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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『誰かといる気持ち』 その1

 二人が去ってしばらくの間、茫然と座りつくしていた。

 今生の別れではないのは理解している。

 けどどうしてここまで寂しくなったのか分からない。今まで一人でいることがそこまで寂しいと思わなかった。

でも部活をしてから、一人でいる時間は心にぽっかり穴が開いたような感じになる。

 久しぶりに一緒に練習したから、その落差が大きいせいかもしれない。


 そうか。


 いつの間にか、人といる楽しさが僕の心を満たしているのか。


「フッ」


 何だろう。笑みと涙が同時に押し寄せてきた。今、自分はどういう顔をしているんだろう。酷い顔をしているのだろうか。

 傍から見たら情緒不安定の人に見られるかもな。

 こんな感情豊かだったかな。


「ピンポーン!」


 チャイムだ。もう多すぎて驚かなくなった。

 けど今はすぐ出れそうにない。

 顔を袖で必死に擦って涙を拭う。指で触れ目元が渇いていることを確認し、駆け足で玄関に向かい扉に手をかけた。


「お。数谷さん元気っすか?」

「亀山田さん?」


 つい先日引っ越してきた隣人だった。白のTシャツに黒の長いスウェットを着ている。片手にジュースが入ったビニール袋を提げていた。


「どうしたのですか。突然」

「いや。昨日女性に襲われてたみたいっすから、あれから大丈夫だったかなと思って様子を見に来たって感じっすね」


 少し背中を丸めるような感じで、変に低姿勢になる亀山田さん。

 気にしてくれていたのか。正直半分以上忘れかけていた。そこまでの経緯がそれなりに濃かったせいか。


「いや。大丈夫です。先輩が酔った勢いでああなってしまっただけで、あの後先輩はすぐ眠りましたし」


 本当は首に少し刺さって痛かったけど。


「昨日の女性。部活の先輩なんっすか」

「そ、そうですね」

「……大変っすね」

「そうですね」


 確かに大変と言えば大変だ。けど変な話、時間が経てばそれなりに面白かったとは思える。もう二度と味わいたくはないが。


「そのせいっすか。目元が赤いっすよ」


 何気なく言ってくれたのだろう。たぶん顔を見て気が付いたからただ言ったのだろう。でも突然ブアッと目元が熱くなった。


「どうしたんっすか!」

「いや。何でもないです。ただちょっと何かあれでですかね」

「ん。そうっすか。飲みますか。ジュースっすけど」


 持っていたビニール袋を少し上げた。

 その気遣いに何故か、また瞳が潤い始めた。全く予想できない。絶対今は情緒不安定だ。


「ん。上がって良いですよ」

「え。いいんっすか」

「いいですよ」


 もう。勢いで家に上げてしまった。本当にどうしたんだろうな。


 リビングのテーブルがずれていたので元に戻したあと、上にドンと置かれた一・五リットルのジュース三本。炭酸がニ本とお茶が一本だった。

 キッチンの上からガラスのコップを二つ取り出してテーブルの上に置いた。


「何するっすか」

「炭酸グレープでいいですか」

「はいっす」


 コップにトボトボと八分目くらい注がれた。


「次は僕が入れますよ」

「いいんすっか!」


 今度は僕が炭酸グレープをコップに注いであげた。僕と同じくらい大体八分目くらいの量を注いだ。両方ともコップにジュースが入ると、亀山田さんがスッとコップを持ち上げた。

 

「ん?」

「ああ。乾杯っすよ! 乾杯! 何かしたら元気でるかと思いますっし」


 二ッと白い歯まで見せてくれた。

 何から何まで僕を元気付けようとしてくれる行動に申し訳なく思う。


「ありがとう。それじゃあ。乾杯」


 風の音しか聞こえない部屋で、コップ同士でガラスの高い音だけがカチンと鳴った。

 静かな乾杯だ。

 コップに一口つける。グレープの香りを鼻で感じ、炭酸のシュワシュワが喉に伝わる爽快感を味わう。

 互いにコップをテーブルの上に置いたあと沈黙。

 どうしたものだろうか。

 何から話せばいいのだろうか。

 悩んでいると亀山田さんから話しかけてくれた。


「気になってたすっけど、いくつなんですか?」

「え。大学一年の十八歳ですよ」

「ん? タメっすか!」

「ええ!? 同い年なんですか?」


 初っ端の衝撃。年上かと思っていた。

 敬語は使っているけど、気遣いの仕方が同い年とは全く思えなかった。

 

「てっきり年上かと思ったっす」

「ん?なんで?」


 二回目の衝撃、てるやん先輩やエリ先輩にこき使われているところ見ているはずだし、僕は今まで年下に見られたことはあっても年上はない。

 

「そうっすね。ジャグリングしますっし、それなりに練習している感じから一年とは思いにくいっす」


 なるほど。ジャグリングしているからか。

 待て待て、ジャグリングだって同い年でもしている人間が……。でも部活に入るまで知らなかったし。感じ方によるか。

 

「そうか。正直驚いた。年上と思われることなどなかったし。でも僕のこと下っ端って」

「ああ。あの三人の中では下っ端という意味っす。それにあの先輩方を三年。数谷さんを二年と思っていたっす。逆に訊きますけど、数谷さんは何でそんなに驚いたんすか」

「僕も君のことを年上だと思ってました」

「え? まじっすか。だってバリバリ敬語だったすよ」

「『っすよ』って確かに敬語……。敬語ですか?」

「『っす』は、後輩が先輩に敬意を現す敬語っす!」

「いやー。僕は人生で後輩というものを持ったことないから分からないです。部活に入ったのこれが初めてですから」

「マジっすか!」


 三回目の衝撃。亀山田さんのテーブルを両手で叩くほどの反応大きさにびっくりして、飲んでいる炭酸グレープが気管に入りかけて危なかった。

 結局少し咽せたが。


「そんなに驚く?」

「驚くっす! 万年帰宅部なら驚かないけど、先輩と仲良くやっていて帰宅部の雰囲気ゼロだったっす!」


 そんなものだろうか。帰宅部でも先輩と後輩と仲いい人だっているはず……。

 ん? あまり見ない気もしれない。一切僕のイメージでしかないけど。


「え。ちなみにジャグリング歴何年っすか?」

「三ヶ月半です」

「短かっ! でもそれだけで、あんなに出来るんすっか?」

「あんなにって、先輩方に比べたら、こんくらいっすよ」


 勢いで親指と人差し指で小さな隙間を作って見せる。


「そんなに! 逆に先輩たちは。どんなんっすか」

「えーっと。こんくらいかな」


 両腕を思いっきり広げて見せる。


「やばいっすね!」

「今ので伝わったの?」

「数谷さんの先輩達がすごいってことがわかったっす!」


 確かに間違っていないけど、この飲み込みの速さが正直恐ろしい。やっぱり天然なのか。

 というか話の内容のレベルの低さが酷い。


「よし。じゃあ、俺も入るっす!」

「マジで!?」


 勢いが音速レベルだよ。確かに最初話したころから興味が凄かったのを知っているけど、それでも早すぎる……。そういうものなのか?


何とか一週間で出来ました!


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