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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『先輩たちとカップラーメン』

 その頃一方カゲルは……。


 家に帰るとどっと疲れが出てきた。

 新しく買った座椅子に座りほっと一息吐く僕。

 尾行していた人間が二人ってどういう事だ。しかも一人は部活統なんちゃらとか言っていたし、ヤンキーの女性は全く意味わからないし……。


「一体どうなってんだ!」


 家でむなしく叫ぶ。

 度重なる初めての経験でよくわからなくなっている僕である。

 もう今日は早く寝よう。明日考えればいい。

 僕は重たくなった体を無理やり動かして、ベットに向かった。

 ベットに手をかける瞬間、僕はふと天井を見つめた。妙な気配を感じた。

 またあの人達かな。

 僕は天井の隠し扉に手を当てようとする。

 

「元気にしてるかカゲルゥ!!」

「うあ!」


 足元がフワッと浮き上がり、そのまま飛ばされ、頭からベットに派手にダイブした。

 顔を強く強打して、耐え難い痛みが鼻先から顔全体に広がる。


「いってー」

「おお。カゲルどうした?」


 てるやん先輩の心配そうな声ではなく、いつものノリで聞くから腹立つ。すぐに怒りたいが顔が痛くて動けずに、ベットにうずくまったままだ。


「カゲル。元気でござるか? あれ。ベットが好きだからってシーツにキスとか気持ち悪い性格しているね」

「何を言うんですか!?」


 エリ先輩の言葉にさすがに起き上がった。

 すると床の板を両手で上に支えたまま、床からひょっこり顔を出したてるやん先輩とエリ先輩がいた。

 その光景に愕然とする僕。しばらく声が出せそうにない。


「どうした?」

「どうしたでござる? 私の顔に何かついているでござるか?」


 そういうことでは……。いやもうこの二人に何を言っても無駄な気がした。

 天井の次は床か。今度は壁に直接扉を作りそうな気がしてきた。もしかしたら壁を全て取り払って、二階の全てを繋げるのかもしれない。

 深々と出てきたため息が、諦めを通り越して安心の現れになった。

 

「どうもしないです。それで今日は何のご用ですか?」


 僕は新たな悟りを開いたようだ。



 僕とてるやん先輩とエリ先輩はテーブルを囲んで座り、それぞれがカップラーメンを持ち、各々ズルズルと音をたてて啜っていた。


「やっぱ、みんなで食べるカップラーメンは旨いな」


 上下迷彩服を着たてるやん先輩は、箸の半分ぐらいまで麺を摘まんで豪快に音を出しながら啜る。ちなみに食べているのは醤油味のラーメン。


「一人だと味気ないでござる」


 Tシャツと短パン姿で、少し焼けた肌が目立つエリ先輩は、塩味のラーメンをスルスルと小さな音をたてて啜る。


「そうですね」


 僕は乾いた笑いを浮かべながら、みそ味のラーメンをズルズルと食べる。


「それにわりと久々だな」

「そうでござるね」

「……。言われてみればそうですね」


 てるやん先輩はラーメンを箸でつまんだまま止まり、エリ先輩は箸を置いて腕を組む。

 確かにそうだな。前に現れたのは健三君が引っ越してきた時だから一ヶ月以上来てない。その方が都合はよかったんだけど。


「まあいいか」

「ござる!」

「そうですね」


 また三人揃ってズルズルとラーメンを啜る。


「カゲル。最近何か変わったことはござらんか?」


 エリ先輩が口をモグモグさせながら話を振ってくる。

 僕は麺を箸で持ち上げたまま、見上げて考える。

 あったにはあったが、どう説明しようか、言い方次第で変にいじられるのも嫌だが、変わったことには変わりないし。

 話して……。みようか。

 説明するために少し考えを頭でまとめてから口を開く。


「九月に入って二人に尾行されました」

「な、なんだそりゃ?」


 即座に反応したのは麺を口元につけているアフロ先輩。対してゴザル先輩は至って普通の表情である。


「どうしたらそんな珍現象がおきるんだ?」


 箸をカップに突っ込んで、少し身を乗り出すてるやん先輩。


「僕が知りたいですよ」

「どんな人でごさるか?」


 箸をテーブルに置いたエリ先輩は、テーブルに両肘をついて僕を穏やかに眺めてくる。


「一人はヤンキーぽい女性です。全く意味がわからない人でした。もう一人は団子頭の部活統括委……」

「部活統括委員会でござるね」


 エリ先輩の視線が少しだけ鋭くなる。


「知っているのですか?」

「知っているのも何も、この大学の部活を管理している団体がそれでござる」

「俺も知ってるぞ。エリートがわんさかいる団体と聞いている」


 そんな凄そうな団体なのか。二百位ある部活を管理しているのか。確かに凄そうな響きだ。


「んで何でそんな奴に尾行されてんだお前。何かしたのか」

「してないですよ。むしろ……」

「むしろ私達が原因だから、みんな尾行されている。といえばいいのかな」


 エリ先輩から「ござる」口調が消えた。据わった瞳が僕を見つめていた。

 対しててるやん先輩は首を捻っている。

 僕は首を縦に振ることはしない。

 事実だか先輩達に本当はそんな風に言いたくないし、言うつもりもなかった。あの時は先輩達が協力してくれたから解決できた。一方的に先輩が悪いとは思ってはいない。でも最後にやり過ぎたことに関しては原因があるとは思う。外部からしたらそう思えてしまう。だが口にはしたくない。

 だからエリ先輩が自覚をしているなら僕としては助かる。話が早くていいし余り言いたくない。だから目だけでエリ先輩に僕の心情を伝えてから話を続ける。


「えっと。エリ先輩も尾行されていたのですか」

「そうだね。キャンパスに入ってすぐ気がついたから軽く撒いてやったよ」


 ムフフと自信満々な顔をする。やはりこの人油断ならない。


「じゃあ、あの時エリが強引に引っ張ったのはつけられていたのか?」

「そうだよ。てるやん全く気がついてなかったから無理やり」


 どや顔で親指を立てるエリ先輩。

 どこのことかは知らないがそんなことがあったのか。気がついてなかったアフロ先輩は先輩らしいからホッとする。


「マジか。で、何で俺たち尾行されることしたか?」

「んー。まあ。てるやんはいつものことだから気にしなくてもいいよ」

「おう。そうか……。って俺いつも尾行されているのか!?」


 エリ先輩の巧みな口回しに、てるやん先輩は気がつかなくて済みそうだ。本当は気づいてほしいけど……。

 心の中で少し安堵した。


「まあ。それはそのうち何とかなるよ。それよりも……」


 エリ先輩の口角が上がっていく。

 それと同時に僕の背筋に寒気が走る。


「そのヤンキーの女性はどういう人でござるか?」


 その質問の意図を何となく理解する。だが今回はそんな話はない。


「ヤンキーの女性ですか。言ったままですよ。しゃべり方が怒りっぽいですし。すぐにキレますし。それに何かドジっぽそうですし」

「へー。そうでござるか。どうして?」


 エリ先輩の疑いの目はそのままである。


「めっちゃ露骨な尾行するんですよ。もう隠れる気が全くないですから」

「なんだそれ。変な奴だな」


 てるやん先輩が腕を組んでウンウンと頷く。

 だがエリ先輩は何か満足そうな笑みを浮かべている。


「何ですか。その笑みは」

「別になにもないでござる」


 絶対あらぬ方向に考えているこの人。詳しくはわからないけどなにもない表情ではない。


「今度、キャンパス内で見つけたら、私もカゲル尾行しようでごさろうか」

「な、何でですか?」

「面白そうだし」


 何を言い出すのかと思えば、僕を尾行するって、絶対嫌だ。


「んじゃ。俺もしようか」

「何でそんな軽いノリなんですか! それに僕を尾行したって面白くないですよ。部活ない日はフツーに帰ってますし」


 こんなことで便乗しないでほしい。面倒事が増えるに決まっている。


「てるやん。尾行うまくないから、一緒には来ないでほしいでござる」

「舐めんなよエリ、気配ぐらい消せるぜ」

「そのアフロが強すぎるでござる」

「ぐっ」


 核心を突かれ苦い顔になる先輩。

 確かに迷彩色にアフロって、絶対に目立つ。

 そっちでそのまま言い合ってほしいのだが、すぐさま二人は僕を気持ち悪い眼差しで眺める。


「まあいいや。その代わり隠し通路でカゲル驚かせれるし」

「そうそう。尾行は私で、脅かしはてるやんで」

「そうですね。ってどっちも僕に得ないですよ!」


 僕の叫びは、いつも通り変わらないのであった。 

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