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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『ステージ練習後の夜』 その2

「あー。全然うまくいく気がしない!」

 

 付けていたイヤホンを外し、湿った地面に腰を下ろし、ぐだっと足を崩す。

 辺りに散らばるボールを拾いに行く気力もなく、ただボーっとそのボールを眺める。


「こら。へこたれない!」

「メグ危ない!」


 リナが手を伸ばしながら走っている。メグの前方斜め上に黄色のリングが飛んできている。


「うあ」


 咄嗟にしゃがむメグ。そのメグの髪を掠めながらリングは通過し地面に衝突する。数回跳ねて地面を転がっていくと今度は外の道路に向かって進んでいく。


「やばい!」


 自分のミスがフラッシュバックする。体の疲労を忘れて僕は全速力で追いかける。

 感覚的に道に飛び出すタイミングと僕が手に届くタイミングだとほぼ同時か。

 ほんの数秒でいいから早くと、力を振り絞って走る。

 あと二メートル、一メートル。間に合うと思った瞬間。

 目の前にぬっと横から人影が出現した

 勢いに乗った体は止まるはずもなく、方向転換ができるわけではなくそのままぶつかる。


 かと思ったが瞬時に向こうの人影が横に避けた。


 最悪の結果は免れてホッとするのもつかぬ間、今度は道の向こう側にある植樹帯に頭から突っ込んでいく。


「カゲル!」

 

 植樹帯に顔がぶつかるほんの数センチ前で、体が止まる。

 

「カゲル、僕と同じ間違いをしかけてるって」


 大介がゼーハーと息を切らしながら、僕の肩をガシッとつかんでいた。


「おお。ありがとう」


 素直に感謝をする。大介はズレた眼鏡を右手で直して頷く。


「道具が飛び出しそうなときは、無理に取りに行こうとせずに歩いていく。昔に同じ状況で車にぶつかりかけたから」


 目を合わすことなく右手を首筋に当てながら、アドバイスしてくれた。

 最初は意外に思っていたが大介にも経験はあるのか、ジャグラーってみんな似たもの同士なのか。


「カゲル!」

「大丈夫カゲルさん?」


 公園から走ってくるのはリナとメグ。道からやってきたのは……。


『小百合さん?』

『さっちゃん!?』


 突然現れた一年生お馴染みの楠原小百合さん。白のブラウスに白のスカートと清楚な雰囲気は変わっていない。

 

「ごめんなさい。私が突然出てきてしまったせいで、カゲルさんが危ない目に」

「いやいや、前方不注意の僕が悪かったので気にしなくていいですって」


 互いにぺこぺこと謝りあう。デジャブだ。


「さっちゃん! なんでここに?」


 メグが勢いよく走り小百合さんの前で止まる。


「え。あー。家が近くなの。よくここ通るから」

「そうなんだ。今度行ってもいい?」

「また今度ね」


 メグは目に見えるほどテンション高くなる。

 あれから会っているのかな。それと久しぶりだからかな。


「本当に大丈夫カゲルさん」


 すっと近づいてくる小百合さん。また両手を突き出してしまう僕。


「大丈夫ですって。大介のおかげで無傷ですし、前回の様な損害はないですから」

「そう。それならいいんだけど」


 相変わらず心配性の小百合さん。何か落ち着かなさそうに前で組んだ手の指先をもじもじさせている。

 本当にそこまで心配しなくてもいいのに、そこがかわいいんだけど。


「本当に?」

「本当ですって!」


 本気の説得をした気がした。

 まだ納得はしてなさそうだが……。


 彼女は咀嚼するように数回頷いた。

 そしてハッと顔を上げて、みんなの表情を見回す。


「みんなはこんな時間まで練習してるの?」


 純粋な彼女の質問に苦笑いで返す僕ら。


「そうね」

「かなりギリギリだな」 

「あと2日も無いし」

「メンタルが強ければいいんですけど」


 各々の思いを漏らす。

 小百合さんの前では明るく振る舞おうと全員思ってはいたものの、現実があれだとな。


「それなら!何か手伝えることない?」


「え?」


 全員が目をひん剥いた。

 想像だにしていなかった。いや想像が甘かった。

 さっき小百合さんが迷惑をかけ、お詫びで何かしたいとか言っていた直後に、困っている雰囲気なんてしてしまったから。

 別にお節介すぎると言うわけではないが、そこが何かいいんだけど、この問題に彼女に首を突っ込ませていいのかわからない。


 チラッとメグに目配せする。


 メグはかなり困った表情をしている。


 どうしよう、向こうは「お力になりたいです」的なオーラが溢れている。

 無下には断れない。


 思いつかない中、リナが一歩前に出る。


「申し訳ないけど、今回は本番前の練習で、本番までは秘密にしたいの。さっちゃん見に来るんでしょ?」


「あ。そうね」


 気がづいたのか、小百合さんは困った表情になる。


「だからその手伝いは頼めないけど、それ以外なら……」


 リナもやはり全部は断りきれない。

 僕もそうだ。


「んー。んー。すみません。出過ぎたことを言ったね」


 本人としてはどうしてもやるせないだろう。

 

「んー」


 小百合さんは何度も何度も、僕らの顔を見て、口を開こうとしながらも、直前で閉じて飲み込む。


「ごめんなさい。私の心配性とお節介がちょっと出過ぎたね」


 そのシュンとしてしまった表情に、僕はどうにかしないと思い口を開く。


「こっちもごめん。気持ちとしてはものすごくありがたい。今回は状況が状況だからだけど、別にお節介とか思ってないから。だからその本番見に来てくれるそれだけでも、僕達にとっては元気になれるから。だから」


「ありがとう」


 言葉が出てくるがまとまってないけど何か、言ってあげないと、けど言葉の終わりが見つからない……。

 ん、ありがとう?


 気がつくと小百合さんはクスッと笑った顔をしていた。

 

「カゲル君ありがとう。ごめん私もちょっと慌てすぎたし、暗くなりすぎた。本番私みんな全力で応援するから練習頑張ってね」


 両手でガッツポーズを作り全員を見てから振り返る。


「それじゃ本番見に行くから」


 そう言って手を振りながら公園をあとにしていった。

 呆然と立ち尽くしていたら、両脇腹に耐え難い衝撃がきた。


「グフ」

「カゲル?前にも聞いたけどさっちゃんの事どう思っている?」


 メグがニンマリとしたギラギラな眼差しを。


「カゲルさん、本番前に浮かれないでね」


 リナが怖い笑みで睨みつける。


「二人共絶対誤解している! 僕はただあの空気はマズイと思ったから」

「その点は助かったよ! けどそれを上回る感情をも感じたよ!」

「同じく」


 もう本当に女性って、いやうちのクラブの人の大半って人いじるのが好きなのか。


「大介助けて!」


 一縷の希望で大介に視線を向ける。

 けど大介はこの状況に気づかず、ボーッと小百合さんの去った方向を見ていた。


 そして何か残念そうな顔をしてつぶやいた。


「小百合さんに見て貰って、僕のメンタル鍛えて貰えたらと思ったんだけど、あーでもそれは……」


 相変わらず大介は大介だった。

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