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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第二章 「夏から秋の騒動」
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『夏休みの始まり』 その1

「あづーい」

 

 口を大きく開けて舌を伸ばしながら、スポーツドリンクを飲むが、数滴しか落ちてこなかった。

 もうペットボトルの中が空っぽになっていた。


 今日で七本飲み干した。


 何度も団扇で扇ぐが、熱い空気をただかき混ぜて、熱風を顔に送っているだけで全く効果がない。


 噴き出す汗が、留まることを知らず、全身汗でべとべとだ。


 窓全開にしているが、風全くない上に陽射しが直接皮膚に刺さる。

 例えでなく本当にそう感じる。

 なんせ今、日焼けで腕全部が赤く染まっている。


 何でこんな状況か。


 クーラーが壊れたのだった。

 この時期に壊れるとか、災難もいいところだ。


 酷暑をノーガードで食らい続けて、心身ともに限界を迎え、ノックアウト寸前だ。


「あづーい」

「あづーい」

「あづーいって、いつまでいるんですか。先輩たち」


 隣に目をやると、壁に背中からもたれかかり、口をあけてスポーツドリンクを飲み干す先輩お二方の姿があった。


「んなこと言われてもよお。俺の部屋もクーラー壊れてるし」

「私の部屋も壊れているしね」


 二人揃って汗だくの顔で、親指を立てて、歯をきらっと見せてきた。


「だったら尚更、僕の部屋に来るのは間違いでしょ」

「いや? この苦しみを後輩と分かち合えるから、むしろ積極的に来るべきだろ」

「暑さに苦しむ後輩の顔を拝みに来るのも先輩の役目だし」


 本日二回目のドヤ顔とグットサイン。


 それただの自己満足でしかない。

 酷暑とはいえ、てるやん先輩とエリ先輩のマイペースの切れ味は微塵も落ちていない。


 こっちは暑さで突っ込む気力が全くないというのに……。


 全く踏んだり蹴ったりだよ。


「どこか、涼しい場所ないですか?」


 二人揃って腕を組み、それぞれ違った顔を渋らせた。


「うーん?夜かな」

「それ場所じゃなく時間ですよ。それにあんまり涼しくないですエリさん」


 ポンと手を打ち納得したような反応返すが、絶対態とな気がする。


「それなら、ダジャレか」

「それ、涼しいではなく寒いです」


 ふむふむと顎に手を当てる。

 

「じゃあ流れで、花火するか」

「どの流れでそうなったんですか」

「いや、そういう流れだったよ。カゲル殿」


 ガシッと肩を掴んでニッコリ笑みを見せるエリ先輩。

 その上何故、「殿」で呼ばれた。

 一方のてるやん先輩はノリノリで立ち上がり、ピョンピョンと跳ねながら部屋を出ていった。


 即行動にしても早すぎる。


「ただいまー」

「お帰り」

「……」


 もうノリが先輩たちの家になろうとしている。

 溜息しか出ない。

 帰ってきたてるやん先輩の手には花火の袋が握られていた。

 その袋を何も躊躇することなく破り開けた。


「え。何やっているんですか」

「ん? ここでやるんだよ花火」

「ここで!?」


 声が一オクターブ高くなってしまった。

 開いた口が塞がらなかった。

 僕が唖然としている間に、てるやん先輩は袋から花火を取り出してエリ先輩に一本渡していた。

 

「ちょ。ちょ。ちょっと待ってください」


 僕はすかさず先輩の手から花火と袋を奪い取って脇に抱え、二人から距離をとって構えた。

 先輩二人とも目を丸くし、後輩の思わぬ行動にびっくりしている。


「マジでやるんですか」

「え、いや俺の部屋でもやったし」

「やったんですか!」

「えー私の部屋でもやったのに」

「二人の常識はどうなっているんですか」


 その事実に驚くよ。


 さも当たり前のような顔するてるやん先輩。

 おもちゃを取り上げた子供の様に目をウルウルさせているエリ先輩。

 もう勘弁してほしい。


「えー何でとるんだよ」

「何でって。そりゃ危ないからですよ」

「ブー!」


 何故責められているのだろう。 


「楽しいのに!」

「それは、夜に外でやった場合です! 全く逆じゃないですかエリ先輩」


 楽しいってなんだよ。

 昼に部屋で花火とか聞いたことない。

 逆に花火をしたあとどうなったのか気になってしまいそうなレベルだ。

 プクッと不服そうに顔を膨らますエリ先輩。


「どうしてもダメ?」


 甘えるように指を銜えて可愛く見せてくるが、余計に腹が立つ。

 ついでに気持ち悪い。


「ダメです」


 きっぱりと言い切った。

 だが目の前にいる先輩たちはまだ不服な顔をしている上に、何か襲ってきそうで怖い。

 

「だって、暇なのに」


 突然、急に膝を折って腕で抱え込み、不貞腐れたように縮こまるエリ先輩。

 いつも元気な先輩に珍しく覇気が無くなっている。


「まあ。そうだな。俺も何か締まらねえしな」


 後頭部に手を当てて壁にもたれて、天井を仰ぎ見る態勢になる。

 いつものイノシシのような勢いある二人なはずなのに、湿っぽい顔になるのが意外でしかなかった。


「だって、部活動できないし」

「そうだね」


 ああ。そういうことか。

 この人たちのエネルギー源と言える事が封印されている現状だからか。


 僕の所属しているオタマジャクシズは、二か月の部活動禁止の処分を受けていた。


久しぶりです。 これからのんびり二章が続きます。

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