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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『私のリハーサル』 その2

 後輩の嵐が過ぎ去ったあと、てるやんがのそっと私の隣に寄ってき、誰もいないのにヒソヒソ話をするように手をかざしながら話す。


「カスミン。時には大胆なことするんだな」

「俺も驚いた」


 耕ちゃんまで、腕を組んで納得している。

 改めてそんなことを言われてしまうと、急に恥ずかしくなってしまう。


「べ、別に意味はないから、ただ後輩が困っていたから、自然とね」

「ほほう」


 相変わらず何かを見透かしたかのような、反応するてるやん。それに便乗する耕ちゃん。この二人は、本当にちょっとした事にでも、どうでもいい事にもとてつもない興味を示してくる。


 これ以上引っ張ると、私がボロを出すとまずいので、この話題を切る。


「それより、二人共コンディションはどうなの?」

「おう! 万全だ!」


 元気に力こぶを作るように右腕を曲げるてるやん。


「問題ない」


 しっかりと腕を組んで、仁王立ちになる耕ちゃん。

 この二人の場合、心配することの方が間違っていると認識する。それにもう一つ改めて二人の姿をマジマジと見つめる。


「やっぱり。二人のスーツ姿はインパクトがあるね。絶対に最初の掴みは完璧だと思う。プッ」


 必死に笑うの堪えようとしたけど、本能的に出てきてしまった笑いを止めることはできなかった。まっすぐ立っている姿が違和感な上に頭のアフロがスーツの引き締まった雰囲気を見事に壊している。


 対して大きすぎる体に着けているスーツは、どう見ても執事には見えない。ガードマンでもいいが、それより数段の怖さがある。


 それに二人が並ぶと、アンバランス感に拍車がかかる。


「やっぱり最高」

「おいおい。カスミン笑いすぎだ」

「流石にきついぞ」

「でも、別に馬鹿にしているわけではないって。舞台に立つならここまでやってちょうどいいって」


 私の褒め言葉に、二人は苦笑いだったが、それでも悪くはない表情だった。


「あれ。エリはどうしたの?」

「まだ着替えをしていたはずだ」

「そうだな。そういえば、なんであいつはあんなにビラ配りが捗っているんだ」


 てるやんが、急に話を変えて、ひとつの疑問を呟く。


 でも私も確かに興味はあった。エリの宣伝が上手とアーヤから聞いた時は、それはもう目が丸くなるどころの騒ぎではなかった。実際私も宣伝でビラ配りをしたけど、そう簡単に受け取ってくれない。けど何故かエリはみんなの数倍のペースで配っているらしい。


 頼もしい限りなのだが、私的見解で不安に思ってしまう。何かよからぬ方法で配っていないかという不安。エリはそれをしてそうで怖い。


「まあ。でも何とかなってるんじゃないのか、ビラもほとんど配れているんだし、宣伝も声だけでも結構見てくれているみたいだし」


 てるやんはカカカと笑う。


 そのてるやんの前向きな思考で、私はちょっと杞憂だったかなと、さっきまでの不安を消していった。


 壁に掛けてあった時計を見ると、リハまでの時間があと五分と迫っていった。


「もう時間ね。二人共、本番まで調子を維持してね」

「おう」

「もちろんだ」


 二人の頼もしい返事に、私も部長として頑張ると意欲を燃やした。



 着替えの終わったエリと打ち合わせの終わったアーヤと合流し、リハーサルが始まった。

 

 女王のアーヤと、付き添いのてるやんと耕ちゃんが出てくる。観客側を見ると、マッキーがお腹を抱えて笑っている。上にいるてんちゃんも必死に笑いを堪えているのが見えた。掴みは大丈夫だろう。


 街のパフォーマーとして登場する後輩たち、私は手を握りながら見守る。

 

 動きはまだ初心者だけにぎこちなさが消えることは無かったが、けど雰囲気と技の成功率は上がっていた。音楽の区切りできちんと決め技を決めているし、足取りも軽くなっていた。


 大介もグラグラだったシガーボックスも、しっかりとした横一列で止められるし、早く投げ上げた技も最初の寸分の狂いのないきちっとした形にもなっている。


 カゲルも簡単な技を丁寧に仕上げ、ミスが少なくなっていた。


 メグとリナも堂々とした演技で、落としても慌てずしっかりと拾ってうまく修復できていた。


 心の中で安堵し、小さくガッツポーズした。

 ほんの少しでも力になれたことに良かったと純粋に思う。



 そしてこれから二年生、最後の街のパフォーマーのエリが出てきた。


 堂々とした姿でリングジャグリングをこなしていった。足の下や体の後ろを通したり、スピン技も難なくこなした。最初からそれほど心配はしていなかった。経験者である彼女は本当に上手だった。本番でも同じようにすれば大丈夫それほどの出来だった。

 

 だが順調と思った演技だったが、何もない基本技でガタっとドロップした。本人も少し困惑した表情を見せいていたが、気を取り直してすぐ始めた。そして最後は何とか決めて終了した。


 エリは舞台袖に降りてきて、ちょっとミスったっと舌を軽く見せた。本人は然程気にしてはいないが、私は気がかりだった。



 嫌な兆候はその後にも現れた。



 てるやんも二・三度、何でも無いようなところでドロップをした。珍しく首を捻った。


 耕ちゃんも同じ現象だった。投げ上げたディアボロを頭にぶつける始末だった。


 私の心に小さな不安を憶えたのであった。それを気にする暇はなく、私の出番を迎えた。


 不安がよぎるでもまだリハーサル気楽に行こう。


 頭をリセットし集中する。


 舞台に立ち上がった瞬間に不安は消えた。



 ステージの上は世界が変わるというのは、私は感じていた。


 上から降り注ぐライト。自分を照らし、より一層自分の存在を強調してくれる。


 今この瞬間の舞台は自分のものだと、この瞬間は自分の時間になると、そう感じずにいられなかった。


 今は観客席にいるお客様は、スタッフだけだった。でも本番はこの二百人程観客席がすべてが埋まると思うと、私の気分の高揚はこの状況でも高ぶっていた。本番の舞台では、私の気持ちは最大値を超えていくだろう。


 その多くの人たちに私の演技を見てもらい感動してもらう。


 それが夢だった。私はその舞台への第一歩を踏むのが明日だ。

 


 私はこの予行演習を全力で行う。後輩にも思い切ってやれと言った。私も思いきってリハーサルを行うことが、私が私であるためだ。


 私は最高の演技をした。手には面白いくらいにボールが収まり、すべての感覚がしっかりと感じる。これほどまでにしっかりとした演技は今までに一度もなかった。


 練習だけではできない感覚だった。


 最後の締めの技を決めた瞬間、一瞬時が止まったように沈黙した。そして舞台袖と観客席から歓声が湧いた。


 数は少なかった。けど私は最高だった。






 空いっぱいに光る星たちは、私たちを祝福しているようだった。

 そこまで思うほど、私は幸せな気持ちになっていたかもしれない。

 足取りはとても軽く、鼻歌までしてしまうほどだった。


「今日のカスミンはどうしたの?」


 アーヤがこの世の珍しいものを見るのと、喜びを足した顔をしている。


「わからないけど、舞台に立つとあんな感じなのかな。やっぱり練習と違うね」


 理由はわからない。ただ体が動いた。


「まあいいわ。とりあえず本番もこんな感じでね」


 意外とあっさりとした答えが返ってきた。

 でもその言葉にハッとした。忘れかけていた。まだ本番ではないということ。でも私には不安など微塵もなかった。これほどのことが出来るステージを大勢の人に見てもらい喜んでもらうそれができること。


「うん。大丈夫!」


 今日の帰り道、私は今までの人生で一番の幸せな笑顔をみせた。

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