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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『救出作戦実行!』 その2

「フフ。よし次は大ちゃん」

「えええええええ!」


 ブッたまげたと言わんばかりに、後ろに尻餅つくほどの驚きを示した大介。始まる前から腰を抜かしている。

 僕はさっと大介の手を引っ張って持ち上げる。


「大丈夫だ。お前は実力がある。自信持っていけばいい。それに前回ノーミスだったじゃねえか」

「それは……。人がいなかっただけで。今はいっぱいいるし」


 何度も観衆の方向を見て、アワワと顔を赤くしている。


「でもお前、カスミン部長には戻ってきて欲しいだろ」

「それはそうだけど……」


 未だに踏ん切りの付かない大介に、もどかしくなる。けどこれ以上の励ましを用意してない。

 悪戦苦闘していると、メグがさっと僕の前に割り込んだ。

 何をするかと思うと、彼女はギュッと大介を首の後ろに手を回し、そっと大介を抱いた。


「もう。大ちゃん。そろそろ本気出してよ。部長にもこういうのをしてもらったのに、それでも舞台立てないのは、男じゃないよ。まあ私は、そういうところ……」

「ハイハイ。そこまで。メグ、今は公共の場ということを忘れてるよな」

「あ」


 気がついたメグは、瞬時に大介から離れる。みるみる顔が火のように赤くなるのが解った。

 クラブ員は疎か、観客まで温かい眼差しを送っている。


「お。カップル誕生か」

「ラブラブー」


 冷やかしと祝福の応酬で、メグは穴があったら入りたいほどの気持ちだろ。耐え切れなくなったメグは大介の背中を思いっきり叩いた。


「痛ったい!」


 その叩かれた衝撃で、大介は舞台の真ん中に飛び出した。

 観衆の注目が集まる中、彼はビクビクしてはいなかった。


 痛みで緊張を忘れたのか、それとも開き直ったか、それともメグの抱擁に目が覚めたか。


 彼の中で何が変わっていたかは、知らない。けどあの一発で全てが吹っ切れたみたいだった。


「大介!」


 呼び出した時の横顔の瞳は澄んでいた。

 僕は持っていたシガーボックス三つを大介に向かって投げると、難なく受け取り構えた。


「テンちゃん!音楽お願いします!」

「はいよ」


 始まった音楽に大介は、ゆっくりと演技を始めた。


 カンカンと箱と箱が挟む音か快活に奏で始める。箱が重力に逆らうように浮きながら、入れ替わったり回ったりする。


 徐々にスピードを上げて、動きが激しくなっていく。

 足の下を通ったり、背中の後ろを通したり、投げ上げたり、三つの箱が全部バラバラに飛び上がったりする。

 

 けどすべての動きは最後には綺麗に箱三つが横に並んで停止する。


 そのたびに歓声が沸いた。

 

 すごいと思った。


 前回の本番も良かったのに、今の大介はそれ以上だった。


 大衆が一体となって、技一つ決まるたびに声が上がる。


「ハイ!」「ハイ!」「ウオイ!」「うおおおおお!」


 演技と観客が一体となった瞬間だった。 


 最後の大技もしっかりと決め切った。


『おおおおおおお!』


 またも響いた歓声、観客はさっきの倍に増えていた。

 戻ってきた大介に僕は両手でハイタッチをする。

 大介はその両手をマジマジと見つめていた。手はガタガタと震えていた。


「大丈夫か大介」

「うん。僕、こんな風に人を喜ばせる演技ができたんだ」


 彼は今自分がしたことが信じられなかったのだろう。でもそれが事実だ。


「よかったよ!」


 初めて、彼は笑った。


「大介。だから言ったろ自分を信じろって。みんなだって同じこと言ってただろ。」

「うおおお! だいすけ!」


 てるやん先輩と耕次先輩が体の軽い大介をさっと持ち上げ、高々と投げ上げて胴上げをした。

 大介が突然の出来事で白目を向いていたことは、見なかったことにしよう。

 観衆からは笑い声が漏れる。


「次は私たちの出番だな」

「そうですね」


 リナとエリさんはそれぞれの両手には色鮮やかなリングが握られていた。


「エリ。やっぱりズボンがエリらしい」

「あ、やっぱり衣装懲りすぎるのも良くないな」


 エリさんは嬉しそうに鼻の上を指でこする。

 隣にいたリナは両腕を曲げて、今か今かと出番を心待ちにしている。


「リナ。お前もそんな顔するんだな」

「たぶん初めてかも。こんなにワクワクしているのは、やっぱり続けてきてよかった」

「あ、やっぱり、一時期浮かない顔していたよな」


 僕の家に来たとき、何か思い詰めていた顔していた。


「気づいていた?」

「確証がなかった。リナが休んだ時に違和感に思ったけど、次の日見違える程元気に戻ってきたから、思い違いかなと思っていた」

「カゲルも気にはかけていたんだ」

「言うても、ほんの少しだけど」

「そう」


 ワクワクしていたリナの表情に、少しの赤みが足された。

 理由は僕にはわからないけど、まだ自分も相談されるくらいに仲良くなれたらと、密かに思う。


「さあリナ嬢行きましょう」

「はい。エリ様」


 西洋の皇室を想像させる会話を……、そこまでノリがよくなったのかと吹き出しそうな気持ちを必死に抑え、二人を見送った。


「今度は何だ」

「輪っかみたいなものがある」


 二人の女性の登場で、会場は騒めき始める。


「やっぱ本番は」

「人がいる方がいいですね」


 二人はアイコンタクトしてから、観衆にお辞儀をした。


 観衆から拍手が送られた。


 音楽が流れ始め、まずリナがリングを投げ始めた。丁寧に且つ可憐に踊りながら、三つのリングの舞をみせていく。


 今までの練習の成果が出たのか、リングの軌道が一番綺麗な弧を描いていく。その美しさに魅了されていく人もいた。


 上々の掴みにリナはニッと笑みがこぼれた。


 次にエリ先輩が演技を始める。こちらもリングだがリナと違い、体を大きく動かした豪快のある演技を連発していく。


 投げるだけではなく、体の上をリングを転がしたり、指で回したりと変化を加えていく、ただのリングでここまでできるのかと思った。


 リナと違ったアグレッシブな演技にこれまた魅了された。 


 続いて二人揃って演技する。


 音楽に合わせた二人の演技は見事にシンクロしていた。即席と思えない見事なコンビネーションだった。


 二人でシンクロダンスをしていた。リングと演者の動きが同調していた。


 途中でリナが落としたが、即座にエリさんがソロ演技でカバーして、リナに時間を与え持ち直させた。


 最後はお互い向かい合ってのリングをカスケードしながら、一個ずつ相手に投げて交換するという、パッシング技で締めくくった。


 可憐なリナと豪快なエリ先輩のいい特徴が見事に噛み合った演技だった。


「おおお!」

「綺麗だ」

「ビューティフォー!」


 様々な賞賛の声が飛び交い、二人は戻ってきた。


「やった!」

「やりました!」


 横に戻ると二人とも感極まって、頬が引っ付く程に抱き合った。

 リナは想像がついたけど、エリさんがここまで感情を露わにした喜びを見せたのは、初めてだった。


「久しぶりに見たなエリの顔」

「フム。珍しい。クラブ創立した以来だな」


 腕を組んで一緒に頷き「嬉しいぞと」その光景を自分の娘を見守る父親の様だった。


(いや。どんな立場だよ)


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