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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『失意と後悔のカスミン』 その2

「え! ショッピングモールで私とカゲル君を見かけた?」

「そうなんですよ! けど二人揃って行っていないんですよね! これはもうドッペルゲンガーしかないんですよ!」

 

 目をギラギラさせて迫りくる勢いのリナ。いつもの雰囲気と全く違い過ぎている。オカルト系が好きなのかな。昨日ショッピングモールに私がいたという話より、リナのキャラ変わりしている事実が驚く。


「でも、ドッペルゲンガーって本人が見ると死ぬっていう話だから。正直あんまり気分のいい話ではないね」

「えー。だからいいんじゃないですか。私も会ってみたいですよ。自分のドッペルゲンガー!」


 アーヤの消極的な言葉にも食い下がるリナ。目の輝きが止まらない。


「あのー。それでどうするつもりですか?」


 私たち三人から距離を置いて、リビングの隅の方で恐る恐る手を挙げるカゲル君。たぶんこの事件のために無理やり連れてこられたのだろう。いつも以上に表情が暗く、間違いなく疲れていると思われる。大丈夫かな?


「んー。とりあえず心当たりない?」

「全くない」

「何か最近変わったこととか?」

「えーっと。あるとすればクーラーが壊れたことか?」

「微妙だね」

「微妙ってなんだよ」


 リナの質問攻めにいやいやにながらも答えるカゲル君。本当に疲れている顔をしている。彼は例の三人組といい、リナといい、ひどい巻き込まれ症なのかもしれない。ちょっと不憫。

 それでも質問には答えるところは真面目だね。


「じゃあ。カスミン部長! 何か最近変わったことないですか?」


 クルッと顔の向きを変えて標的を私にするリナ。キラキラと光る瞳に後退りしそう。


「最近。最近。そんな変わったこと……」


 正直一つだけあった。確証もないけど変わったこと、でも何かの手違いという線もありえるから確信を持って言えない。


「ないかな」


 変にお茶を濁した感じになった。勘づかれたりはしないだろうか。


「えー。そうなんですか?」


 しゅんと肩をすくめるリナ。ちょっと申し訳ない気持ちになる。

 協力してあげたい気持ちもあるし、ドッペルゲンガーの事は私はかなり気になってはいる。けど今のリナに言うのはちょっとだけ面倒かな。それに今は精神的にもそれどころではない。


「でもでも、カスミン部長も気にならないですか? 自分のドッペルゲンガー!」

「気持ちは分からなくもないけど、でも見たら死ぬかもしれないから、見たくないかな」

「えー」


 納得いかない感じに、少し遠目になって「本当は興味あるんでしょ」みたいな視線を送ってくるリナ。好きなことに関してこんなにキャラが変貌するものかな?

 アーヤに助け舟を求めて視線を送ると、逆にジトーとした目線を送られていていた。何故か責められている?


「とにかく。私は家から出ていないし、何かの見間違いじゃない?」

「えー。でもあれは間違いなくそうでしたよ」

「僕も昨日はずっとてるやん先輩とエリ先輩にこき使われていたし、見間違いだと思う。それに世の中には瓜二つのそっくりさんが三人いるとかいないとかの話を聞くから、たまたまそっくりさんを見たんじゃない」

「えー。だったらあれはどう説明するの?」

「あれって何?」

「あれってなんだ?」


 意味深なワードの「あれ」が出て来たことにより、私とカゲル君がリナに注目が集まる。だがその真意を聞くことは出来なかった。


「はいはい。今ここで話し合ったところで、この問題が解決するわけではないし、それにもう夜遅くなるよ。親御さん大丈夫?」


 アーヤがパンパンと手を叩いて、無理やり話を変えた。


「ああっ!それは大丈夫ですよ。今日も自由に過ごせます……」

「ピピピピピピ」


 突然リナのバックから着信音が鳴り始めた。リナがバックからスマホを取り出し、画面を確認するとみるみる絶望する表情が目にとれた。

 それでもリナはスマホの画面に向かって人差し指を伸ばして押した。


「リナちゃん! 今どこにいるの! 昨日何も連絡もせずに帰ってこないし! 母さんどんだけ心配したと思っているの!」


 離れている私たちにも普通に聞こえる怒声が響く。リナはプルプル手を震わせながらスマホを手に取り耳に当てる。


「ごめん。今先輩の家にいる」

「はあ? 先輩の家で泊まっていたのなら連絡しなさっていつも言っているでしょ。もう今日は帰ってきなさい。二泊するのは迷惑かかるから帰ってきなさーい!」


 リナはスマホを落としてしまった。もうスマホが生きているみたいだった。

 リナは涙目になりながら、スマホを手に取り電話で釈明し続けた。やっと解放されるとげっそりとした表情をしていた。


「すみません。帰ります」

「謝ることない。大変だね」

「と、とりあえず気を付けてね」


 正直、今回は同情する。リナはさっきの輝いていた瞳など見る影もなく、疲れ果てた表情になっていた。アーヤも私と同じ気持ちだろう。


「リナ、駅まで送ろうか」

「ありがとう。けど今日は一人で帰らせて」

「え、でも」

「大丈夫。まだ19時半だからいつも大学から帰っている時間と変わらないし、それにちょっと一人にしてほしい」

「……。分かった」


 カゲルが気を使ってくれたが、それでもリナは断った。相当参っているみたいだった。

 リナは力の無い手で何とか荷物を持ちあげて、フラフラした足取りでそのまま玄関に向かった。


「すみません。お騒がせしました」

「大丈夫だよ」

 

 リナは私たちに向き直り、深々と頭を下げた。私たちはその姿をただ見つめることしかできなかった。本当はもっと話したかったんだろう。今度はもっと話をしよう。

 バタンと扉が閉まり、重苦しい空気が私たちの間に流れた。


「僕もそろそろ帰りますね」


 カゲル君も空気を読んで、そのまま玄関で靴を履き始める。当然と言えば当然。私がカゲル君と同じ状況なら即座に帰る。


「カゲル君。ちょっと待って?」

「え?」

「え?」


 隣にいたアーヤが予想もしない言葉を言って、カゲル君と一緒に思わず聞き返した。


「ど、どうしたのですか?」

「いや。カゲル君はちょっと待って、それでカスミン。何か隠しているでしょ?」

「へ?」


 ギラっと彼女の視線が突き刺さる。隠している。一体、何のことだろう。


「カスミン。リナに最近何か変わったことないと訊かれたとき、何か思い当たることがあったでしょ」

「え。えええ? 何で、何で分かったの?」

「ほら。やっぱり?」

「あっ!」


 自分の失言に顔を真っ赤にしてしまう。

 アーヤの千里眼と思える察知能力に、毎回驚かされる。あと私の分かり易い性格をそろそろ治したほうがいい気がする。


「で、何があったの?」

「いや。正直、かもしれないレベルだよ。確証もないよ」

「いいから言ってみなさい」

「あの。ボールが無くなっていてね。私の愛用しているビーンバックが無くて困っていたの」

「やっぱり」

「え?」


 アーヤの言葉に再度驚かされる。


「え、何、まさか、私のボールを勝手に持ち出したの?」

「違う違う! それはないよ。だってアーヤが寝ている間に私は一歩も部屋に入っていないよ」

「だとしたらもっと怖いよ! 何で知っているの?」

「カスミンから聞くまで知らないって。その事実は初めて知った。けどちょっと理由があってね」


 そういってスッとカゲル君に視線を移していた。全く身に覚えのないせいかキョトンとしている。


「カゲル君。今日は空いている?」

「ええ。大丈夫ですけど」

「もう一回カゲル君の家に行っていい?」

「はい。えええええ!?」

「ええええええ!」


 もう何度目の驚き。数えていないけど。というかアーヤ昨日カゲル君の家に行ったって。


「ど、どういうこと昨日何でカゲル君の家に?」

「いやあ。何か酔った勢いで押しかけたみたいで」

「そ、そ、それって、めちゃくちゃ危ない奴じゃない!」

「大丈夫大丈夫。すぐ寝たから。ね?」

「え、は、はい。そうですね?」

「え。何でそんなに歯切れが悪いの?」


 どういうこと、一体何があったの。二人の間に何があったの。でも何でこんなに動揺しているんだろう私。いやでも普通におかしい。本当に何が……。


 一週間以上家に引きこもったことを、猛烈に後悔した。


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