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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏合宿!』 その7

 てるやん、エリリナ、耕メグ、大ちゃんの出番は終わった。

 変に緊張していたてるやんとエリは、動きがガチガチだったせいか、いつもののびのびとした感じは無かった。

 だが流石というべきか、道具を落とすことはなかった。終わったあと全身が汗だくだったことに二人の心情は伺えるけどね。

 私とカゲルのパッシングの最中である。

 まだカゲルには覚束無さがまだある。

 でもこの前やったときよりは上手くなっている。

 カゲルの投げたボールが、私の手にスッと収まる位置に飛んでくるようになった。

 後輩の成長は目に見えてわかる。

 私も負けてられない。


「部長! これいつまでするんですか?」

「え? ああ。じゃあ次の次で止めて!」

「了解です!」


 次の次の飛んできたボールをキャッチし、そのままフィニッシュする。


「おおお!」


 亀山田君がものすごく笑顔で、高速小刻み拍手をしていた。

 反応がとても良くて少し安堵した。


「ありがとうございます部長」

「いえいえ。どういたしまして」


 深々と礼をする。

 私こそ礼を言いたい。

 でもまだ言わない方がいいかな。

 それにこのトラウマは私が死ぬまで付き合わなければならない。彼に頼ってしまうのはいけない。

 

「えっと。もう戻っても大丈夫ですよね」

「あ。いいよ」


 カゲルはまた一度礼をして、みんながいるところに戻っていった。その瞬間に彼が少しほくそ笑んでいた。

 

「それじゃ次カスミン。クリスタルね」


 アーヤはポンと私の両手に透明のクリスタルを置く。

 そしてスッと耳元で囁く。


「んで、カゲルとの一時は楽しめたのかな」

「なっ。っていやいや。ご冗談を言うもんじゃない」

「あらそう。ならいいけど」


 否定はしたけど不適な笑みを浮かべるアーヤ。

 ちょっとしたことでからかうのだから、本当に油断ならない。アーヤらしいけど。

 それはおいといて、今は次の道具のクリスタルに集中しよう。



「はい!」

「おー!」


 つかんでいたクリスタルから手を離すと、健三君以外も歓声が聞こえた。

 そういえば、クリスタルをこうやってみんなの前で見せるのは初めてだったかな。

 中々反応が良くてよかった。

 

「何か魔術師みたいでスゲー!」


 亀山田君の妙な例えに苦笑しつつも、何事もなく演技を終えたことに胸を撫で下ろした。


「それでは次はアヤメ! 頼んだよ!」


 ポスッとさっきのお返しも込めていつもより背中を強めに叩くと、少しムッとされた。

 だがそれ以上何も言わずに大き目のナップサックを担いでスタスタと歩いていった。

 いつものアーヤじゃない。ちょっと緊張しているのかな。

 アーヤはみんなの前に立つとスッと一呼吸した。


「はいじゃあ。とりあえず手あたり次第やってない道具するから」

「おお!」


 ナップサックをガコンと床に置いて、すっと長いものを抜き出した。


「あ、見たことある。ボウリングのピンみたいな奴っす!」


 亀山田君の言う通り、形はボウリングのピンみたい。そして細い持ち手の部分がは銀色で、ふっくらした所にワインレッドのラインが横に走っていた。それが三本。 


「その通り。『クラブ』という道具です。じゃあとりあえずやってみます」


 軽く投げ上げる。クラブが縦に一回転し、そして手に吸い込まれるようにクラブの取っ手が手に収まる。

 くるくると回るクラブを簡単に掴む、そしてまた簡単に足の下を通したり、背中の後ろを通す。 

 そして一本を投げ上げてクルッと回って掴む。


「おお!」


 緊張している風に見えたけど、何事もなくこなすアーヤは凄い。


「そういやアヤメってこう道具持っているのって何か新鮮だな」

「確かにな」

「前は正直ドタバタしてちゃんと見なかったでござるし」


 腕を組んでマジマジとアーヤの演技を観察する三人組。珍しく目が真剣であった。

 明日は雪でも降るのだろうか。


「では次!」


 ナップサックから引っこ抜いたのは、二つのボール?

 と思ったが、ボールからヒラヒラとした長い虹柄のリボンが伸びている。またボールからチェーンらしきものも繋がっている。

 どこかで見たことがある様な……。


「はい。これは『ポイ』という道具です」

「ポイ?」


 そこらへんに捨てられそうな軽い感じの名前に聞こえる。


「あー。確かどこかの国の儀式で使われていた道具でしたよね」


 カゲルの後ろにちょこっと隠れるようにいた大介が珍しく呟いた。


「そうそう。これはニュージーランドの先住民が儀式で使ってたもの。それがジャグリング用になったのがこれなんだけど、大介知ってたの?」

「昔ちょっとかじった時に調べまして、でも自分の性に合わなかったから今はやってないですけどね」

「ええ。大ちゃんやってたの? この後の練習で見せて?」

「ええ。僕そんなできないって!」

 

 相変わらずメグは積極的なことで。

 もともと儀式とはね。何の儀式やっていたのだろう。ぼんやり想像してみるけど、魔法陣の周りをぐるぐる人が回っているという発想しか出てこずすぐに消去する。


「はいはい。やるよ」


 アーヤは横向きになりそれぞれ左右の手に、チェーンの先にある二つの輪っかに指をそれぞれ通した。そしてひゅっと手首を捻ると、チェーンが伸びてボールがひゅっと円を描く様に周った。

 二個のボールがくるくると追いかけるように回っていく。

 時よりひゅっとアーヤの向きが変わると回転が変わる。そしてまた変わる。くるくると変わっていくなか、アーヤもダンスを踊る様にステップを踏む。

 新体操のリボンに軽くヒップホップが混ざったようなそんな雰囲気の演技だった。


「おお! スゲー!」


 亀山田君は反応がよくまた拍手している。やっている側からしたら、とてもありがたい存在である。さくら役出来るかもしれない。

 おっといけないいけない。 

 アーヤ額のにも汗がチラつく、でも最初に比べると表情が柔らかくなっていた。


「では次は」


 とナップサックに手を突っ込み、そして今度は長そうなものを引っこ抜くと今度は銀色に光るモノが……。


「これは体育館が傷つくからダメか」


 すっとナップサックの中に押し込んだ。

 すると流れる沈黙。


「っていや。今の何だよ。何か凶器じみたものが見えたぞ」

「さすがの俺も眉が引き攣ったぞ」

「私の髪の毛も一本立った」


 グワッと、目を見開いた三人の瞳。

 見たことないのかな。でも知っていてもビックリはするかな。

 私も一瞬びっくりした。けど冷静に考えれば、たぶんアレだよね。持っていたんだ。


「え。今の何? 大ちゃん?」

「えっと、たぶんあれかな」

「大ちゃん分かったの?」

「あー。アレね」

「カゲル? アレは危ないモノか?」

「いや。まあ危ない分類だけど、大丈夫だろう」

「その表現微妙怖くないっすか」


 大ちゃんもが知っているのは何となくわかるけど、カゲルが知っているのは意外かも。


「中谷さん。それ危ないからあんまり外出さない」


 いつの間にか私の後ろにいた顧問はひょこッと顔だけ出して苦い顔している。


「あー。驚かせてごめん。さっきのはジャグリング用のナイフ。そこまで切れ味がない奴だから心配しないで。間違えて入れて来たみたい」

「ビックリするわ!」


 てるやんの突っ込みに、一同納得したようにコクコクと頷いた。


「ごめんごめん」


 申し訳そうに顔の前に手を立てるアーヤだった。

 これで一通り道具は見せ終わった。

 これから、亀山田君にも何か道具を練習してもらうのだけど、何がしたいのだろうか。


「亀山田君。何かやりたいのある?」


 すると「そうっすね」と呟きながら考えこんだ

 思ったより悩んでいるみたい。どれも凄いと言っていたけど、全部やりたいから選びにくいのかな。


「いくつかでもいいよ。一通り道具触ってみてから決めてもいいし」

「うーん。そうっすね。何となく道具はポイっすかね」

「ん? 道具ポイ捨て?」


 えっと。いきなり何を言っているのかな。そんな不良っぽい感じは見えないんだけど。亀山田君ってそんな人。

 頭の中が混乱する。


「え。あ。いや。さっき中谷先輩がやってた。グルグル回していた『ポイ』ですよ。道具の」

「え。ああ。それね」


 亀山田君が、とても焦ったような表情で私を見つめる。

 気がついた私は急激に顔の熱が上がるのが分かる。


「ポイとポイ捨てを間違えるんかい」


 即座にガシッとてるやんの腕を掴み、力強く握りしめる。


「イテー!」


 てるやんの叫びを無視しながら、亀山田君にニコっと笑いかける。


「ごめんね聞き間違えて、じゃあ今からの練習アヤメに教えてもらうといいよ。またもし違う道具やりたいなら、私に言って」

「あ、はいっす。中谷先輩とこに行きまっす!」


 ビシッと背筋をピンとして礼をした後、駆け足でアーヤの所に向かっていった。

 

「はあ」と心の中で深々と溜息をついた。

 失敗した。さっきポイを軽い感じの名前とか思ったのが悪かったのかな。

 まさかあんなミスとはね。もうちょっと注意しないとね。

 少し自分のドジっぷりを反省した私だった。


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