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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『部活終わりの会議』 その1

 今日は金曜日、部活がある日である。

 キャンパスを歩く僕は十歩に一回、後ろに振り返っている。学生が多くいる。でも僕を気にしている人はいないから、尾行をしている人はいない。たぶん……。

 昨日からめちゃくちゃ気にするようになった。

 僕は別に気配を感じるのに長けているわけではない。瞬時にわかって撒くようなことが出来ない。それができればどれだけ楽だろう。

 結局後ろを必要以上に気になりすぎてしまう。

 ほんと何やってんだろうな。


「どうしたの?」

「ンッッッッ!!」


 振り向くと、小百合さんの顔が目の前にあった。

 物凄く驚くと同時に、綺麗な顔が目の前にあることにドキッとした感情が相まって、僕の顔が真っ赤になる。それを必死に堪えようとして顔に力をいれてしまい更に加速する。


「あ。ごめん。ちょっと驚いた?」

「え。いや。大丈夫……です」

 

 大丈夫ではないが、大丈夫じゃないとは言えない。

 平然を装いつつゆっくりと後ろにさがる。

 というかさっきまでいなかったよな。どこから現れたんだろう。


「それで。どうしたの?」

「君があまりにも不思議な動きをするから気になって」

「あー」


 わかっていたつもりだけど、いざ言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。彼女の純粋な瞳が僕の顔の温度を上げる。

 

「尾行がまだ続いているみたいで、後ろが気になって……」

「そうなの?」


 彼女は後ろに振り返り、じっと眺める。


「んー。今日はたぶん。いないかも?」


 軽く斜めに顔を傾ける小百合さん。

 何でわかるのだろう。この前もすぐ気がついたような。


「どうして?」

「女の勘。かな?」


 にっこりと微笑む彼女。

 勘……。で済ますには少々鋭すぎるのではないかと思う。

 けどそこを疑っても仕方ないような気がする。彼女の言葉なら信用してもいいかもしれない。これは僕の勘……。

 結局かい。


「小百合さんが言うなら信じようかな」

「私が言うのもあれだけと、そんな簡単に信じていいの?」

「小百合さんは嘘をつくような人には思えない。と言えばいいのかな」


 すると小百合さんはじっと僕を見つめて、目をパチクリと瞬かせる。


「カゲル君。誰にも構わずそんなこと言ったらダメだよ」


 つんと僕の鼻先をつつかれた。

 僕は鼻を両手で抱えてたじろぐ。

 彼女は嬉しそうに微笑む。その頬を少し紅潮させて。




 時と場所は移り。

 体育館。

 今日は実技練習は早めに終わった。

 そして体育館の真ん中に集められた。

 角が凹みボロボロになったホワイトボードを、キャスターの悲鳴を鳴らしながら顧問が必死に押して、みんなの前に持ってきた。そして顧問はボードの端っこに寄る。

 何が始まるのだろうか。部員それぞれに過る不安。

 そんな不穏な空気が漂う中、ホワイトボードの前に部長と副部長が立った。

 すると突然二人が深く頭を下げたのであった。


「まず。始めに謝罪させてください」


 カスミン部長の声が、体育館に響く。


「今回の大学祭。私たちオタマジャクシズはステージ演目はできません」

「……え!?」


 体育館の空気が固まった。

 演目ができないということは、人前でジャグリングできないということ。この部活の利点が消えたこと。

 

「先日行った大学祭の打ち合わせで、私たちの部活はステージ演目禁止とされ、且つキャンパス内のジャグリングも禁止という通達を受けました」

「私たちの力不足によりこのような結果になってしまったことを、皆さんに謝罪します」

『このような結果になってごめんなさい』


 二人の謝罪の声がやけに強くこの空間に残った。

 訪れる沈黙。

 予想していなかったわけではない。

 いざ聞くと少しショックではある。だが同時に少しホッとした部分もある。

 ホッとした部分はみんなにとっては無責任なのかもしれない。でもまだ自分の演目が未熟なことに、出なくていいという部分に安堵している自分がいた。

 だが他の人はどうだろうか。

 特に二年組……。

 例の人達に静かに視線を向けると、表情が固まったまま三人がいた。バイオレンス的な何かが起こるのではないかと息を呑んだ。


「しゃーねえな」

「決定だから仕方ない」

「そうでござるね」


 てるやん先輩は頭をかき、耕次先輩は腕を組んで頷き、エリ先輩はケロッとした表情だった。

 三人揃って少し肩を落としながらも、異議を唱えることはなく、二人の言葉を受け入れたのだった。

 思ったよりあっさりと……。

 僕は少々先輩たちの事を甘く見ていたのかもしれない。少しでも疑った自分を反省する。

 そして一年組はというと。


「そうですか。仕方ないです」

「決定事項だから仕方ないですね」

「先輩達がそこまで頭下げなくていいですって」

「そんなことあるんすっね」

「大丈夫です」


 大介はちょっと落ち込んでいるようである。メグは素直に納得し、リナは両手を出して先輩達を慰め、健三君はよくわかってないのか、あっけらかんとしている。

 反応は様々だが、概ね了承したみたいだ。


「よかったね。二人とも」


 横で腕を組んでいた顧問のにこやかな顔。

 二人はほっと胸を撫で下ろした。そして再度頭を下げた。


『本当にありがとう』


 この姿を見て、この件について何も言うことは無かった。



「それで。どうするんだ? 大学祭はのんびり屋台回りか?」


 てるやん先輩がフラフラと手を挙げる。


「それなんだけど、一応隅っこにあるフリーマーケットのスペースだけ貰えたんだよ」


 フリーマーケットのスペース。なんでそんな場所を。

 みんなの頭にハテナが浮かぶ間に、アヤメ先輩がホワイトボードにさらさらと文字を書いていた。そこに描かれた文字とは……。


「ということで突然だけど『大学祭何をしようか会議』を始めようと思います」


 カスミン先輩は胸を張って宣言した。


『……えええええええええ!』


 

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