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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『誰かといる気持ち』 その2

 いや、そんなものではないよな。


「マジで気になっていたけど、何でそんなに好きなの?」

「それはもう、あの時のキャンパスゲリラライブっすよ。突然路上で声が響いて、なんだなんだって見に行ったら、何か見たこともないことやっているじゃないっすか。そしたら最初のアフロの人が棒一本で見たことないことするし、輪っかが飛ぶし、駒が舞うし、ボールが飛ぶし、回るし、飛ぶし、俺にとっては新たな世界がブアーっとやってきたんっすよ!」


 ガトリングの様に言葉が出て来た。もうテーブルひっくり返す一歩手前だった。

 僕もひっくりかえるよ。

 あと後半、飛ぶと回るしか出てない。言葉にするのは難しいけど。


「あと、あれっすよトドメのイリュージョン! あの小瓶が飛んで行ってプワーッと光って出現するイリュージョン。あれにはもう脱帽っすよ!」


 あー。あれか。

 誇りたいが誇れるようなものとは思えない。僕も理解できていない。

 あの人智を超えた現象。正直今になってよくあんな方法によく確信を持ったなと思うくらい。正直原因も理由も全くと分かっていないのに。ただ必死だった。部長を助けるために必死に……。

 あれからみんな全くあの時の話をしていない。けどみんな心にあるはずだ。カスミン先輩の謎に対する疑問。でもこれは話し合って、いや。アヤメ先輩の願いだ。土下座をしてまでの願いだった。それで暗黙の了解でカスミン先輩が自ら話すまで訊かないと決めた。 

 けど時よりチラつく。今の会話最中だって。


「どうしたんすか」

「いや。なんでもない」

「そうっすか? それでは今から練習したいっす!」

「今から!?」

「もう話してたら、自分もやりたくなったす。だから教えてくださいっす!」

「お。おう」


 完全に勢い負けしてしまった。けど今、アヤメ先輩から借りたボール三つしかない。どうやって教えようか。部屋の隅に転がった白いボールをジッと見つめて、パッと思いついた。


「わかった。じゃあとりあえず、ボール一個持って」


 軽くボールを渡してあげると、アワワと慌てながら何回か手で弾きながらも、何とか手に収めた。


「フー。一応訊くっすけどこれ落としても大丈夫っすか?」

「大丈夫。正直練習で落とさない人の方がおかしい」

「そうっすね」


 一応アヤメ先輩の私物だから、できる限り落とさない方向で、たぶん無理か。アヤメ先輩すみません。あと僕のボール戻ってきて。


「じゃあ。ボールを右手に持って」


 指示を出すと亀山田さんは右手に持つ。


「それじゃあ。僕がやる通りにやってみて」

「はいっす」


 僕は右手のボールを左斜めに高く投げ上げて、そして落ちてきたボールを左手でキャッチする。

 僕の姿を見て同じように投げ上げてキャッチする亀山田さん。


「それじゃ今度は逆」


 左手にあるボールを斜めに投げ上げて、右手でキャッチする。

 問題なくこなす亀山田さん。


「それじゃあ。次に二個するんだけど、とりあえず見ていて」


 残りの一個を取って左右にボールを一個ずつ持つ。まず右手のボールを投げて空中に浮いている間に左手のボールを投げて、すぐに落ちてくるボールを左手、右手と受け取る。


「もう一回!」


 一声でもう一回見せる。

 ジッと睨むように僕のボールの軌道を確認すると、ふっと上を向いてブツブツと呟く。手をもぞもぞ動かしている。イメージトレーニングかな。


「ボール貸してっす!」


 今度はボールを投げずに手渡しする。亀山田さんは左右交互にボールを一つずつ持って構えて、そして投げた。

 二つのボールはあさっての方向に飛んでいった。


「ああ。マジか!」

「最初はこんな感じだよ。僕だってそうだったし」

「何かものすごく悔しいっす。もう一回やるっす!」


 そういってもう一度拾う。そしてまた見当違いの方向に飛んでいく。拾って投げてを繰り返しバタバタしながらも練習をする亀山田さん。

 そんな姿を見て、三ヶ月前の自分の姿が目に映った。けど彼は感動と憧れから練習を楽しんでいる。僕は楽しみを知るためにやっていた。考えが違う……。

 でもガムシャラにやっていたな。

 今はあの時から練習をやっていない。いや昨日までか。今日はやった。楽しくやったし、亀山田さんの姿を見ると練習したくなったし、誰かと一緒にするのって……。

 

「亀山田さん。テニスボールない?」

「あるっすよ! 取りに行くっす」

「マジですか。一人じゃ悪いので僕も取りに行く」

「ああ。いいっすよ。一人で取りに行くっすよ」


 そう言ってボールを放り出して駆け出していった。

 行動力と突っ走る能力、これは方向性は別だが部活の先輩やメグにそっくりだ。似合うかもしれない。


「数谷さん! 数谷さん! ちょっと来てっす!」

「ど、どうしました? テニスボールはありました?」

「テニスボールはありましたけど、何か変なのがあるっす」


 ボールを取りに行って帰ってきたはずなのに、少しだけ血相が変わった様子で玄関の奥から顔を覗かせた亀山田さん。何事だと思って僕は亀山田さんにつられて玄関に向かった。

 一緒に外に出ると僕は目を丸くした。


「な、なんでここに」


 予想もしていなかった。こんな突然に来ると思わなかった。いや理由が分からない。本当に今どういう反応すればいいのだろう。どういう反応が正しいのだろう。喜べばいいのか、驚ければいいのか、分からなかった。 


 アパートの通路には僕の五個の青いボールがピラミッドの形で置かれていた。


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