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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏合宿!』 その9

 黙々と練習をしていると、ふと後ろから声をかけられた。


「数谷君。今時間いい?」


 振り返ってみると、大介がシガーボックス三つを腕に抱えて立ち、少しソワソワしている。

 大介が自ら話しかけてくるとは珍しい。

 一体何の用だろうか。


「いいけど、どうした?」

「いや。盗み聞きしていた訳ではないけど、偶然聞こえてきたから、気になったからなんだけど」

「道具が消えた話しか」

「それ。実は僕も大学に来る前にあった」

「……マジか」


 唐突なカミングアウトに、持っていたボールを一つ、床に落とした。


「そ、そうなんだ。で、道具は勝手に戻ってきたのか」


 こくんと頷いた。

 大介もか。となると他にもいるのか。信じられないと言えば、信じられない。

 でもカスミン部長の消失を目の当たりにして、それを真面目に信じたから、「何を今さら」と思われるかもしれないが。

 こんなにも身近に起きるものなのか。


「でもあんまり深く考えなくていい。それ自体が悪影響になるわけではないから」

「そ、そうか」


 悪くはならないか。

 アヤメさんも悪くなるとは言ってはいなかったな。良くなるとも言わなかったが。


「まあ。特段気にしなくていいと思う。それよりも」

「ん」


 大介が右手を後ろポケットに突っ込み、ゴソゴソとして何かを取り出した。手に握られていたのはボールだった。大介がボール?


「どうした?」

「いや。何というか。部長とカゲル、城ヶ崎先輩とメグ。西条先輩とリナ。一緒にジャグリングしている姿を見ると、僕も誰かとジャグリングしたいなと思って」


 なるほど。確かに二人で演技したことない人は新入りの健三君を除けば、あとはてるやん先輩だけか。みんながやっているの見ると、憧れるものなのか。ただ二つ疑問がある。


「大介。ボールもできるのか」

「一応。始めはボールをやっていたから」

「そうなんだ」


 驚くまではいかないが、ちょっと意外だった。いや単に僕の想像力が足りないだけか。何も一人が一つの道具しかできないというわけではないか。アヤメ先輩に至っては殆どの道具、一応扱えているし。


「あと、もう一つ訊きたいのだが。僕は良いんだけど、メグには頼まなかったのか」

「ああ。メグは、そのー。僕ディアボロはできないし、それに何かとオーバーになりそうだし」

「なるほど」


 後者は納得できるし、容易に想像できる。

「アヒャー」とか言ってそう。


「わかった。じゃあ。何のパッシングする?」

「先輩とはいつも4カウントパッシングしているの?」

「フォーカウント?」


 何だそのワードは。初めて聞いたぞ。


「あれ。言われなかったの?」

「まあ。パッシングは、1・2・3・ハイ! というテンポで投げろとしか言われてない」

「それそれ」

「ああー。それ」


 二人でするボールは色々種類はあるのだが、よくやる演技はパッシングという、お互いに向かい合ってスリーボールカスケードの基本技をして、タイミングを合わせて互いに一球投げて入れ替える技だ。

 入れ替えるタイミングもあるのだが、僕らがよくやるのは、先程述べたようにフォーカウントは三回投げた後、四回目のタイミングで相手に投げる。これがいつもやっているパッシングだ。


「じゃあ。ツーカウントでやってみよう」

「お、おう」


 何だろう。いつになくテンションが高い。メグに対してこんな表情したことないよな。

 と大介の変貌にやや驚きつつも説明を聞いた。

 ツーカウントは「イチ・ハイ・イチ・ハイ」とハイのタイミングで投げる。単純に言うと左手のボールを山なりに右手に投げてその浮いている間に右手のボールを相手にパスするという感じである。テンポ的には餅つきの感じだと思う。と軽く説明してくれた。

 ということで実践。

 

「せーの」

『イチ・ハイ! イチ・ハイ! イチ・ハイ……』


 凄く忙しい。ものすごく手が忙しい。特に落とすと相手のペースも考えてしまうとか、そんな緊張感も……。

 ポロッとボールを落とした。もちろん僕だが。


「パス悪かった?」

「いや、単に僕が落としただけだ」


 転がったボールを拾い上げて、練習を再開する。これは所々に入れればいいアクセントとスピード感がでるから使えるだろうか。

 ポロッとまた落とす。もちろん僕だ。その後も何度も落とすが、ほぼ僕しか落としていない。大介は一回しか落としていない。少しの違和感を覚える。


「大介? もしかして結構ボールできたりする?」

「いや。そんなことはないって」


 目の前で慌てふてめく様に手を振る。それでも僕は疑念の視線を送り続けてあげる。まだ奥の手を隠している気がする。あくまで気がするだから、何とも言えないけど、これ以上詮索してもいいけど、もしできたのなら僕の立場が弱くなりそうだな。


「わかった」


 僕が詮索を止めると、大介が妙にホッとしていた事に気づいたが、まあ後々明かしてくれることだろう。

 アヤメ先輩といい、大介といい二種類以上の道具ができるのか。そう言うのを見ると、僕も少し気になってしまう。

 チラッと時計を確認するとまだまだ時間がある。


「大介。シガーボックスを少し教えてくれ」

「え?」


 今度は大介の手からポロッと手からボールが滑り落ちた。そんなビックリすることを言ったか。言っていないよな。


「ん?」


 気がつくと、いつも以上に僕との距離が近くなっていた。瞬間移動をしたわけではない。単に気がついてなかった。大介はプルプルと震えていた。そして顔を下に向けたまま僕の両肩をガシッと掴んだ。


「カゲルゥ! 本当に興味持ってくれたの?」


 目からウルウルと涙を浮かべている。いや号泣している。それほど嬉しかったのか。


「だ、だいじょうぶか?」

「だ、だいじょうぶだよ。それよりカゲルは大丈夫なの? シガーボックスは見た目に反してとてもしんどいし、体力使うし、足腰ヤバイし、三分ぐらいしたら長距離走ったあとみたいになるし」

「えっ。そうなのか。ってありとあらゆる短所を言っているけどいいのか」

「えっ。そんなこと言ったの? いや。何かテンション高くなって。今までシガーボックスをやろうと言ってくれた人いなかったし」


 大人しい大介が、必要以上に腕と手が動いている。興奮しているとは珍しい。

 でもシガーボックスってそんなに人気ないのか。見てる限り結構凄く見えるから、僕は興味はあるのだけど他の人はそうでもないのか。

 とりあえず、やってみようか。


「大介。ちょっと借りていい?」

「え、うんうん。いいよ」


 さっとシガーボックスを押し付けられるように渡された。

 いつになく瞳をキラキラしている。演技している時よりキラキラしているかもしれない。というかマジマジと見つめられている。

 

 や、やりずらい。


 どれだけ、やってくれる人がいなかったのだろうか。

 気になることや疑問を思いつつも、シガーボックスを一個ずつ横向きで並べる。両端の箱を上から掴んで真ん中の箱を少し挟むように掴んで持ち上げる。

 手がプルプルと震えてきた。そして、脚と腰も何か震えてきた。

 こんなに力が必要なのか。箱を三つ横に並べて挟んでいる状態で維持するのが精一杯だ。


「こっから。どうしたらいい?」

「えっと。右の箱を捻って」


 大介が目の前で上から下に手を持ってくるジェスチャーをする。

 右の箱を離して浮いている間に箱の向きを変えて挟むのか。


「えいっ」


 変な声を発してから、右箱を離す。

 ガランと真ん中の箱が下に落ちた。

 想像以上に引っ付かない。離した瞬間には真ん中の箱がずり落ちていた。

 もう一度拾って試す。

 今度も真ん中の箱が下に落ちた。これ時間が間に合わないのではないのか。

 

「えっと。なんて言えばいいのかな。右の箱を離すときに真ん中の箱を左に押し出すようにすると、ちょっとの間真ん中の箱が残るから」


 大介がオーバーに真ん中に押し出すようなジェスチャーをしていた。それで上手くいくものなのかと思いつつ実践する。


 カコン。ガシャン!


「おう!」


 確かに一瞬真ん中の箱が浮いていた。だから間に合った。でも挟んだ瞬間にガシャッと真ん中の箱が斜めにずれて落ちていった。


「そうそう雰囲気はそんな感じ」


 最初に比べて感触はあった。ほんの少しわかった気がする。

 だけど、思ったより難しい。大介が簡単そうにしているのを見ると自分でもできそうに見えるけど、実際やってみると上手くいかない。

 もう一回やってみる。


 カコン!

 今度は上手く挟めた。


「おお! できた!」

「おおー! おめでとう」


 大介が自分ができたかのような勢いで喜んでいた。 

 簡単な技だが、大介の喜びもあって仄かな達成感が沸いてきた。

 

「ああ! 大ちゃんがシガー教えてる!」


 メグが道具を放り出して、両腕を後ろに伸ばして物凄い勢いで走ってきた!


「カゲル逃げよう!」


 大介がとても目が済んだような、いやそれほど真剣な瞳で僕に訴えかけていた。

 何だか理解が追い付いていなかったが、とりあえず大介の意見を受け入れた。


「わかった!」


 無言でメグと反対方向に逃げた。


「待って何で逃げるの! カゲルまで!」

「知らない! 理由は大介に訊いてくれ」

「ボクコタエナイ!」


 大介は片言になっていた。

 相変わらず騒がしい練習であった。 

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