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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『キャンパス内のとある一室にて』

「ふう」


 少し大きめの部屋の、窓際の一際大きい机に座る黒縁眼鏡をかけた女性。A4の資料に目を通し終えると、テーブルの端に積み上がった資料郡の上に置いた。眼鏡を外してから、机に両肘をつき溜め息を一つ溢した。


「ちょっと休憩でもするかい?」


 男性は女性の目の前に、すっとティーカップを置く。


「ありがとう」

「いえいえ」


 にっこりと笑う女性に、男性は少し口角を上げた。


「せんぱーい。私たちにも紅茶くださーい」


 少し離れたテーブルで団子頭の女性が椅子にぐてーんともたれ掛かっている。


「金橋さん。今度の説明会の配付資料の準備できたのか?」

「もちろん。出来ましたよ。あとは印刷するだけですよ!」


 金橋という女性はノートパソコンをさっと男性に向ける。

 男性は目を細めて怪訝そうに見つめた後、「ふむ」と一言呟き、彼女の前にティーカップを置く。


「じゃあ、後で見本を印刷しておいてくれ」

「ラジャーです! 堂島先輩!」


 金橋は体を斜めに傾けながら敬礼のポーズをとる。


「その緩い反応に未だに慣れない」


 渋い表情をする。堂島という男は金橋に態度が少々気に入らないようだ。


「その子の性格なんだし、仕事はやっているんだから多目にみてあげて」


 女性は眼鏡をつけ直し、カップに口をつける。頬が緩み満足そうに味わっている。堂島は二度程眉をひそめ、一つの小さな溜め息を漏らす。


「あなたが言うなら仕方ないですか」

「わかってくれた?」


 またにっこりと微笑む女性である。


「すみません。堂島先輩。僕にもください」


 端の本棚が多く並べられた近くのテーブルで、ばたりと顔をうずめて手だけ挙げている。堂島はすぐに彼に近づき、コトっと紅茶を置く。


「大丈夫か? 純浦君」

「大丈夫と訊かれたら、大丈夫じゃないですけど、とりあえず一段落はしました」

「それはよかった」


 堂島は澄ました表情だった。起き上がる純浦は、ゆっくりとカップを手に取り紅茶をすすった。満足そうな笑みを浮かべ、もう一口と紅茶を飲んでいく。


「相変わらず対応は塩っぽいですけど、紅茶淹れるのは上手すぎません?」

「それは褒めているのか、けなしているのか」

「両方褒めていますから。むしろその塩っぽさがいいというか……」

「わかった。わかった」


 堂島は純浦の言葉が増える前に話を無理やり切った。対して純浦は満足そうな表情で堂島を眺めながら紅茶を啜りはじめる。


「あなたも大変な身だね」


 不適な笑みで紅茶を片手にA4の資料に目を通す会長。


「全くだよ」

「ええっ! ディスられた!」


 堂島は肩を上下させるように小さく吐き捨てると、金橋のくりっとした目がさらに大きく開かれた。

 純浦は無反応。いや僅かに頬骨が上にあがっている。


「あんたも相変わらずね」


 若干顔をひきつらせる金橋に対し、純浦はジトーとした視線を送り返す。彼は何か一言金橋に言うのかと見えたが、特に何も言うことなく堂島を見つめ直す。金橋は呆れた様に「ハハ」と乾いた笑い声を発した。

 中央奥に座る女性はそんな三人の姿を横目で一瞥して、また紙を一枚摘まんで眺める。ぴくっと眉をひそめ手の動きが止まった。


「どうかしたのかい?」


 堂島は女性の一瞬の動きの違いに反応し、静かに後ろに回る様に歩んでいき、女性が手にしている紙に視線を落とす。


「例の部ですか……」

「そう。活動禁止期間にもかかわらず、懲りずに出してくるとはね」


 一度正面に紙を置き直して見つめる。


「私は規則を守らない部なんて、大学祭に出すべきではないと考えますが……」

「それも思うんだけど、出さないと言うと面倒なことが起きる気がする」

「何でそんな気がするんですか?」


 金橋は椅子を斜めに浮かせながら手を挙げる。


「押さえつけは逆効果。暴動が起きても面倒だし、教員と戦う戦闘員もいるから、大学祭でまたそんな騒動起こされても困るし、前以上に収集がつかなくなる」

「そんな物騒な集団なのですか」


 にやけ顔から真顔に戻っている純浦。

 女性は静かに頷く。


「話を聞く限りね。実際の行動は見てないからわからないけど、キャンパス内で大暴れしたというくらいだから」

「怖い集団ですね」


 シーンと流れる沈黙。


「で、どうするつもりなのですか?」


 堂島の疑問に、後輩二人が女性に注目が集まる。

 彼女はニヤリと不適な笑みを浮かべたのだった。

 

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