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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏合宿!』 その2

「海だー!」


 海に駆けっていくてるやん先輩とエリ先輩と耕次先輩。

 そのまま海に飛び込んでいく。


「相変わらず元気な三人なことで」

「いつも通りで良いんじゃない」


 パラソルの下で体育座りをしのんびりと眺める部長と副部長。

 上着を羽織りしっかりと日焼け対策をしている。


「私も入ります!」


 リナもすかさずパラソルに避難して、並んで座っていた。


「じゃあ。大ちゃんとりあえず泳ごう!」

「とりあえずってなに? とりあえずって!」


 と、いつも通りメグに引っ張られる大介である。メグは手を繋ぐことができているから、いつもよりご機嫌のようだ。あと目を合わせていない。


「カゲル! 今日って普通に海で遊ぶの? ジャグリングは?」


 期待と不安の両方が混ざった表情の亀山田さん。器用な顔だな。

 たぶん亀山田さんの不安の方が正解だと思うが、ここははぐらかすべきか。


「まあ。そのうちしますよ」

「そうっすか。じゃあ海で遊びます!」


 予想に反してごねることはなかった。その上普通に海で遊ぶと言っている。となると疑問が浮かぶ。


「何して?」

「これ持ってきたっす」


 僕の疑問にすぐ答えるように、カバンから何やら丸いものを引っ張り出した。

 青と黄色の大きめのボールを片手にのせて、ニッと笑った。


「ビーチバレーしましょう!」


 バレーか。やったことはあるけど、二人で出きるものだろうか。

 ああ。レシーブをやりあうのかな。

 それにノリノリだからな。そういうのもありか。


「じゃあ。やろっ……」

「おお! バレーか! 良いの持ってきてるじゃないか新人!」

「いいな。丁度やりたかったところだ」

「負けたチーム。罰ゲームね!」


 早々に先輩三人組に押し出された。

 さっき海に飛び込んでいたはずなのに、もうこっちに来ているって、遊ぶことに関しての嗅覚が犬以上か。


「えっ!? ビーチバレーするの?」


 こっちにも嗅覚が鋭い人間が来たよ。

 しかもがっしりと相方の手を握ったまま引っ張って来た。

 その力は一体どこにあるのか。


「やっぱりこうなるのね」

「こうならないことのほうがおかしい」

「むしろホッとしますね」


 いつも通りの微笑みの部長に、呆れた表情の副部長。納得するリナ。

 パラソル組はもう悟りを開いていた。

 まあ。こうなるか。 

 それも仕方ないか。



「はい。始まりました! 第一回オタマジャクシズ。ビーチバレー大会。実況は私白峰カスミと」

「蒼風利奈でお送りします!」


 パラソル内で賑やかに始まった実況解説。

 だてマイクを持ってノリノリである。

 だが理由は単に日焼けがいやな二人である。


「早速ですが一回戦を開始します!」

「オタマジャクシズ。公認カップル!? 音水恵と国原大介コンビ!」

「よし! やるよ! 大ちゃん」

「僕バレー初めてですよ!」


 相変わらずやり取りである。性格が真反対なのによくやってるなと思う。


「対するは部屋が隣同士の同年代! ルーキー亀山田健三君と、入部歴三ヶ月の数谷カゲルコンビ!」


 リナの即興にしてはそれなりの紹介だが、入部歴三ヶ月とか小物感が半端ない。

 

「よっしゃ! やりますよ!」


 腕をブンブンと振り回す亀山田君。

 突然の試合なのに案外ノリノリである。適応能力高いかもしれない。

 こうなったらやるしかないか。罰ゲーム嫌だし。


「わかった。やろうか!」


 元気に返事してやると、「よっしゃ」と亀山田君はグッと腕を構えた。


「と、試合を始める前に一つ、罰ゲームの紹介です!」


 カスミ部長がさっと手を伸ばした先には何やら緑色の飲み物があった。


「超激苦お茶です! 負けた方は飲んで下さい!」


 ガラスのコップに一杯入った緑色のお茶。これはとても苦そうだ。

 あ、でもあの栄養ドリンクよりマシだよなたぶん。


「じゃあ試しに飲もうかリナ?」

「ふぁ!?」


 突然のご指名に目が点になっているリナである。

 だがこの状況、もはや否定できないのは明らかである。

 沈黙に耐えられなかったリナは、観念したように肩を落とした。そしてコップをもらい受け、一気に飲み干した。

 その瞬間さっと後ろに向いた。


「ンンンン!」


 悲鳴か叫び声か、声にならない衝撃がリナの口の中で繰り広げられているのがわかった。

 俺はごくりと息を呑んだ。

 あの栄養ドリンクとは違った苦さかもしれない。

 隣にいた亀山田君を確認すると、ちょっと嫌そうに、頬を引き攣らせていた。


「カゲル。アレ飲みたくない」

「そうだな。飲みたくないな」


 僕と亀山田君は結束を強くした。


「大ちゃん絶対飲まないよ」

「わかった。飲みたくない」


 相手のお二方も結束を強くしたのだった。

 というか何気にカスミン部長酷なことするのだな。


「よし。俺たちに負けたら三倍な」

「変なルール作るな」

「いやそれが楽しみがあって良いじゃない」

「全く。あんた達ね」


 コートの横で各々楽しんでいる二年組。哀れに思っているアヤメ先輩。ほんの少し同情してしまった。

 どの状況でも平常運転の三人に、呆れを通り越して感心する。


「じゃあ。始めますよ!」


 部長の一言で、俺らはネット前に近づいた。


「ふふ。絶対勝つから!」


 腕を組んでギラギラとした瞳で睨むメグと、若干ソワソワしている大介。僕たちは負けじと見つめ返す。


「こちらこそ」

「飲んでもらいます」


 バチバチと火花を散らした。

 王道スポーツ展開なのかなと、一瞬そんな思考を過らせつつも、あの苦いお茶だけは絶対に飲みたくないという恐怖から、僕は拳に力をこめて構えたのだった。 

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