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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『大学祭の説明と謎の刺客』

 大学祭……。


 大学生にとっての最大のイベントと言っても過言ではない。

 部活動をしている人もしていない人も楽しめるイベント。

 屋台あり出し物あり展示ありと、部活動の人はそちらに力を入れ、無い人は友達とグルグル回る楽しみがあるイベント。

 もちろん部活動している私たちからすれば、ジャグリングをアピールできる機会である。

 この大学の大学祭は二日ある。

 そして最も盛り上がるイベントが、最終日の夕方からは選ばれた団体のみが出演できる「グランドステージ」という名のイベントである。そのステージの場所は、この大学にある超大きなホール通称「ギャラクシーホール」である。

 そこは数千人が入れる規模の客席と大きなステージがある。そこに出演することが出来れば、私たちの演技をみんなに見てもらえる。だから何としても出たい。

 そう決めていたんだけど……。


 少しブルーな気分の私は、今大学祭の打ち合わせ場所の大教室にいる。

 なんで気持ちがブルーなのか、それは今私達の手元にある資料が原因である。

 そこには各部活動やサークルの出演場所や時間帯が定められていた。

 そう。その内容が私たちにとって思わしくないのである。

 てっきりここで話し合って決めるのかと思っていた。でも違っていた。もう決められたことを伝えられるという形だった。

 隣にいるアーヤも渋い表情である。

 他の団体は所々喜んでいる部活や、静かにガッツポーズする人等様々であるが、概ね良かったということはわかる。

 

「皆さん。今日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。私は部活統括委員会会長兼、今年の大学祭実行委員長の真田玲(さなだれい)です。よろしくお願い致します」


 壇上に立つ長い黒髪に黒淵眼鏡の女性は、一瞬私と目が合った。


「今回の大学祭の割り当ては、時間短縮のためこちらが割り当てさせていただきました。多少皆さんの希望にそぐわない場合もありますが、ご了承ください」


 ほんの少しだけ頬を上げて笑う女性。

 今のはたぶん私に向かって言ったのだろう。


「ご了承ください、ね」


 隣にいるアヤメが、むすっとした表情を見せる。


 ちなみに先程言っていた超大きなホール以外にも、キャンパス内に三ヶ所の屋外舞台がある。そこの舞台でも演技できれば少しだけでもアピールできたのだけど、私達の部活の名前はそこにはなかった。

 この時点で私達にとってこの会は打ち合わせではなく、事実上説明会となったのである。

 夏始めの件を考えれば当然と言えば当然なのかもしれない。でも不満であるのは確かだった。

 でも参加拒否にならなかっただけまだマシか。


「地下一階のフリーマーケットスペースの人気が少なさそうな所とはねえ」


 アーヤが紙の端を指で摘んで眺めながら、ため息混じりに呟いたのだった。




 少し時間は遡り。


 また視線を感じる。

 一応相手は分かっている。

 ちらっと後ろを振り返ると、特徴的な毛先が赤みがかかった髪型が、道の横の茂みからはみ出している。

 あれから三日経ってからの今日。キャンパス内を歩いている途中で気がついた。

 懲りたと思ったのだけど、まさかまた尾行してくるとは。しかもたぶんバレているのを分かっているから、かなり雑な尾行している。

 どうしようか。このまま泳がせてもいいのだけど。家まで尾行してくるとかあるのか。 

 目的は何だろう。

 ストーカー……。いやそれは無いだろう。

 あでも、これも一種のストーカーか。


「どうしようかな」


 少しオレンジ色のがかかった雲を眺める。

 雲が答えてくれることなど無いか。

 仕方ない。


「えっと、ついてきている君、出てきてくれる?」


 振り返ってみると、すっと茂みから出てきてくれた女性。

 何かものすごい険しい顔をしている。


「あのー」


 恐る恐る問いかける僕に対し、女性は僕に向かって左手を突き出した。


「ちょっと待て。もう一人いるだろ。後ろに」


 女性は後ろに振りかえり、奥の茂みを睨む。


「ゲー。バレていたか」


 その茂みからすっと両手を挙げて現れたのは、二つのお団子頭が特徴的で、服装は何というかかなり奇抜の恰好した女性だった。

 というか、尾行が二人って一体どういうことだよ。

 しかもお団子頭の人は全く気配なんて無かった。


「バレていたのなら仕方ない」


 お団子頭の女性が肩をすくめながら歩き出し、ライブTシャツの女性の前に出てくる。


「私は部活統括委員会の書記、二年の金橋かなはし皐月さつきです。あなたの事を監視していたんです」


 ビシッと僕を指さしてきた。 

 

「ちょっと待って、いつから尾行していたのですか」

「え。後期始まってからずっとですよ」


 な、何だと。どういうことだ。思わずライブTシャツの女性と目を合わせようとしてしまうが、視線を外される。


「えっと。金橋さん。何故。僕の尾行を」

「それはあなたの所属している『オタマジャクシズ』が危険な部活だからということです」

『……え?』


 今度は二人の声が重なった。一人目の尾行者の女性の反応にもツッコミを入れたいところだが、金橋の衝撃発言の方が今は気になってならない。

 僕らの部活が危険だって?


「えっと、どういうことですか」

「言葉そのままの意味ですよ」 

「どこがどう危険なんですか」

「それは、あなたの部活に凶悪な戦闘部隊がいるということです」

「……」


 凶悪な戦闘部隊って、ど、どういう……。あっ。

 途中で何となく察しがついてしまったことがとても恥ずかしい。その誤解の元凶を知っている上に、その人達に僕は度重なる被害を負っているのは事実だ。

 だが、それが部活外まで広がっているとは思わなかった。

 どうしようか。いるとは答えない方がいいか。


「あー。それはたぶん誤解です」

「ほほう。それはどうして」


 物凄く上から見下ろされる。めちゃくちゃ疑われている。


「ジャグリングの部活でどうして戦闘部隊がいるのですか」

「ジャグリング? はて。君の部活はジャグリングをしているのか?」

「そ、そうですけど」


 あれ。何でそれを知らないのだろうか。尾行していたのに。 


「あのー。さ、金橋先輩。どこまでついてきたのですか?」

「えっと。私の授業ない時と、放課後手前まで」


 となると部活の様子まで見ていない可能性もあるのか。それに案外素直に答えてくれる人だ。


「そもそもジャグリングってなに?」

「そ、そこから?」


 首を横に傾ける部活統括委員会書記。

 予想外の質問……。

 いや。四ヶ月以上前の僕ならそう思っていたかもしれない。世間的に考えればまだマイナーな分類だったような。

 どうしよう。どう説明しようか。実際にやれば早いのだが、こんな公の場でやるのも少し忍びない。


「昔の遊びのお手玉ってご存知ですか?」

「うーん。それは知っている」

「簡単に言うとそんな感じです」

「じゃあ。やってみて!」

「ええ?」


 金橋先輩がギラギラした期待と、挑戦的な上から目線を足して二で割ったような瞳で僕を見つめる。

 結局やることになるのか。

 近くにいるもう一人の尾行者は未だに仏頂面のままだし。なにこの気持ち悪い状況。

 だがこのまま誤解のままはいやだし。

 僕はショルダーバックに手を突っ込みゴソゴソと動かしてボールを取り出す。


「仕方ないですね。ちょっとだけですよ」

「おう!」


 金橋先輩がググっと近づいてきた。

 隣の尾行者さんは腕を組んだままである。

 僕は、軽くボールを投げ上げて3ボールカスケードを見せる。そしてそのあとお手玉と同じような軌道で三つのボールを回してみせた。


「おお! それがジャグリングというものですか?」


 反応が日本に来た外国人が片言で驚くみたいだ。 

 でもこれでジャグリングというのを少しでもわかっていただけたら、もう尾行しないよな。

 ボールを全てキャッチすると、金橋先輩にパチパチと拍手された。


「なるほど。分かった! じゃあ次は」


 バヨンバヨ~ン。バヨンバヨ~ン。


「はい」


 金橋先輩はポケットからスマートフォンを取り出して、耳に当てた。

 今のは着信音だったのか。何というセンスだよ。

 奇抜な服装といい何かもう色々変な人だな。そして金橋先輩は電話をしながらふむふむと頷いて納得し、ポチっとスマホを切った。


「ごめん。呼ばれたから今日は帰る! それに君は特に害は少なそうだから、もう尾行はしないと思う! じゃあ!」


 そう言って、さっと手を振りながら金橋先輩はその場を去った。

 嵐のような人だな。

 そして残された最初の尾行者と僕。

 女性は未だに無言のまま、しかめっ面で突っ立っている。何でこんなに機嫌が悪いのだろうか。わからない。どうしようか。


「あのー」

「あ!?」


 もうヤンキー並みに尖った視線をぶつけてくる。物凄くご立腹である。僕なんかしたのかな。いや。怒りたいのは僕の方だよな。本当にどうしよう。


「また。ついてきます?」

「……いや。今日はいい。それに……」

「それに?」


 言葉が聞こえず、僕は少し距離を詰める。するとプイッと跳ねた毛先を揺らしながら、そっぽを向かれた。


「あんまりさらっと道端でジャグリングするんじゃねえ! そういうのはもっときちんとしたところでやれ!」

「えっ。は、はい」

「じゃあ。またな!」

「は、はい」


 ヤンキー気質なライブTシャツの女性は、ポケットに手を突っ込みぶつくさいいながら去っていった。

 一体なんだったんだ。

 全く話がわからず、ただただその場に立ち尽くす僕だった。


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