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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏合宿!』 その10

「相変わらず。騒がしいことで」

「でもこれがうちの部でしょ」

「そうだね」


 体育館を眺めながアーヤと二人隣で練習しながら眺める。その目の前を日暮顧問が走り抜け、その後ろをエリとてるやんが追いかけていく。


「そんな事をのんびり思う暇があったら、私を助けなさいよ!」


 顧問の泣き叫ぶ声が聞こえる。全く一瞬でも目を離したらこうなるのだから。私は溜息を一つ吐いた後に、道具を床に置いていく。


「てーるやん? エーリ? 真面目に練習したら」


 パキッと拳を鳴らす。


『はい! 直ちに!』


 ビシッと背筋を伸ばすと、ササッと道具を持って練習しに戻った。

 毎回のことだが、相変わらず懲りない人たちである。


「ふえーん。こわかったよ!」


 顧問が泣きついてくる。知っている身からしても、この人が年上なのか疑問に思ってしまう。時間だけが先走ってしまったのかな。


「相変わらず大変だな」

「本当に困ります」


 近くでディアボロを回す耕次先輩と後ろにひょっこり隠れてリングを指でグルグル回している利奈であった。珍しい組み合わせ。


「そう思うなら、早めに止めに来てくれるのが嬉しいのだけど」


 かなり真面目の抗議の眼差しを送る。


「そうしたいが、エリ一人で手いっぱいになるからな。それにガチバトルになりそうなんだが」


 悩みを溢しながらも、手慣れた感じで太い腕の回りをぐるぐるとディアボロを走らせる耕ちゃん。

 耕ちゃんの言い分も納得はできる。あの二人が本気で戦ったら、確かにやばい事にはなりそう。

 だが、もう少し手伝ってほしいかな。


「で、とりあえず。私はエリ先輩の攻撃から逃れるために後ろに隠れていたわけです」


 と言いながらも、リナもリングを二個指に引っ掻けて器用に回している。話ながら練習する姿を見ると、だいぶ慣れてきたみたい。メグ、大ちゃん、カゲルも、一年生は入部当初に比べると格段に上達している。後輩の成長って早い。私もうかうかしてられない。暫く練習していたことを後悔したくなるけど、そんなこと思っても仕方ない。後輩が練習しているんだから。私も頑張らないと。

 後輩の姿を見て触発されるって、やっぱり団体練習は必要。それにいつもの日常に戻ってこれた気がする。強引に実行してよかったと思う。

 フフッと笑いが込み上げて来た。


「ええっ。何ですか。私はかなり困っているんですけど」

「違う違う。こういう光景が久しぶり過ぎて、ちょっとだけ懐かしんでしまったというか」

「……。納得はできました。でも少し複雑です」


 物凄く渋った表情を見せるリナ。

 ちょっと油断したかな私。


「それはのちのち慣れるから大丈夫じゃない?」

「アヤメ先輩。他人事の様に言わないでください」


 むすっと頬袋を膨らますリナ。

 それを見たアーヤは、リナの頬袋をつんと人差し指で軽くつつく。パッと顔を赤くして頬を手で押さえるリナ。

 

「カスミンせーんぱーい! アヤメ先輩まで私をいじってきますー」


 道具をポイッと上に投げ捨てて、思いっきり抱き着いてきた。顧問と合わせて二人になった。

 

「アヤメ。いじり過ぎ」

「えー。そう?」


 眉を上に二回動かして、にんまりと微笑むアーヤ。

 最近少しずつプライベートの性格が現れつつある。今まで部員のみんなと少し一線を置いていた感じだったのに。


「アヤメ先輩。今度は『後ろ8ビート』ができるようになったっす! 見てくださいっす!」


 亀山田君が、子供の様にはしゃぎながら、バサバサとポイを両手で器用に振り回しながら走ってきた。


「はいはい。わかったから、ちょっと待って」


 アーヤが珍しく取り乱しているというか慌てている。前に両手を開いて、走ってきた亀山田君を制止させていた。

 亀山田君の勢い恐るべし。


「そういやカスミン。今日の夜って何かやるのか」


 今度は背中の後ろにディアボロを走らせながら訊いてくる耕ちゃん。本当に器用だね。


「フッフッフッ。ちゃんとイベントがあるよ」


 私はもったいぶる様にムフフと笑った。



「3、2、1、ゼロ!」


 ヒューン。ヒューン。ヒューン。

 バァン! バァン! バァン!


 漆黒の夜空に彩られた三種類の色鮮やかな花火たち。


『おおお!』


 砂浜に座っている一年生諸君は空を大きく見上げて眺める。

 てるやんと、耕ちゃんが火を点けて打ち上げ花火を次々と打ち上げていく。夜空に花開くたびに歓声が沸き上がった。

 すべて打ち終わると、私は手持ちの花火セットの袋をビリッと手で破き、手持ち花火を取り出した。

 後輩たちに手持ち花火に渡した。


「花火なんて久しぶり!」

「僕もかな」

「私も!」

「確かに」

「何かテンションが上がってきたっす!」


 皆花火を手に取り、一斉に砂浜に駆け出していった。すぐに緑、赤、黄色といった色とりどりの色が光り出す。


「カスミン。ロケット花火ないでござるか」


 ぬっと後ろから現れるエリ。

 いかにも悪だくみをしていそうな表情をしている。何を企んでいるかが丸解りである。


「ロケット花火を後輩に向かって打ったら、今度は私がエリにロケット花火を撃つから」

「心外でござる! そこまで後輩に物騒なことはしないでござる」

「あら。ならいいんだけど。過去があるからね」

「うっ」


 グッと胸を押さえるエリ。

 オーバーなリアクションなこと。


「まあ。いいわ。あるよ。ロケット花火。とりあえず上に向けて打ってよね」


 バックからロケット花火セットを取り出すと、ハイとエリに手渡す。


「ありがたき幸せでござる!」


 ロケット花火セットを、両手で頭の上に持ちあげて、ピョンピョンと跳ねるように、砂浜に向かっていった。


「やあやあ。後輩諸君! 俺の渾身の一発芸を見よ!」


 てるやんが一つの花火の筒を肩に担いで走ってくる。その後ろを耕ちゃんが付いていく。

 後輩たちが一瞬ギョッとするが、てるやんが近づく手前で筒を砂浜の上に置くと興味津々で見始めた。

 

「何をやるのだろう。あいつら」

「危ない事しないよね」


 アーヤと日暮顧問が、隣で呆れた表情と不安の表情で見つめている。

 てるやんは、その筒から少し距離をとった。そして耕ちゃんが筒に火をつけるとすぐさま離れた。

 筒からはブシュッと綺麗な黄色の火柱が噴き上がった。そこに向かっててるやんが全速力で突っ込み、目の前で両足を踏み込んだ。

 火柱の上をてるやんの体が綺麗な宙返りをしながら通過した。

 凄いと純粋に思った。

 

 だが……。


 着地の瞬間に足を滑らせ、背中から柔らかい砂場にボフッとダイブしたのだった。


「プッ!」


 隣のアーヤが噴き出して、笑い始めた。


「プッ。アハハハハハ。やっぱ。てるやんはオチがあるから面白い」


 後輩とは逆の場所にいたエリが腹を抱える。


「最後まで決めきれないところが、何かおもろいわ」


 耕ちゃんがプルプルと震えている。


「くそ! もうちょいだったのによう」


 ムクッとなにも無かったかのように起き上がるてるやん。アフロと背中が砂まみれになっていた。

 その姿を見て、時間差でメグとリナが笑い始める。


「先輩。途中までものすごく格好良かったのに、最後それって」

「うっせえ! いいだろ。逆に決まるよりはいいだろ」


 腕を組んでムスッと鼻息を鳴らす。体についていた砂がばふんと勢いよく舞い上がり、顔に砂が付着していく。

 大ちゃんとカゲルが遅れて笑いだす。


「先輩凄いっす! 今度教えてくださいっす!」


 亀山田君が全速力で、てるやんに向かって走り出した。


「え。そうか。そうかい?」


 砂まみれの顔を少し紅潮させて上機嫌になっていくてるやんだった。

 みんな各々で花火を楽しんだ。


 一年は皆まとまって花火をしていた。突然メグが大ちゃんに近づいて、大ちゃんがビックリしているのを三人が眺めたり、耕ちゃんがてるやんを肩車にして謎の花火タワーを作ったり、エリがただひたすらロケット花火を上に打ち上げて楽しんでいたりと、傍から見ても面白い光景だった。



「アホみたいだけど、ここの部、やっぱ面白い。日本に帰って来てよかった」


 日暮顧問が手持ち花火を上に向けて持ちながら、ワイワイとしているみんなの姿を眺めている。


「あれ? もうあの三人には慣れたんですか?」

「それはまだだけど、でもこう顧問と生徒との差が少ないからいいかなと思っている」


 あら。そんな言葉が出るとは思わなかった。てっきりあの三人のことかなり苦手意識強めだと思っていたけど。


「でも、まだあの三人は苦手だよ」


 そこは変わらないのね。


「でも社会人という現実を一瞬でも忘れられるから、いいと思うよ」


 なるほどね。


「私たちの同期はバカばっかだし」 

 

 アーヤが私が下に向けている手持ち花火に、自分の持っている花火の先を引っ付けて火をつける。


「だけど、まあ何かいいよね。こういうのって」


 クルッと花火を回して同じく眺めるアーヤ。

 そう何かいいのだ。堅苦しくもなく、年による上下関係もほとんどない。こんな感じの部活。それが何とも心地いい。


「そうだね」


 三人揃ってこの楽しい光景を眺めた。


「おっしゃー。最後に合宿終わりに記念撮影しようぜ!」


 てるやんが近くに置いていた荷物からカメラと三脚を取り出す。すると後ろで耕ちゃんが新たな花火の筒を生みの近くに縦てて並べている。

 一人で楽しんでいたエリがダッシュでやってきて、一年生はよくわからないけど真ん中に集まってきた。


「題して、十本の花火噴射をバックに全員ジャンプ写真だ」

「おお!」


 ホント発想が面白い。


「案外マシなの考えるんだ」

「でもそれ長いですよ!」

「じゃあ。JBJ写真だ」

「かっけーっす!」

「うそっ!?」


 てるやんが三脚を立ててカメラを設置した。


「おーい。カスミン達も、こっちこーい!」

「はーい。行くよ」


 思いっきり手を振り返した。


「じゃあ。顧問も行きましょうか」

「え? 私も写るの?」

「何言っているんですか、顧問ですから写るものでしょ」


 アーヤが顧問の腕を軽く引っ張るように連れていく。顧問は少々恥ずかしがりながらも、しっかりとアーヤの後ろについていく。

私も駆け足で向かった。

 みんな集まり一人一人手をつないだ。そしててるやんがカメラのシャッターを押して走り出し、エリと耕ちゃんが後ろの噴射花火に火をつけた。

 ブシューっと後ろに壮大な音と光を浴びた。てるやん、エリ、耕ちゃんも両端で手をつないだ。


「行くぜ。せーの!」


 全員夜空に向かい飛び上がった。


夏合宿編終了です!

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