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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『失意と後悔のカスミン』 その1

「うー」


 タオルケットを頭から深く被り、布団に沈み込むくらいに体を埋める。

 全く動ける気がしない。

 夏休みに入って三日、部活停止を言われて一週間、部活が出来ない事がとてもショックで立ち上がれないのである。

 あの救出ゲリラライブの一週間後、前期末テスト最終日の時に顧問から告げられた。顧問は去年に会った以来だ。直接電話が来て何事かと思って会ったら、部活停止の内容だった。聞いた当初は現実感がなさすぎて、フワッした感じだったけど、時間が経つにつれドンドン罪悪感に苛まれていった。

 それもこれも、私が本番の空気に飲まれミスをして、ショックで逃げだしたせい。あんなことをしなかったら、アーヤ達があんな無茶なパフォーマンスを実行する必要なかったのに。そして夏休みも楽しく部活ができたのに。


「はあー」


 溜息が止まらない。

 自分への罪悪感が止まらない。

 本当にどうしよう。またショックで消えてしまいそうだ。でも消えるとまたみんなに心配をかけるし。

 アーヤは「大丈夫、カスミンのせいじゃない」と言ってくれたけど、それでも私は私を責められずにはいられない。 

 ちょっとしたことで舞台を投げ出すようなことをしなかったらと、逃げださなかったら、と永遠に自問自答を繰り返す。

 どうしたらいいの?


「ピンポーン」


 インターホンが鳴った。

 いつもならアーヤが出るのだけど、物音が聞こえないから今はいないみたいだ。けど今正直出る気力もない。

 

「ピンポーン!」「ピンポーン!」


 今回は珍しくしぶとい。このまま聞き続けるのも疲れそう。重い体を持ち上げてのそっと起き上がる。今私はすっぴんだが、そんなもの気にする気にもなれなかった。


 ドアノブに手をかけて開けると、ふわっとラベンダーの香りが流れ込んできた。


「こんにちは。元気? じゃないね」


 暗くなった背景を背にして立っていたのは、黒い長い髪にクリっとした丸い瞳で背が少し高く、白のワンピースに着た女性。一言で言うと恩人。それも命拾いしたとかそういう類の上を行く人かな。いや人ではないかもしれない。

 

「小百合……。ど、どうしたのですか」

「どうしたっていうか。あなたの方こそ、どうしたの? 顔が真っ青。まあ大体は想像できるけど」

「うー。小百合が想像したのなら、たぶん当たっていると思います」


 容易に想像されていることに、また罪悪感と後悔が上乗せされて、私は俯いてしまう。もう今は何を言われても消極的になっている。


「で、そんな簡単な理由でジャグリングできないほど、あなたの夢はちっぽけな訳?」

「……」

 

 返す言葉が出てこなかった。

 あなたに言われなくても気が付いていたつもりだ。


「人には時には悩むこともあるけど、ちょっと長いよ。また消えたいの?」

「それはしない。したくない。けど」

「けど?」

「でも、それでもアーヤや皆に迷惑かけたことが一番つらい。なのにみんな私のせいとは言わないでいることにとても胸が痛い」

「だからと言って、ずっと家に引き込むのは違う」

「うー。そうですけど」

「それに、その言い方は助けてくれたメンバーに失礼じゃない。君の相方や部活メンバーがあなたを必死に助けた理由を考えれば、わかると思うよ」

「え? それってどういう意味?」

「これ以上言うのは野暮だよ。あとは自分で気づかないと」


 そう言い残して彼女はにっこりと微笑みながら、静かに去っていった。

 しばらくの間、彼女の言った言葉を考えていた。私を必死に助けた理由? 助けてくれたことはとても嬉しいよ。でも結果部活停止させたことは、とてもじゃないけど許されることではない。

 けどそう思うことが失礼なの?


「うー。わかんないよ」


 自然と漏れる嘆き。


「けど、ちょっと長く凹みすぎたかな。ボール触っていなかったし、練習しよう」


 私は扉を閉めて部屋に駆け足で戻る。

 小百合の言葉に触発されたのかな。今まで練習してこなかったことを少し反省した。私にはみんなに比べて時間が少ない。もう一週間以上も無駄にした。

 まだ心引っ掛かりはある。けど布団に引きこもってしまうのはだめだ。進もう。

 壁にひっかけている巾着袋を手に取った。


「あれ?」


 手に持った瞬間、あまりにも感触が無さ過ぎて変な声を上げてしまった。

 いつもの重量感がない。巾着袋を裏にひっくり返して、確認するがない。一週間以上触っていないからここからボールを動かしていないはず。アーヤが何も言わずに使うはずないし。テスト期間に入る前まで確かにあったはず。


「どこ?」


 部屋中くまなく探す。ベットの下、机の下、クローゼットの中、でもどこにもない。一体どこに。


「バタン。ドタドタドタ」

「うわあああ。えええ」


 突然、玄関から騒々しい音と人の声が聞こえて振りかえると、ものすごい勢いで走ってくるアーヤ!


「カスミン!」


 ガシッと私の両肩を掴んで、思いっきり前後に揺する。


「ちょ、ちょっと待って。ア、アヤメ! ど、どうしたの」


 激しく揺すられたので、頭がクラクラする上に眩暈が。


「カスミン! 昨日どこにいた!?」

「き、昨日?」


 突然何を言い出すのかと思えば昨日って……。昨日は確か家から一歩も出ていない。布団からほとんど出ていない。


「昨日だけでなく、最近家から出てない」

「そ、そうなんだ。いや。そうだよね……」


 すっとアーヤの手の力が弱くなり、静かに私の肩から手を離した。アーヤのテンションの急降下に思考が追い付かない。一体何があったんだろう。

 ふとアーヤの後ろに不審な影が見えたので、そっと覗いてみた。


「一体。何があったんだろう」

 

 声に出さずにはいられなかった。

 アーヤの後ろには仰向けに気絶している後輩のカゲル君と、壁にもたれて疲れ果てたリナの姿があった。


すみません。更新遅くなりました。何とか一か月ペースで更新できるよう頑張ります。

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