私の言い方が悪かった。それも禁止されているから」

「そ、そうか」


 目に見えててるやん先輩が落ち込んでいくのが分かる。本当にやりたかったのかな。


「じゃあ。何か本出しましょう! 創作本出しましょう! 小説とかマンガとか」


 メグが目一杯手を伸ばしている。だがその隣にいるリナがガシッと肩を掴む。


「メーグ。大学祭まで大体どれくらい?」

「一ヶ月くらい?」

「何ページくらいの描くの?」

「マンガ一冊分くらいの」

「間に合うの?」

「ま、ま、間に合うの……かな」


 リナのにんまりと笑う圧力により、メグが段々萎んでいき、声が小さくなる。本人すら疑問系になっているし。


「それは無理かな。私描けないし」

「時間も足りないから。それに、大道芸ぽくない」


 部長と副部長が苦笑いで答えると、メグがズーンと肩をすくめた。メグもわりとガチでやりたかったのかな。


「じゃあ。私たち女子勢の写真……」

『却下!』


 エリ先輩の悪ふざけに女子勢の冷ややかな視線が送られる。珍しく焦った笑いをみせたエリ先輩である。

 それを言おうとした先輩の度胸だけは、一周回って感心すらしてしまう。

 いや、案外マジなのかもしれない。

 写真集か、想像しない方が良さそうだ。


「むしろどういうのがいいっすか?」


 静かだった健三君がすっと手を挙げる。


「大道芸っぽいものかな。それで危なくないもの」


 結構難しい要望だ。


「大道芸ぽいものっすか? って、どんなのだカゲル」


 突然話を僕に振ってきて、今度は僕がギョッとした。そしてみんなの注目が僕に集まってしまう。

 何も思いついていない。大道芸って何やっていたっけ? 路上でたまに何かやっていたような。どこかで見たことあるあれ。何だっけ。

 頭の奥底にある記憶を強引に引きずり出す。


「何でしょう。鞄が動かないように見せるようなのですか?」

「あー。パントマイムのこと?」


 アヤメ先輩の答えたそれらしき言葉。

 パント……なんだ? わからない。


「何ですか?」

「パントマイム。言葉を使わず、表情や体の動きで演技することをいいます。私たちが夏前にやった劇もクオリティはさておき一応その分類になるか。でも一般的な印象としては、壁があるように見せたりする演技のことを思い付くのかもしれない」


 そう言って、アヤメ先輩はすっと掌を前に出して、グッと力を入れると、目の前に壁ができたように見えた。


「おー!」


 凄い。それっぽく見える。すると健三君が手を出してやり始める。好奇心旺盛なのは彼の利点なのだが、それっぽく見えない。


「できてるカゲル?」

「んー。申し訳ないけどできていない」

「マジかあ」


 少し落ち込む健三君である。

 その姿を腕を組んでじっと見ていた耕次先輩が口を開いた。


「だが。これを短い間に習得できるとも限らんし、それにフリーマーケットスペースでやってると浮くのではないか」


 言われてみればそうかもしれない。みんながフリーマーケットで売っている隅で、何人かがパントマイムをしているのは変な光景である。それはそれで面白そうだが、人が集まらなさそうであるのも確かである。


「確かにそうだね。曲がりなりにはできるかもしれないけど、正直ダンス部とかの方がうまい人多いかもしれない」

「有りうるな」

「ぐっ。何か痛いところ突かれた気がするでござる」

「確かにそうですね」


 耕次先輩は頷き、エリ先輩は渋い顔をしている。僕も納得するしかできない。

 大道芸っぽそうで、フリーマーケットっぽくて、且つこの一ヶ月位でできるもの何だろう。

 全員考え込んでしまった。体育館に訪れる沈黙。

 難しい。ジャグリングしかやっていないから、すぐに思い付かない。


 フー。フゥー。


 マジックとかやっても、人前に見せれるレベルになるのだろうか。


 フゥー。フゥー。


 売るものって服とか古着売ってもなあ。


 フゥー。フゥー。


『何やっているすか顧問!』

「ふぇ!?」


 みんなの視線が顧問に集まる。

 気がつくと顧問が黄色い丸い風船を膨らましていた。


「いやー。何か空気が重そうだから、ポケットに入っているもので何かなごめるものがあればいいかなと思ったから」


 そう話ながら風船の先を縛る顧問。そもそも何で持っているんだ。


「ほうほう。そんなに俺達にイジラレタいのかな」

「そうでごさるかあ。そうでござるかあ。相手にしてくれなかって寂しかったのでござるか」


 てるやん先輩とエリ先輩が狐のような顔みたいになる。そして手をわしゃわしゃしながら、近づいていく。


「え。ちょっと待って。何でこうなるの? 白峰さん」

「いやー。今回は顧問が悪いかな」

「なごませる気持ちも分かるけど、今回は流石に」


 カスミン先輩もアヤメ先輩は乾いた笑いをみせる。顧問の助け船は断たれた。


「ということだからエリ捕まえろ!」

「ガッテン!」

「ウギャー!」


 てるやん先輩とエリ先輩が飛びついていった。風船を放り投げていつもの倍以上のスピードで逃げだした。いつも通り始まってしまった騒がしい光景。

 

「城ヶ崎先輩大丈夫なんすか。顧問」

「あいつらも加減は知ってるから大丈夫だが……。まあやりすぎたら俺とカスミンで止める」

「そう。そうっすか」


 健三君は耕次先輩の横で、少々困惑している様子である。その心配の気持ちもわかる。

 先輩二人と顧問の逃亡劇を見ていると、投げ捨てられた黄色の丸い風船がはらりと、僕の目の前に落ちてきた。

 僕はそっとそれを拾う。何でこんなのをポケットに入れているのだろうか。顧問は何かと不思議な人だと思っていたが、天然というより電波じゃないかと思ってしまう。

 風船……。

 小学生の時以来しばらく触っていない。昔なにしてったけ。風船てただ膨らますだけだよな。紐をつけてふわふわと浮いている印象。あとはスーパーとかでは着ぐるみの人が風船を渡していたりとか、あと何か犬の形をした風船とか貰ったことあったな。何日かで萎んでしまったけど……。


「あ」


 パッと思いついた。いやでもどうなんだろうか。でも言ってみるだけ言ってみようか。


「カスミン先輩。一つ思いついたのですけどいいですか?」

「いいよ。言ってみて」


 僕は手を挙げると、部長は興味津々で僕を見つめた。その視線に少し緊張しながらも、僕は一つの考えを話し始めた。


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