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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『緊急会議』 その2

「なあ。何で黙ったままなんだ。アヤメ」


 壁にもたれかかっていた耕次先輩が向けた視線の先には、ずっと膝を抱えて小さくなっていたアヤメさんがいた。

 いつもはしっかりした女性だったのに、髪を下ろして、抱えていた手の指をくわえて、しおらしくなっていた。瞳には力がない。


「……」


 無言のままだ。当然だと思う。

 本来なら、ベットで寝込んでいてもらってもいいはずだった。


「アヤアヤ。ごめん。今とても気持ちが落ち込んでいるのはわかる。けど、アヤアヤが協力してくれないと、もう私たちじゃどうしようもできない」


 榊原さんがアヤメさんの背中を優しく撫でる。

 でもそんな慰めでも、そう簡単に気持ちが落ち着くとは思えない。まだ落ち着くまでには時間がかかる。


「とりあえず。アヤアヤが落ち着くまで他のことについて整理しましょう」


 榊原さんが一旦話を戻す。


「じゃあ、まず何でお客が来なかったのですか?」


 ほんわかとした雰囲気を維持していたはずのリナが、率先して疑問を切り込ませていく。


「それ。私に訊いてる?」

「はい。外で受付をしていた榊原さんが、一番理解しているのではないかと思いまして」


 相手は先輩だけど、遠慮することなく質問している姿は、僕と同期には正直思えないくらい肝が座っているように見える。


「まあそうね。色々な条件が重なったのもあるけど、これはあくまで私の憶測だけど、知名度の問題かな」


「知名度?」


 先輩三人組が揃って首をかしげる。

 僕はその言葉に少しの共感できる点はあった。


「それはジャグリング自体の知名度が低いからですか」

「うーんそれも原因の一つだけど、そもそもこのクラブは作って何年目?」

「一年程度だ」


 耕次さんが答える。


「その程度だと存在自体知らない人が多い。あなたたちの魅力となるジャグリングもまだ一度も見せてないとなると印象すらない。この大学にあるクラブ団体は大体二百以上、それだと他の有名クラブ団体にしか印象がない」

「で、でも宣伝していましたよ」

「ほとんど聞いていないよ。聞いていても忘れているよ」


 メグは抵抗虚しく玉砕する。

 事実、人間というのは興味がないものに関しては思考遮断するし、聞いても時間が経てばすぐ忘れる。僕も同じで、クラブ勧誘の宣伝の時なんて耳を傾けることですら煩わしかったのも覚えている。


「それに極めつけはこれだね」


 榊原さんのポケットから出てきたのは、とある有名クラブのポスターを二枚出しました。

 一つは超有名なダンス部サークル、もう一つも有名な吹奏楽部だった。


「友達からね余ったから貰ったんだけどね。注目はここ」


 指さしたところは日時だった。


「7月4日17時30分、こちらも7月4日17時30分」


「あちゃー。全く一緒だったんか」

「そうみたい。私も話は聞いていたけどね。まさか二つも大規模クラブと被ると思わなかった」


 榊原さんはお手上げというばかりに両手を上げた。


 これにはオタマジャクシズ一同、どうしようもない事実だった。それに今の今まで気が付かなかったこともあれだ。


「ちなみに気が付いていた?」


「全く気にしてなかった」

「うむ」

「そもそも興味がない」


「私たちは」

「練習に必死だったし」

「同じく」

「僕も同じです」


 言っておいて、かなり酷い。まあ本番のことしか頭に無かったし、ほかのことなど気にする余裕などなかった。

 ほかの人たちも全くそうだろ。アヤメ先輩はもしかしたら知っていたもかもしれないけど今は話を訊けない。


「あまり訊きたくないけど、みんなクラブ以外の友達はいる?」


 追い打ちをかけるような榊原さんの質問。


 グサッと僕の胸を貫ぬいていく。

 みんな揃って顔色が悪くなる。


「え?図星?」


 質問した本人が逆に、慌ててみんなの顔をそれぞれ覗いている。


「いや。俺らいつもこいつらとしか話ししてねえし」

「俺もだ」

「私のノリについて来てくれている人、このクラブしかいない」


 三人組の溜息。


「私はネットではいるんだけど、現実にここまでアニメの話とかジャグリングの話は、クラブ外にはいないし」

「私はいなくはないけど、ここまで親密じゃない」

「ぼ、僕は、そもそも人が苦手」

「僕も、話せるような人は他だと一人くらいしかいない」


 言うたびに心が重くなる


「アチャー」


 放出さんが大袈裟に頭に手を当てる仕草をとる。


「みなさん。クラブ以外の友達も作れとは言いまへんけど、でもそれなりに知り合いを作っとかな損ですで。そういった人たちは来てくれる可能性が増えますって。それに考えてみてください。友達に誘われば行く気になりますが、知らない人に誘われても行く気になるのは相当興味がわかない限りありまへん」


 現実を突きつけられ、僕たちは今まで以上に落ち込んだ。

 本当に部屋の照明が暗くなると思うくらいに。


「ちょっ、ちょっ、てんちゃん。落ち込ませすぎ」

「いやあ。でも変にぼかしてもしゃあないやん。それに榊さんも言うつもりだったんとちゃうん?」

「まあ。そうだけど……いやいやここまで落ち込ましたら後々大変だって」

「ああ。そら堪忍や。そうそうこりゃちょっと前の話やけど、朝に駅前の駐輪場に自転車停めていたんやけど、夕方戻ってきたら放置自転車のステッカーが貼られていたんや。どんだけわいの自転車ボロに見えたんやろな」


「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」


 ダメだ。全く効果がない。いつもの状態だったら確かに笑えそうな話だけど、自分たちの性格と行動にダメ出しを食らった僕たちにそんな気力はない。

 盛り上げようと頑張った放出さんは苦笑いを示し、榊原さんもアワワとパニック状態になってしまった。


 この状況どうしよう。


 光明の「こ」の字すら見えてこない。カスミン部長が消え、それ以外でも舞台は散々、状況を振り返るだけで出てくるものは、暗い部分しかない。


 上を見上げても白い天井が広がっているだけ、答えが出てくるわけでもなかった。


 僕はそのまま後ろにもたれる。

 そしてゆっくりと天井が視界の下に流れていき、暗い空間が視界に入った。


 突如ガシャーンといくつか物を壊した音がし、僕はそのまま仰向けに倒れ、背中に鈍い痛みが走った


「カゲル!」


 てるやんさんの声を聞くまで一瞬何が起きたかわからなかった。

 起き上がると、後ろ麩が倒れて部屋の箱や物を崩したり倒したりと、物を散乱させてしまった。


「カゲル。大丈夫?ケガない?」

「すみません。ぼーっとしてました」


 心配してくれたリナとみんなに対し深く頭を下げる。


 僕と大介と、メグとリナが隣の部屋に入って整理をした。


「これ。なんでしょう」


 ふと大介が何か気になったのか、茶色のガラスでできた物体を持ち上げた。


 それを見た瞬間に自分の脳にビリっとくるような痛みに近い刺激を憶えた。そしてその物体を大介から貰って、くるっと回して裏面を確認する。


「あああああああ!」


 物体を持っている手が震えた。


「どうした」


 絶叫に応じて、先輩たちがズカズカと部屋に入ってきた。


『ああああああああ!』


 先輩達の中であの三人が部屋を震わすほどの驚きでガシッとその物体を掴んだ。


「先輩も覚えていますよね」

「覚えてとるわ。あんな殺人的衝撃を忘れるわけがねえ」

「ああ」

「私も覚えている」

「これ何でここにあるのですか」

「あるもなにもこれはカスミンのものだ」

「ええええええええ!」


 二つ目の衝撃に両手を上げてしまう。信じられなかった。そうなるとあの時の犯人はカスミンさんということになる。


「でも、これ後で、元気になったな」

「私もだ」

「……」


 耕次さんは何か思い出すのを拒んでいるのか突然黙り込んだ。


「耕次。どうした。顔が汗だらけだぞ」

「いや。あまり思い出したくない」


 耕次さんが思い出したくないこと、そんな事この前後にあったかな。腕を組んで考えてみる。

 確かにあった。

 僕ら三人とは違う、面白い変化があった……。


「あああああああ!」


 三度目の衝撃は、驚きでもあったが、とんでもない発想までしてしまった。今考えてみればおかしかった。あの現象が現実に起きるなんて不自然すぎる。

 耕次先輩だけに起きたのは何かそれなりに合致するものがあったかもしれない。

 頭の中でじっくりと仮説を立てる。

 いや仮説しか立てられない。

 しかもこれはほぼ願望に近い。けどこれが引き金か何かの原因なら、可能性は1パーセントだけでも出るかもしれない。

 耕次先輩が見に起きたことが偶然じゃなく必然であるならだ。それでも強引な案なことには間違いないなのだが。無駄に信じたかったかもしれない。

 けどまだこれでは足りない。現実的な作戦にするには必要なことがあるはず。

 僕は今から、自分でも信じられない理論を立てた。それを説明する前に僕は彼女を立ち上がらせる方が先決だと何故か思った。

 三人組の驚愕の目を掻い潜り、僕は即座に未だに子猫のように蹲っている先輩に話しかけに行った。



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