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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『久しぶりの部活と言えるような練習』 その1

「それで、昨日何があったの?」

「それはアヤメ先輩が酔っていて、家で寝かせてと言って、僕の布団で勝手に寝ただけですから。それ以上のこと何もないです」

「本当に?」

「本当ですって」


 カスミン先輩の執拗な質問攻めに、必死の弁明を続ける。その横で何も言わずただニヤリと笑みを浮かべているだけのアヤメ先輩。

 アヤメ先輩が原因のはずなのに何も言わないって、前から知っていたけどエリ先輩とは違った意味で鬼畜である。

 男子の家に女性が一人来るという状況が、世間一般から見れば恋沙汰と考えるのが普通であるのは分かるが、今回は特殊過ぎるし、そんな色気もへったくれもない。

 けど説得するのが難しい。


「ねえ本当に? アヤメ何もないよね」

「さあ?」

「意味深! めっちゃ怖い!」

「そこ意味深な発言をしないでくださいよ」


 アヤメ先輩がいやらしそうに笑いながら僕を見つめ、カスミン部長は、ちょっと頬袋を膨らまし、交互に僕とアヤメ先輩を見つめる。アヤメ先輩にいじられる以上に、カスミン先輩に疑いの視線を向けられることが辛い。

 心が落ち着かない。何とか別の話題にすり替えよう。


「一つ気になっていたのですか、その大きい荷物は何ですか?」


 アヤメ先輩の左肩にかけられているのは、ジャグリング道具用と思われる袋と右手にはそこそこ大き目なボストンバッグがある。

 カスミン先輩は手に何も持っていないのに。


「特に意味はないよ」

「怪しすぎますよ。ドッペルゲンガー用のお祓いの類とかそんな小道具とかじゃ」

「それはないない。私はそんなの全く信じないから」


 完全否定するが、そうなると一体何が入っているのだ。チラチラと視線を送りつつ歩く。何度か訊くが結局はぐらかされた。疑問を残したまま僕の家に到着する。


「それじゃ。とりあえず見てきて」

「え? 何をですか?」

「さっきの話から分かるでしょ?」

「さっき? ああ! 了解です」


 心が落ち着いていなかった。ほんの十分前の内容をすっかり忘れていた。慌てて階段を駆け上がり部屋に入った。

 壁にかけらている黄色の巾着袋をそのまま手で掴んだ。

 ぐしゃっと潰れた。

 中には何もなかった。

 ひとつもボールが入ってなかった。

 慌てて部屋中をくまなく探す。

 押し入れも探すが僕の青いボールはどこにも見つからなかった。


「マジか?」


 でも何故?


「どう? カゲル?」

「どうって。ないですね。ボール……。ってなんでここにいるんですか!?」

「いや。気になったからね」


 パチンとウインクをするアヤメ先輩。堂々と僕の部屋に入ってきて、ジロジロと僕の部屋を観察しはじめる。


「ちょっと。アヤメ。勝手に入ったらまずいでしょう?」


 アヤメ先輩の後ろからひょこッと首を覗かせるカスミン先輩。

 お化け屋敷に入るように身構えている。普通の部屋なんだけど。それにさりげなく入ってきているし。


「色々と突っ込みたいんですけど、長くなるのでそれは置いといて、いつ気がついたのですか? 僕のボールが無いって」

「カゲル君が寝ている時に、そこの壁に掛けられている薄くなった巾着袋を見て変な違和感を覚えてね」

「それだけで気が付いたのですか?」

「いや。実際に探したけど」

「……そうですか」


 結局部屋の中を物色された。でも物色されてやましいものは置いていないから特にいいけど。


「けど、年頃の男の子にしては面白みのない部屋だね」


 やかましいわ。


「アヤメ。後輩の部屋を勝手に漁るなんて先輩としてどうなの」

「あら。カスミンも実はホッとしてんじゃないのっ!?」

「アヤメ?」

「わかった。わかった。そこまでにしておくから」


 カスミン先輩が何かしたのか、アヤメ先輩の顔が少し歪んだ。なるほど力関係的にはあっちが上なのか。

 

「冗談はさておき、これで二人ともボールが無くなったのね」

「そうですね」

「うん」


 カスミン先輩のボールが無くなって、僕のボールも無くなっている。その事実は分かった。けどそれとドッペルゲンガーに一体何の共通点があるのか。


「よし。そうだね。はい。ボールを持って」


 そう言って、アヤメ先輩はジャグリング袋からボールを六つ取り出して、僕とカスミン先輩の両手にそれぞれ三つずつ渡された。

 僕のロシアンボールとカスミン先輩のビーンバックとはまた違う形状の白いボール。


「突然何ですか?」

「アヤメこれは?」

「とりあえず練習したら? 最近ボール触っていないでしょ?」

「ん? そうですが。何の関係が」

「アヤメ。今それをすること?」


 必然的に発生する疑問だ。

 僕とカスミン先輩が揃って、瞳を丸くすると、そう返答することが分かっていたのだろうか、ニヤッと笑う。


「何言ってんの? 部活動停止処分を受けただけで、別にジャグリングは練習できるのに」

「いや。そうですけど、それと今は何か関係は?」

「んな細かい事は気にしない。ここ一週間触っていないでしょ? カスミンも?」

「そうだけど」


 何か煮え切らない。今から練習と何が関係があるのだろう。


「もう。さっさと練習しなさい。部活動再開して腕が落ちてたら後悔するのは二人だよ」

「それは」

「それはいや!」


 カスミン先輩がすぐさまボールを投げ始める。だが一個を思いっきり投げ上げ天井にぶつかり、そのままカスミン先輩の頭に直撃する。フラフラとしたあとペタンと床に崩れ落ちて動きが止まる。


「カスミン?」

「先輩?」


 動かない先輩に少しずつ近づくと、急に僕の手をガシッと掴んだ。ギューッと握りしめるように力がこもっていく。僕は後ろに下がるがそうさせてくれない。


「アヤメ!」

「へ? はい?」


 素っ頓狂な声を上げたアヤメ先輩と同時に顔をパッと上げるカスミン先輩。


「とりあえずボール貸して、練習する! カゲル君もほら。練習する!」

「え! はい!」


 状況が全く理解できないけど、カスミン先輩のスイッチオンにより、反射的に練習を始めざる負えない状況になったのだった。


一か月に一話と言いつつも二か月も間隔が開いてすみませんでした。

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