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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『私のリハーサル』 その1

 舞台練習二日目、本番前日。放課後。


 今日は通しリハと、本リハーサルの二つ。


 それが終わると本番。


 もうここまで来たのかと、私は個人的にワクワクしている。やっと大勢の人前で舞台ができるのかと、楽しみで仕方ない。


 でも後輩は、緊張でそれどころではないみたい。


 今、通しリハの最中だ。


 私は舞台袖で、ステージ上の後輩の姿を見ているが、みんな昨日のステージ練習に比べて少しは上達している。けど動きがぎこちない。たぶん緊張のせい。ドロップする度にどんどんみんなの覇気が消えていく、胸が締め付けられるようにギュッと痛む。


 その影響で立ち位置のミスや、精神的影響、それが動きの鈍さや乱れにつながってくる。


「そこ立ち位置ずれている!」「もっと元気よく!」「背中曲げない!」「前を見る!」


 観客席にいるマッキーの檄が飛び、後輩たちは尚一層萎縮した動きになってしまった。


 その指摘が長引いたせいか、私たち二年の演技と、最後の全員の演技は、省略することになった。


 休憩時間に入り、私はマッキーがいる観客席に向かう。目線が合うと元気良く手を振ってくれたので、私も元気に返してあげた。


「マッキーどうだった?」


 単刀直入に聞くと、特にそこまでの苦しい顔はしていなかったが、目だけは鋭くなっていた。


「うーん。細かいことを言うとキリがないから、ざっくり言うと、やっぱり一年生の動きが固い。それにカスミンには悪いけど、ちょっとサイレント劇の完成度かな。まあもともと演劇部ではないから、そこまで求められているわけではないけど、もうちょっとかな。まあ本リハを見ないとわからないけど」


 容赦なく言ってくれた指摘に、私は渋い顔を示す。けど事実だった。自分のことではないがそれでも後輩の指摘はとても悔しいと感じる。真顔で黙ってしまった。


「でも、まだリハ段階だし、それに私たちには無いジャグリングがカスミンたちはあるんでしょ? それで挽回するつもりだよね?」


 その言葉は慰めにも聞こえたが、私たちに対する挑戦的な意味合いにも聞こえた。けど彼女が私を見つめてくれた瞳は、純粋なる期待だと気がついた。


 彼女はサポートであっても、私たちの発表会の観客であることも事実。


 でもない限りわざわざまだアーヤの友達であっても、設立一年程のクラブの初舞台に裏方としてくるはずがない。少なからず期待をしている。だから指摘をしてくれた。


 それを聞いた私はどう皆に伝えればいいのか、部長として少しでも何かしてあげるべきだ。アーヤも多分マッキーの話を聞いているから伝えるはず。でも落ち込んでいるはずの後輩にどうやって元気づけてあげるべきか。すぐには答えが出るはずがない。


「カスミン?」


 難しそうな顔していたせいか、マッキーが心配した表情をしている。私もいつもの笑顔に戻す。マッキーは善意で言ってくれた。仲良くなって一日しか経たない私に、今言ってくれた事に全力で感謝を示す。


「ごめん。ちょっと考え事していたみたい。マッキーありがとうね。正直に言ってくれて。ジャグリングで私たちが挽回するから。期待していて」

 グットサインを出すと、マッキーもパッと笑顔で返してくれた。


「うん。カスミン期待している」

「じゃあ今から後輩たちを元気にしてくる!」

「そうだね。私も少し言いすぎたから」

「マッキーが、遠慮することない。しっかりと注意してくれたんだから。まだ言い残したことはあるみたいだけど、それはまた私に言って」

「わかった」


 元気良く話し終えると、私は舞台袖に行き、控え室前の通路の扉を開ける。


 そこには後輩の三人が、色とりどりの衣装を着替え終わっていたが、その衣装に感動することがなく、自分の演技や通しリハの失敗で頭がいっぱいで、壁に持たれたり座りこんだりと様々だ。


「みんなまだリハなのに緊張しすぎだよ」

「そんなこと言われましても、体の震えが止まりません」


 リナは道具を持っている右手を必死に左手で抑えているが、表情に元気がない。


「ルーティンが飛びそうです!」


 メグは上を見ながら指を一本ずつ必死に折り畳んでいる。


「正直自信が持てないです」


 同じ道具のカゲルは、手を合わせて座り、下を向いている。


 一年生は練習を初めて、まだ三ヶ月程。


 本当ならまだ舞台に立たせるには早計だとは私も感じていた。でもサポートに回ってもらうのも私は嫌だった。入ってきたみんなも舞台に立ってもらいたいそれが私の思いだった。


 でもそれが後輩には重圧になっている。

 だから私は何か駆けられる言葉を探す。


「大丈夫。みんなしっかり練習してきたんだから」


 けど三人とも表情が変わらない。


 やはりありきたりの言葉じゃ、緊張を溶かすのは難しい。


 何か元気づけられる言葉を考えていく、でもこういうのはアーヤが得意だけど、今この場にはいない。


 何とか絞り出そうと頭を集中する。リナの時は考え方の違いを突いて、リナを元気にさせた。


 私もその考え方を採用する。


「だったら、リハーサルは思い切ってやって失敗してきなさい。」

「えっ?」


 三人は一斉に私は見る。


「えっ。それだと本番に引きずるんじゃ」

「チッチッチッ」


 カゲルが言いたいことを、人差し指を振って止める。


「カゲル。それは考え方の違い。ジャグリングは練習しても失敗したり、成功するでしょ」


 三人とも頷く。


「でも技って連続で成功するのも永遠じゃないよね。それと同じで反対に失敗し続けるのも永遠じゃないよね。ということは失敗すればする程、次に成功する確率が上がるってこと」


「言われてみれば」

「そう言う考えも」

「出来なくもない」


 三人は各々反応を示す。


「だからリハーサル失敗しても大丈夫って。本番じゃないんだから気楽に気楽に」

 

 急激に緊張をなくすことはできないが、ほんの少し三人の顔が明るくなっていった。


 少し調子に乗って決めてみる。


「リハ、ミスったら本番成功するから」


 私はついでに可愛い女の子の後輩には、そっと頭を撫でる。


 そしてカゲルにはギュッと両手を握ってあげる。


 ちょっとホッと胸が熱くなる感覚になる。 


 三人はちょっぴりほっこりした表情になった。


 さっと手を離して、もう一人いない後輩を探す。


「それで、ダイちゃんは?」

「それが多分今、トイレにこもっていると思うんです。今必死に耕次さんとてるやんさんが連れ出しに行っています」

「ふふ」


 この状況で笑うのはちょっと間違いかもしれないけど、その光景を少し想像すると面白く思っていた。


 それにしても後輩の中で一番の実力者の大ちゃんはもっと自信を持てばいいのに、どうやって元気にさせればいいかな。


「ふうー。やっと出てきた」


 てるやんが汗を拭う仕草をしながらトイレからでてきた。


 耕ちゃんが虫の息の大介を背負っている。


「降りれるか、大介」

「す、すみません」


 何とか自力で降りた大ちゃんだが、足元がフラフラだった。このままではリハどころの問題じゃなかった。


 恐怖に怯えている子供次状態だった。



 私は自然と大ちゃんの目の前に歩いていた。


 そしてそのまま、私は大ちゃんの頭をゆっくりと自分の胸に引き寄せて、大きな背中を撫でる。丸で自分の息子を抱くかのように。


「大丈夫。大ちゃんは実力持っているんだから、心配しなくていいから。それにリハだよ。失敗しても大丈夫なんだから」


 大ちゃんは無言だった。


 急にされたから混乱はしているとは思う。


 でも彼の背中かから僅かに力が蘇っていった様に感じた。


 サッと背中から手を離して、顔を起こしてあげる。

 大ちゃんの顔は、青ざめていた表情に、ほんのり赤みが戻っていった。


「ほら。リハ頑張って」


 最後にポンと肩を叩くと、無言でゆっくりと頷いた。

 立ち上がった大ちゃんにはまだ不安の色は消えていない。けど泣き言を言うことはなかった。


「なるほどね」


 後ろにいたメグが不気味に口角を上げて、何かを納得したようだ。その何かを企ている視線を大ちゃんに向けられていることに、本人は気づいていない。


「メグ。今何か変なことを考えていたかな」 

「へ?べ、別に何も考えていないよ」


 リナの鋭いツッコミに、完全な図星だった。


 大ちゃん以外のここにいるメンバーは全員メグに好奇な目線を送ってあげる。


「ちょ、ちょ何ですか。みんな揃って」

「何もないよメグ」


 リナが満面の笑みでメグに答えると、メグは顔をカーっと赤くさせる。


「もう。あ、もうこんな時間じゃないさっさと舞台袖に行って準備するよ」


 腕時計を付けてもいないのに左腕を見ながら、時間のことを話して、舞台袖に向かって歩いていく、そして大ちゃんの腕を強引に掴む。


「ちょっと、え? メグ?」

「何も言わない! 大ちゃん上手だから何も言わずついてくる!」

「へ。状況が読めないんですけど!」


 相変わらずの二人は、揃って舞台袖に消えていった。

 カゲルとリナは笑いながら、二人を追って付いていった。

続けて二本目です。ペースが安定すればいいのだけど中々うまくいかないですね(笑)

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