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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『ライトアップポイは誰のものか』

 体育館での久しぶりの練習。

 と言っても夏合宿ぶりだから、そこまで久しぶりでもないか。みんないつも通り各々練習している。一人で練習、またはどこかで追いかけっこが始まったりと、相変わらずワイワイやっている。これがこの部活の良いところである。


「大ちゃーん。ど、どうしたのスマホ壊れていたの?」

「そ、そうだよ。だから今日まで連絡取れなかったのはごめん」

「う、うん。それはいい、大ちゃんが生きていたから大丈夫」

「って泣くほど!?」


 何かメグがいつも以上にテンションが可笑しくなっている。大ちゃんも何か雰囲気変わった?


「おい。部室にお前らの忘れ物だがあったぞ」

「っておい。全力で投げつけるな。って何だこれ」

「おお。これどこに行ってたかと思えば、そこにあったでござるか」


 耕ちゃんはきちんと忘れ物を投げつけていた。


「カゲル。できるようになった」

「ええー。スゲー」

「ポイか。何か楽しそう」


 亀山田君のポイの成長に驚くカゲルと、リングを練習しながらチラチラとポイを見るリナである。 


 で、私はというと。


「このポイ。アヤメの?」


 部室で見つけたライトアップポイを右手にのせて、アーヤに見せる。


「んん?」


 アーヤはじっとライトアップポイを睨む。


「これクリスタルポイ?」

「んん?」


 何て言った? クリスタルポイ? ライトアップポイじゃなくて。


「く、くりすたるぽい?」

「これの種類。名称と言えばいいかな。ライトアップ用のポイだけど、形状が違うからね。これ、部室から出てきたの?」

「そうそう」

「でもこれ私の物ではない。私、自分のあるし」

「ほんと?」

「ほんと。ほんと」


 アーヤはジャグリング用の紺のリュックから、すっと取り出した。私が持っているものと同じ形状のポイである。


「ほんとだ」


 アーヤが本格的にジャグリングを練習し始めてから驚いたことだけど、アーヤは一体どれだけ道具を持っているのだろうか。よく持って来るようになった紺のリュックがとても気になる。


「で、他には何か出てきた?」

「変な雑貨や服はあったけど、持ち主にちゃんと返却済み。大抵はあの三人組。これだけわからない」

「うーん。ちょっと貸して」


 アーヤはポイを両手で持ち上げて、確認する。そして親指で二回程ボタンを押す。


「これ。電池切れ?」

「たぶん」

「放置されていたから当然と言えば当然か。それに名前とかも書かれていないみたい」

「うーん。一年ではないと思うし」

「うーん」


 私とアーヤは二人揃って腕を組み考え込む。これを使っている人間。そもそもポイをする人間はアーヤと始めたての亀山田君だけで他にはいないし。掃除メンバーは違うと言っていたし。残りのメンバーにとりあえず訊いてみたほうが早いかな。

 ちょっと面倒だけど。


「あー!」


 するとどこから聞こえてくる可愛らしい声。

 振り返ると、両腕を後ろに伸ばしながらトコトコと駆け寄ってくる姿があった。


「それわたしの! ってどええー!? 二つある!?」


 立ち止まって両腕を上に挙げている。

 反応がアラサーとは思えない。あ、でも今の子でも「どえー」は言わないか。それよりもこのポイ、顧問の物だったのね。


「ふふ。さあ。どっちでしょう」


 アーヤがかなりノリノリな表情で、別々に両手にボイを持って、あたふたする日暮顧問に見せつける。

 全く一緒だ。これは普通はわからない。現に私も見失ったせいでわからない。

 ムムっと両方のポイを睨み付ける顧問。


「こっち」


 ガシッと奪いとり、マジマジと確認する。そしてカチッカチッと押す。


「あっ。つかない。それもそうか。白峰さん。中谷さん。ありがとう!」


 ポイを頬に擦り寄せて慈しむ顧問。そして体育館の隅に置かれたバックに向かって一直線に走っていった。

 さりげなく正解のポイを当てた顧問である。


「なんで分かったの」

「自分の物だからじゃない。自分の道具なら何となくわかるはず」


 疑問に思う私に対し、さも当たり前のように答えるアーヤ。

 自分の物か。なるほど。自分の持っているボールを見てみると、まあ確かにわからなくもない。


「で、アーヤのポイは光るの?」

「当然」


 カチッとボタンを押すとピカッと光った。紫色とピンク色の二色であった。


「でも少し弱い」

「周りが明るいからじゃない」

「それもそうか。で、回すとどうなる?」

「んー。 どうしようかな」


 考え込んでいるフリしてにたーと笑いだすアーヤ。これ楽しむ気満々の時のアーヤである。こういう時のアーヤはわりと手ごわい。駄々をこねると調子に乗るタイプだ。どうしようか。


「ああ! アヤメ先輩の持っているポイって。まさか!」


 ものすごい勢いで走ってくる少年を発見。めちゃくちゃポイを振り回している。

 アーヤはすかさずライトを消して、さっとポケットに隠していき、何も無い素振りを見せる。


「部長!! あれやはりアヤメ先輩だったっすか!」

「えっと」


 アーヤに目配せをすると、ひとつ軽く頷かれる。そんな合図でわかるわけが……。なるほど。


「そうだよ。ね」

「そう。私が探していたやつ」

「じゃあ光るポイを見せてくださいっす!」


 亀山田君の好奇心旺盛な部分は相変わらずである。


「んー。まだ君には早い!」

「なんですっと」


 腕を組んで仁王立ちになるアーヤ。どのキャラを真似ているのだろうか。しかも意外とノリのいい亀山田君。


「どうしてっすか」

「君の実力が足りていない! まだ基礎をしっかりとできるようになったら来なさい」

「わ、わかったっす!」


 びしっと敬礼をして、さーっと勢いよく戻っていった亀山田君であった。


「ふー」


 一つ息をつき、額の汗を拭ったアーヤを見て、私は二度ほど瞼をパチパチとさせた。


「えっとアヤメさん?」

「カスミン。どうしてさん付け?」

「いや。私がそばでいる時よりも、明らかに違ったキャラが見えたから」

「あー。単に亀山田君の説得で思いついただけで……。変だった?」

「……いや。そんなことないよ」

「ちょっと、その一瞬の間は何?」

「大丈夫大丈夫だから。見ているのは私だけだったから」


 そう言ってみるが、アーヤの顔が少しずつカーッと赤くなっていくのが分かった。なるほど。自分でも気がついていなかったみたい。

 一応確認のために周りを確認する。みんな黙々と練習をしている。たぶん大丈夫だろう。


「とりあえず。今日の事は忘れて」

「わ、わかった」


 あんなに羞恥に耐えるアーヤを初めて見たのだった。


 程なくして練習も終わり帰り道。

 

「アヤメ。落ち込んでいる」

「いや。別にそうでもないけど」

「いやー。中谷さんも心開いてきたことじゃないかな」


 日暮顧問はアーヤの亀山田君とのやり取りを目撃して、何やら独りでご機嫌よく前を歩いていた。それを聞いていつもより元気のないアーヤである。


「顧問。あまり他の部員に言わないでください。あと何ですか、その首につけているライトアップポイは、ファッションですか」

「そうだよ。新たなファッション! 電池入れ替えたばかりだから明るさ抜群! 車からも自転車からも私の姿が見えるから、夜歩いても安全だよ!」


 顧問の首にかけられたライトアップポイは、青と黄色のライトであり、チカチカと点滅して光っている。暗いから、体育館の中よりも一層光を放っている。


「顧問。どこかのテレビショッピングの回し者ですか。あと説明内容がちょっと年寄り臭いですよ」

「ムキっ! 中谷さんそれは言わない約束でしょ!」

「すみません。あまりにも子供っぽいファッションでしたからつい」

「子供とも言うな!」


 アーヤの方がわりとムキになっている。


「まあまあ。その辺で。顧問もあまり言わないでください。気にしているので」

「えー。褒めていたのに。だって前に比べたらだいぶ丸くなったんじゃない」

「そ、そうですか?」


 予想外の言葉にアーヤは少し考え込む。

 最近顧問と同じことを私は思っていた。何か、ジャグリングを自らするようになってから少し楽しそうなのは何となくわかる。本人は気付いていないと思うけど。


「そのうちわかるよ。それよりも、明日くらいかな。大学祭の打ち合わせじゃないの? 大丈夫?」

「嫌な事思い出させないでください」

「同じくです」

「あー。ごめん。その気はなかったけど、一応確認したくて」


 顧問の言葉により、気分が急に重くなった。正直大学祭はとても出たいと思っている。でも私たちがやらかしたことを考えると、少し心が苦しい。

 アーヤも同じく思っている事だろう。

 顧問も話は聞いていたらしい。実は海外からでも色々擁護してくれたやら何やらと、動き回ってくれたみたい。細かい事まではわからないけど。


「覚えてはいます。先生にも迷惑をかけました」

「それはいいよ。部活の顧問は部員の責任を取るものだし」


 この顧問はいつもはあーだが、ここぞの時はきちんとしてくれている。だから私とアーヤは信頼しているし、支えにはなっている。だけど今回はやはり不安である。


「大丈夫。なるようになるさ」


 顧問は私たちの前をスタスタと歩いていく。

 この子供の様な前向きな気持ちを私にも欲しいと思った。

 でも考えても仕方ない。オタマジャクシズを有名にさせるためにも頑張ろう。


「アヤメ頑張ろうか」

「そうだね。カスミン」


 アーヤは少しだけ苦笑いを見せた。でも彼女の瞳はしっかりと力が込められていた。

 私は顧問の背を見ながら、明日に向けて頑張ろうと思ったのだった。

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