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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『梨奈は見た』 その1

 私は蒼風梨奈あおかぜりなです。オタマジャクシズの部員で、担当道具はリングです。

 今私は、街中のファミリーレストランに一人座ってコーヒーを飲んでいます。

 勘違いされると困るので、弁明として、別に一人でコーヒーを飲むことが趣味ではありません。

 では何故にここにいるのかと、疑問に思うことでしょう。


 実はですね……。


「はい。大ちゃん。あーん」

「え。えええ」


 メグが花が開いたような満開の笑顔で、クリームを乗せたスプーンを大ちゃんの顔の目の前に突き出す。

 その行動に、大ちゃんは顔を右往左往して慌てふためいた。

 そして冷静になって一言。


「えっとこれは何かの罰ゲーム?」

「ぷっ!」


 私はコーヒーを噴き出しかけて、ギリギリのところで何とか飲みこむことに成功し事無きを得た。


 けど、本当に大ちゃんの天然ぶりにはいつも笑わされる。


 ジャグリング以外は空っしきダメで、コミュニケーションもままならないし、女子との会話も大学に入学までしたことないであろう。

 言うと悪いけど「本当によく今まで生きてきたね」と思ってしまう。

 貶しているわけではないけどね。


 今私の席から二つ斜め前の席に、私に背を向けて座っているのが大ちゃん、テーブルを挟んで向かいに座るのがメグである。

 私は気付かれないように二人に背を向けて座り、チラチラと横目で覗く。


 大ちゃんの斜め上の応答にメグが一瞬表情が固まる。

 その一瞬で色々考えているのだろうなと、私は微笑みながら見守る。


「大ちゃん? あと一回だけチャンスをあげるから、正しい反応してご覧?」


 既のところで怒りを止めたのか、笑顔のまま眉をピクっと一回だけ震わせた。

 大ちゃんも自分が間違っていることに気づいたのか、慌てた様子で頭を抱えて必死に考えている。


 さあどうする。


 さっきの流れから生贄とか見せものとか、晒し者とか言わないでね。 

 言えばそれはそれで面白いけど、メグの怒りのメーターが爆発されるから、できる限りそれ以外の方向でお願いしたいかな。

 若干面倒だから……。


 興味津々に見つめる。


 大ちゃんはクーラーのかかるこの涼しい場所で、汗を流すほど悩んだあと、思わぬ行動に出た。


 差し出されたスプーンの柄を持ち、無理やり百八十度反転させてメグに向ける。

 呆気にとられてしまって、少し開いてしまったメグの口に、大ちゃんは強引にも腕を伸ばしてスプーンのクリームを押し込んだのだ。


「ッ!!」

「うそっ!」


 メグは、大ちゃんの大胆な行動に目をパチクリとしたあと固まってしまった。

 大ちゃんはスッと手を離してイスに深く腰掛けて、頬を赤く染めながらそっぽを向いて一言。


「僕はバニラが苦手なんだ。だから食べられない」


 そういう意味ね。


 大ちゃんの事だからときめく言葉は期待していなかったけど、もうちょっと女性に気を使った言葉ぐらい欲しかったかも。

 それか逆に面白い反応が欲しかったかな。

 内容が現実的すぎるから、微妙な感じかな。

 メグもモヤモヤしていることだろう。


「そ、そ、そうなんだ……」


 メグはクリームをゆっくり飲み込み、そっと唇を舐める仕草をして、ほんのりと顔を赤くして、大ちゃんから視線を外す。


 意外と効いている。


 メグは大ちゃんに視線を合わそうとするが、すぐにそっぽを向いて、また視線を合わせようとして外すを繰り返している。


 今のでメグの中の好感度上がっている?


 大ちゃん補正でもかかっているのかな。

 それでもどうなんだろう。今の「ブーメランアーン」は確かに大胆だったけど、実際の行動は自分の嫌いな食べ物を無理やり相手に食べさせただけなのに。

 暫く思考するもの、私の心ではメグの心は理解できなかった。


「やっぱり中は涼しいな」

 

 私の後方からどこかで聞いたことのある声が耳に入りさっと振り返ると、抹茶色のトップスと、印象的な白い帽子を被ったマッキーこと榊原真希乃さかきばらまきのさんが腕を伸ばしながら近づいてきた。


 ピタッと互いに視線が合った。


「あ、カスミン所の、ンッ!?」


 私は全速力でマッキーさんの口を塞いで、席に引き摺り込んだ。


「ちょっ、どうしたの急に」

「すみません。今、うちの大ちゃんとメグがランチ中でして、バレると面倒ですので」


 デート中(?)の二人を指差して静かにしてもらうように促す。


「ああ。あの二人か。何か面白そう」


 大まかな状況を把握し納得したマッキーさんは椅子に座り、好奇な目で二人に注目する。

 

「で、どこまで進展してるのあの二人?」


 早速、テーブルから身をのり出して、現状報告を求めてくるマッキーさん。

 どこから話したらいいかな。


「そうですね。相変わらずメグの一方通行の片想いですね」

「そのわりにはよくデートまでこぎつけたね。まあ、大方メグが強引に連れて来たのかな」

「ご名答です」


 今までの二人の会話や絡み方の一部始終を見ているマッキーさんなら、その答えに行きつくのに時間はかからない。

 私的に誘う時にも変化があってほしいと少しは望んでいたけど、二人の性格がそのままだからね。

 実際メグがほぼ脅しに近い様な文章を送り付けて、向こうが了承したらしい。

 だがメグは、物凄く強気でいたはずなのに、一旦時間を置いて考えると、何か緊張してきたとか恥ずかしいと悩んでいた。

 よくわからない。

 

「んで、今どのような感じなの?」

「前見た時と変わらないです。メグが強引に仕掛けて、大ちゃんがビクビクするという流れです」


 ほんの数分前にちょっと変化はあったけど、まだ一時的なものだから、今は言うのは控えておこう。


「なーんだ。そうなんだ。でもあの二人性格真逆だから、何か化学反応が起きそう」

「それには同意します」

「逃走中もイチャついていたし」

「そうですね」


 互いに頷きあい、意見が合致する。

 再び二人は、今も目を合わせられないメグと大ちゃんに、暖かい眼差しを送りながら観察する。


「お待たせしましたアメリカンコーヒーでございます」


 店員が大ちゃんの前にコーヒーが入ったカップとスプーン。角砂糖が大量に入った透明な瓶を置いていく。

 大ちゃんは店員に対して軽く会釈をした。

 店員は接客スマイルを見せた後「ごゆっくりどうぞ」と一言を添えて、その場を去っていった。


 一瞬二人の間に沈黙が流れたあと、大ちゃんはカップを手に取り、口に運ぶ。

 だが、大ちゃんの口に届く前にピタッとカップの動きが止まった。


 メグが大ちゃんの腕を掴み、必死にコーヒーを飲むのを妨たげている。


「何をしているの?」


 思わず叫びそうな勢いを寸前で堪えて、普通の音量に止める。


「今回は何のプレイをしているのかな?」


 先輩は軽い感じで色々憶測しているみたいだが、私はドコから突っ込めばいいかと戸惑いを隠せない。


「え、今度こそ罰ゲーム?」

「違うよ。ちょっと飲むの待って。まず私から飲ませて?」 

「どういうこと?」

「良いから私にコーヒーを飲まさせて」


 カタカタとカップが鳴る音が私達の席まで聞こえ、二人の攻防の激しさが伝わってくる。


 あのままコーヒーが溢れて惨事にならないか不安になった。


 けど先に、予想通り大ちゃんが抵抗するのを止めて、カップはメグに渡った。


 メグはカップに口をつけ、コーヒーを啜った後皿に置いた。

 そして一呼吸したあと、メグは再びカップを持ち上げて、そのまま……。


「はい。あーん」

「ん?」


 メグはカップごと大ちゃんの口元に持っていったのだ。


「え? 斬新?」

「これはまたどうして?」


 私を含め反応に困るしかなかった。

 

 メグは混乱しているかな。

 それとも変なスイッチでも入ってしまったのか。


「え、それは普通に飲んだ方が楽じゃないの?」


 ごく当たり前の返しをした大ちゃんに対して、メグはプクーッと頬袋を作る。

 

「私はこれがいいの! だってさっきは嫌いな食べ物だからって食べてくれなかったし」


 あー。さっき出来なかったから、リトライなのね。

 にしてもちょっと雑かな。


 ぷいっと顔を横に向けて、いじけるメグ。


「え? えー?」


 大ちゃんが頭を抱えながら、悲痛な唸り声がここまで聞こえてきた。

 後頭部が右に左に斜めにワサワサと動いている。

 なんかちょっと可愛らしい。

 まあ、本人は真剣に困っているけどね。


「はあ」


 大ちゃんの諦めの合図が響き、片腕を上げた。

 そしてカップの取っ手を掴んでいるメグの指を覆うように、大ちゃんは指を添えるように掴んだ。


「と、とりあえず安定して飲めないから、手で支えるから。そ、それで勘弁して」


 そのまま大ちゃんはコーヒーを口に運んでいった。

 突然手を握られたメグは、驚きと幸せと緊張とその他言葉にならない表情の変化を繰り返し、最終的にカチカチに表情が固まっていた。


 大ちゃんは狙ってやったのか、それとも素なのか。

 どっちにしろメグにとっては褒美だから、良かったねと心の中で祝福する。


「んー。意外と雰囲気良い」

「いい方向には働いているみたい」


 二人に暖かい眼差しを送り続けた。


最近暖かくなったから家で半袖になったものの、夜は意外と冷えるから、半纏がまだ手放せないこの頃。

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