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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『夜の公園』

 私は隣の部屋の障子を、ほんの少し開けて覗いた。

 アーヤは布団に仰向けにグッスリ寝ていた。

 当然かな。あの後教員との抗争に、その後処理をして、最後に宴でみんなで飲み疲れたのだから、私も疲れたけど、でもそれより感動の方が勝っていた。


「カスミーン」


 ムニャムニャと眠気眼で私を見つめる。


「どうしたの? アヤメ」

「んー。カスミンありがとう。本当ね。カスミンがね。ジャグリング教えてとね。言ってくれたからね。私がねケガで負傷してね。一時期ジャグリングできなくてね。傷が治った後も、怖くてね。全然できなくなってね。けどカスミンがさあ、来てくれたら、思いとどめられたし、カスミンがいなくなってね。初めてね気が付いてね。自分もやっぱりジャグリングして、カスミンが救われるならね頑張ったらね。できたの。だからね。カスミンありがとう」


 持ち上げた顔は幸せそうな顔だった。

 

 バタンと酔いに負けて、また布団の眠りに入っていった。


 私はアーヤを起こさないように、静かに障子を閉めた。


 静かにリビングを横切り玄関に辿りつく。



 そっとドアを開けて、外に出て、最小限の音で鍵を閉めた。


 満天の星空だった。


 私は家から一番近い公園に少し小走りで行く。むっとした空気がしていてすぐに額に汗が滲んでくる。少し胸が疼く。


 入口に着くと、一人の女性がブランコに揺られていた。


 彼女は私に気がつくと手を振った。

 私も手を振り返した。


 彼女はブランコから降りずにそのまま揺られていた。私は近くまで行く。


「ブランコに乗らないの」

「お誘いありがたいけど、遠慮します」

「そう。楽しいのに」


 不服そうに呟くけど、あまり表情は変わらずに、ブランコを大きく揺らす。


「来ていたね」

「誘われたからね。彼に」

「やっぱり。あなただった。最初見たときは分かんなかった。だってそんな格好していなかった」


 私が最初に見たときはフードを被ってグラサンとマスクをした不審者だったのに、今は可憐な女性になっている。


「彼に決めたの?」

「うん、まだ全然。気にはなっているけど、でもまだね」

「でも、目はつけている。それに本当は彼と演技したかった」

「直接、教えている後輩としてはね」


 アヤメに彼と一緒に演技していたことには少し羨ましくは思ったけど、でもそこまで彼に思入れているわけでもない。


「ふーん。じゃあ一つ教えてあげる。」


 軽やかにブランコから飛び降りると、人差し指を立てる。


「あなたの身に起きたことを、積極的に救おうとしたのは彼だよ」


 何も感じなかった胸に少しの熱が芽生えた。


「そんな、何も知らない状態で」

「一つのヒントはあった。それだけで彼は信じた。なんでだろうね。あなたの周りがバカばっかだから、その影響でとんでもないことでも考えたのかな」

「あー。可能性はあるかも。」


 あのメンバーなら色々な化学反応が起きても仕方ない。


「とりあえず感謝することね。それに彼らはまだあなたの秘密を訊こうとはしないでいるみたい」


 本当にそれには感謝してもしきれない。

 今はまだ言えない。

 いつかは絶対に言わないと。


「早く決めないとね。今回は何とかあのドリンクで復活できたけど。今度悲しみ過ぎたらあのドリンクでも戻れないよ。それに飲めば飲むほど、少しずつ効き目が薄れてくるから、あと三年ももたないかもしれないし」

「そうね。最終的にはね……。でも今は最高に楽しいから。今はそれでいいかも。本当にありがとうね」

「呆れた」


 前頭部に手を当てて、俯きながら首を横に振る。ここ最近で同じ光景を目にした気がする。


「まあ。まだすぐには消えることがないから、楽しんでいいと思うよ」

「ありがとう。あなたにも感謝してもしきれないよ」


 この人にも感謝をしてもしきれない。なんせこの人は命の恩人よりももっと上位の恩人なのだから。


「短い第二の人生を悔いのないように」

「わかった。えっと今は小百合さんだっけ」

「さんは余計。今度キャンパスで会ったら普通に小百合でいいから」

「わかった」

「じゃあね。『夢見人』(ドリーマー)さん」


 そう言って、ふわりとした雰囲気の彼女はまるで浮いてるかのように歩きながら、公園を立ち去った。


 私は彼女の背中をぼんやりと見ていた。


 叶えられなかった夢を一つ叶えられた。


 本当はあの演技に出たかったな。と後悔をする。


 でもまだ時間あるし、ジャグリングをするための時間は残されている。


 今は全力で行こう。


 私は黄泉から帰って来たのだから。


 私はポケットから茶色の瓶を取り出した。

 キュポっと蓋を開けて、口つける。中が空になるまで飲みほして、口から瓶から離す。


「まずい!」


 私は広がる夜空を眺めながら、歩き始めた。


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