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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『部統会の忠告』

 教室を後にした私とアーヤは、キャンパス内で景色のいい、上は綺麗な木のトンネルで覆われ、下は風情のある石畳の道を、横並びで歩いていた。

 ただもう日が落ちて暗くなっているせいで、その景色を堪能できるほどではない。

 その上に私達のテンションは最悪である。理由は簡単。説明会終わりに言われた条件が酷かったせいだ。



「オタマジャクシズさん。鳴り物と、飛ぶものと危険なものは禁止です。例えばジャグリングも危ないのでダメです」


 説明会が終わったあと真田実行委員長に呼び出されて、面と向かって直接言われた。わざわざ他の部活の人たち全員が部屋から出ていった後からである。


「ジャグリングを主体にしている部活と知って、わざわざこうしたのですか?」


 隣のアーヤは今まで見たことのないほと喧騒で会長を睨み付ける。


「何か勘違いしているようだけど、あなた達が無許可で勝手にジャグリングをしたこと、それに教員と乱闘まがいのことをしたこと。それほどのことをしていて、それが言える立場だと」


 やはりそこを突いてくる。ぐうの音も出ない。

 ただそれでも歯痒い。

 アーヤは唇をぎゅっと噛みしめ、拳がプルプル震わせている。


「付け加えるなら、あなた達の部活はまだ出来上がってから一年と半分くらい。新米部活には変わらない。他の20年30年と続く伝統ある部活と比べるまでもない。そんな部活が、キャンパス内のステージから、『グランドステージ』に立てると思わないで頂きたい」


 真田の眼鏡の奥の瞳に力が込められ、これ以上の反論を許さないと訴えられる。

 部活歴…。確かにダンス部や吹奏楽部などの有名所や歴史のある部活は沢山ある。それに実績は無く、違反しか残していない私達はやはりそうなるか。


「最大の譲歩で、大学祭への参加拒否をしなかったことに感謝しなさい」

 

 そう言いきると、真田は壇上を横に歩いていき、端のテーブルから鍵を取り上げる。

 そしてその鍵をフラフラ揺らして、私達に見せつけるようにしてから。


「話は以上だから出ていってもらえる?」


 嫌みたっぷりの会長の行為に、ぴきっと私の血管が一本切れた。

 だがここで感情に任せるのは絶対ダメだ。

 怒りの全てを全身で堪えながら私は頭を下げた。


「わかりました。善処していただきありがとうございます」


 今の私の表情はどうだろう。たぶん笑顔装っていながら、物凄い目をしているに違いない。

 アーヤもひどい顔であることだろう。

 会長を背に、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、私達は部屋を後にした。



 そして冒頭に戻るのだけど、アーヤは未だに無言のまま渋い表情を崩さない。どうしようか。

 フリーマーケットの一スペースってどうしろというのだ。しかもジャグリング封印。これでは八方塞がりである。

 本当にどうしろというのだ。

 さっきから「どうしよう」という言葉しか出てこない。

 でも実際どうすればいい。

 ひたすら悩み続けていた。

 一人苦しんでいるとアーヤが突然足を止めた。

 私も慌てて足を止める。


「部統会って、変な趣味でも持ったのかな」

「へ、変な趣味?」


 どういう意味だろう。全く理解が出来てない。

 そんな私を置いて、アーヤは後ろに振り返った。


「そこにいる人。出てきなさい」

「え?」


 私もつられて振り返る。

 誰もいないはずだがと、じっと見つめると、横の木陰からぬっと一人出てきた。

 黒い服に、黒いズボンと悪そうな雰囲気が漂う男性が一人出てきた。


「気配を消していたはずですが」

「酷く気が強いせいです。それに女性をストーカーとか嫌な趣味してますね」

「酷い言われですね。まあ言われて当然といえば当然ですが」


 アーヤの冷たい言葉に顔色一つ変えない男性。


「何が目的なんですか、部統会副会長の堂島さん」

「おや。覚えてくださったんですね。オタマジャクシズ副部長中谷さん。それと部長の白峰さん」


 副会長と視線が合うと、ぞっわっと背中に寒気が走った。

 会長の威圧とは全く違う、蔑むような奥に深く暗い黒い瞳。


「あなた達の監視ですよ。戦闘集団がいると言われているあなたの部活の」

「戦闘集団……」


 あの三人の名前が物騒になっている。確かに手を焼いているのも事実なんだけど。そこまで言われているとは。


「それを統率している部長と副部長を監視するのは、自然の流れではないでしょうか」


 淡々と話すこの副会長の表情は仮面でも被っているのだろうか。ほとんど表情が変わらない。気味が悪い。


「自然な流れですけど、倫理的にどうなんでしょうか。一歩間違えば犯罪ですよ」

「そういうあなた達の部下もそれに近くなりませんか」


 アーヤの言葉攻めに全くといっていいほと平気な顔をしている。


「それに私はあなた達を大学祭に出すことすら腹立たしい。今でも参加禁止にさせたいのですがね。会長のご厚意に感謝するんですね」


 顔を澄ましたままだが、込められる相手を見下す黒い瞳に、少しだけ身震いする。だがこのまま言われるのも腹が立ってきた。私も一言反撃してみる。


「ええ。感謝はしています。ですが、余りストーカー紛いのことをしないでくださいね。いつか社会的に消えてしまう前に」

「それは確かに嫌ですね。でも新米部活と、部活統括委員会副会長とどっちの言葉を信じるのでしょうね」


 本気でそれを言っているのだろうか。

 でもこの人ならやりかねない気もする。


「人の風上におけない人ですね」

「それは自覚しております」


 汚れ仕事専門というわけか。そのせいなのか嫌な空気を纏っている。無意識にそっとアーヤに体を寄せる。


「まあ。今日は挨拶にきただけですので、今後ともよろしくお願いします」

「わかりました。よろしくお願いします」


 私は丁寧に頭を下げた。

 堂島さん。いや堂島は暗闇に溶けるように、静かに帰っていった。アーヤは堂島の姿が見えなくなるまで睨み付けたままだった。


「ふう。あの人やばい」

「そうね」


 激しく同意である。あの人は真田さんとは全く別種類の怖さがあった。相手を絡めて苦しめる様なそんな怖さ。だから絶対に注意するべき人物だ。

 私はしばらく堂島がいなくなった道を見つめた後、様子を伺う様にアーヤに視線を移す。

 彼女の額にはつーっと汗が一筋流れていた。

 それを目撃した私はぎゅっとアーヤの手を握った。


「なっ。なにするの」

「アヤメが辛そうだったから」


 顔を少し赤くして慌てるアーヤ。振りほどこうとする手を離さないとぎゅっと握りしめる。


「そういうカスミンも、結構震えていたから。それにさりげなく横に寄ってくるし」

「別にいいでしょ。怖かったんだから」

「確かに私も久しぶりに戦慄を覚えたけど、それもそれでビックリしたから」

「ちょっとほっとした?」

「ほっとはしてない!」


 仕掛けてみると、ますます顔を赤くするアーヤ。最近仕掛けてみるといい反応を示すようになった。なるほど少しアーヤのいじり好きな理由も少し理解できた気がする。でもほどほどだよね。

 少しやり取りが続いた後、私とアーヤは一旦落ち着いた。


「それで、どうしようか」

「ほんとそれ」


 私の言葉にがっくりと肩を落とすアーヤ。

 私もアーヤと同じ気持ちである。


「何か作って売る?」

「何かって、何」

「何だろう」


 ダメだ。まともに頭が回っていない。私もアーヤも。

 そんな私たちに追い打ちをかけるようにピューッと風が吹き抜けていく。首筋に風が当たり思わず、またアーヤに肩を寄せる。


「寒いね」

「さりげなく近づいてくる!?」


 嫌そうにしながらも、思ったより抵抗はしてこなかった。少し気分が戻った私はもう少し身を寄せて話を続ける。

 

「細かいことはいいじゃない。それに今日は一回帰ろう。疲れた」

「それには同感。寒いし」


 ゆっくりと二人揃って歩き始める。手は握ったままで、肩も引っ付いたままである。


「今日ご飯どうする?」


 私の問いにアーヤは「ふむ」と一言呟いて考えてから、チラッと私を見る。


「料理する気も起きないから、適当に出前頼む?」

「さんせい!」

「じゃあそれで。あとは明日なってから考えよう」

「そうだね」


 今日は色々あり過ぎた。だから今日だけはもう考えることはやめよう。二人揃ってのんびり夕食を食べてゆっくり寝よう。

 夏も終わり、秋に向かって着実に進んでいる季節をひしひしと感じ、一抹の不安を抱えながら私たちは帰っていった。

 

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