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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏合宿!』 その4

 温泉。遊んだ後の体を癒すには最高の場所である。

 僕は肩まで浸かって、体の疲労を癒す。ジワーッと体の疲れが抜けている感じがする。ただちょっと日焼けしたところがピリピリと痛む。


「ぷはー。今日は遊んだ」


 温泉に首まで浸かり、ゆっくりとくつろぐてるやん先輩。 

 アフロは皺皺に崩れて、わかめを乗せたみたいになっているのは突っ込まないでおこう。


「まあ。そうだな」


 耕次先輩も温泉に浸かるが、ガタイが大きいせいか上半身が半分くらいしか浸かれていない。あと日焼けが一層黒くなっている。

 

「ふー。痛っ」


 浸かろうとした大介はバシャッと水飛沫音を立てて腕を上にあげた。

 日焼けが酷かったのか。まああんまり外に出そうな雰囲気でもないからな。


「何やかんや楽しかったな」


 そういって隣に並ぶ健三君。全身程よく焼けていて、少し雰囲気が変わっている。


「そうだな」


 正直僕も楽しかったかな。ビーチバレーにビーチフラッグに、何か耕次先輩に海に投げられるという謎アクションまでやったし、今までやったことないことしたから面白かった。

 それにしても楽しかった。


「そういえば、ジャグリング練習っていつするんだ?」

「一応。明日体育館を借りてするはずだと思う」


 チラッと耕次先輩を見ると、気がついたのか一度こくんと頷いたあと口を開く。


「ここから徒歩三十分くらい進んだところに体育館があるらしい。そこでするみたいだ」


 そうなんだ。こんなところで体育館を借りれるところがあるのか。でも暑そうだな。


「そうなんっすか。ありがとうございまっす」


 ぺこりと頭を下げる。

 あまりにも真面目に頭を下げたから、若干反応に困ったように、頬を人差し指で掻く。


「そういえば、ひとつ質問いいっすか。城ケ崎先輩!」


 健三君の突然の質問に、耕次先輩だけではなくてるやん先輩と僕まで健三君を凝視する。


「何だ」

「どうやったらそこまでの筋肉がつけれるっすか?」


 唐突な質問だ。でもそう言われてみれば気になる点でもあるな。身長二メートルは置いといてその筋肉はどういうトレーニングしたらつくのか確かな疑問点だ。


「まあ。俺は一時期柔道部だったからな」

「そうなんっすか」

「そうなんですね」


 柔道部だったのは初耳だが、ただ体型を見るとかなり頷ける。


「じゃあ。何で今はジャグリングなんっすか?」


 ズバズバ訊いていく健三君。その積極性を大介に分けてあげて欲しい。ちょっと止めたくもなるけど。


「そうだな。こっちの方が面白い」


 案外あっさりと答えた。そしていぶし銀な耕次先輩の頬が少し綻んだのを僕は見逃さなかった。

 

「おっ! やっぱそうだよな!」


 話に乗っかる様にてるやん先輩が、耕次先輩の背中を叩く。

 耕次先輩は少し沈黙する。

 ムスッと怖い顔をしててるやん先輩を睨みつける耕次先輩。


「おっ。どうした?」

 

 少し後ずさるてるやん先輩。どうしたんだろう。ちょっと怖い。


「てるやん。めっちゃ痛い。日焼けしているところに直で入ったぞ」


 スリスリと背中をさすりながら、腰を丸くしてぷるぷると震わせる。

 そのあまりにもあっけない格好に、少し笑いそうになる。

 

「ぷっ。おっ。わりいわりい」


 というか爆笑しているてるやん先輩。相変わらず容赦ない。


「やっぱり面白いっすねこのサークル」


 健三君が瞳をギラギラに輝かせながら喜んでいた。とりあえずよかった。あとは部活練習を見れば何とかなるだろう。


「おっしゃあ。そろそろあがるか」

「そう。だな」


 てるやん先輩が立ち上がったと同時に、耕次先輩も背中を丸くさせながら立ち上がる。僕たちも健三君と一緒に温泉から出る。ぞろぞろと引き戸を開けて脱衣所に向かった。

 でも僕はふと一度振り返った。

 すると温泉でぷかっと浮かぶ影が目に入った。


「ん? あああ! 大介!」

「え。どうした? うお! 大介!」


 先輩ともども気づき、急いで温泉に逆戻りし、大介を救出しにむかった。耕次先輩が肩に担ぎ上げた。

 大介の顔が真っ赤になっていた。

 静かにのぼせていた大介であった。



「なんか。叫び声が聞こえた気が」

「気のせいじゃないの。それよりここのマッサージとても効く」

「アヤメ。発言がちょっとアレ臭い」

「いいんじゃないこういう時くらい」

「んー。まあそれもそうね」


 私とアーヤ、二人揃ってマッサージチェアーにもたれて、体にかかる指圧と振動に解されてる感覚を感じていた。

 丁度いい感じ、今日はここで眠れそう。


「メグかリナ! 卓球をしようよ!」


 私の目の前にある卓球台。その横でシェークハンドラケットをグルングルンと浴衣姿で腕を回すエリ。袖がもう乱れて片腕の肌が全て見えている。本当に運動好きね。風呂上がりだというのに。


「ええ。エリ先輩相手だったら勝てないですって」

「そうですよ。何かハンデください」


 メグは片手に牛乳瓶をリナは片手にコーヒー牛乳を持ちながら抗議している。

 リナの方が大人っぽいけど、コーヒー牛乳とはまだまだメグと似たり寄ったりかな。


「んー。そうでござるな。じゃあ二人でかかってきていいよ。あと交互に打つというルールもなしで」


 その条件に二人は「うーん」と唸る。それでも確かにまだエリ優勢は変わらないな。


「じゃあ。エリ。ラケットをスリッパにしてやってみて」


 アーヤが条件を追加する。


「およ? わかったでござる」


 エリは早くも履いていたスリッパを脱いで右手で構えた。


「いや。エリ先輩。利き手と反対でやってください」

「ん。マジでござるか」


 リナが容赦なく攻めた。渋々エリは左手に持ち替えた。ほんの少しのぎこちなさがうかがえる。この反応を見る限り、やっと五分五分に持ち込んだのかな。

 これはちょっと面白そうかも。

 私の関心が興味半分から興味津々に変わった。


「じゃあサーブは私たちからでいいですよね」

「いいでござる。何点マッチにするのう?」

「じゃあ。一点マッチで」

「それは、面白いのかな?」


 エリが珍しく眉毛をㇵの字に曲げている。しかも語尾の「ござる」を忘れているから、それなりに動揺しているみたい。

 その顔を見てメグリナはドンと瓶を置いた。そして袖を一緒にめくり上げた。


「見せてあげましょう!」

「私たち桜高校の名コンビと言われた二人の技を!」


 あんなに嫌がっていた二人が、ガラッと雰囲気が変わっていた。


「うお。いいね。返り討ちにしてあげる!」


 唐突に始まった口上にエリもノリノリになっている。


「いきますよ!」


 リナがフワッとピンポン玉を上げるそして、全力で叩きつけた。

 ポン。ポン。

 大きく自分のコートと相手のコートに一回ずつバウンドをする。


「もらった!」


 エリがその隙を逃さんと大きく振りぬく。だが真ん中で捉えられず大きく球が上がって、メグたちのコートでまた大きくバウンドする。


「よいっしょ!」


 メグがフワッと返す。エリがまた左手をコントロールできずにフワッと返す。リナがふわっと返す。エリがフワッと返す。メグがフワッと返す……。


「想像以上にフワッとしている」

「いいんじゃない。女子らしい卓球で。見ていてほのぼのする。あとこのマッサージ効くー」

「めっちゃ満喫しているじゃない」

「こういう時くらい、満喫したいよー」


 全力で和んでいるアーヤの表情をみると、私も和んできた。

 先輩と後輩のほのぼの卓球を見ながらマッサージ、結構いいかもしれないと思ったのだった。


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