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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『ステージ練習』 その1

「はーい。ここが私たちの舞台です!」


 カスミン先輩とアヤメ先輩によって、バッと開かれた扉の先には光る規則正しく配置された客席が一つ下の階までズラーっと並び、その先には太陽の光のように降り注がれた大きなステージが、君臨していた。

 所謂プロセニアム形式の、観客二百人くらいの小規模な舞台だが、僕達の目には壮大な舞台に見えた。


「おおお」


 僕を含めた一年生は純粋なる感嘆の声を漏らした。

 この舞台に立つのかと思うと、体中に鳥肌が立っていった。

 直後自分の体はずんと重くなっていく、緊張と重圧と不安が一斉に襲いかかってきた。まだ、一週間前というのに、足がすくんでしまいそうだ。


「オッシャー。俺の初舞台の場所だ!」

「ほう。中々の舞台だ」


 先輩男性陣は勢いよく客席の間の通路を駆け下りて行く。そして真っ先にステージの上に立ち上がる。


「スゲー眺めだな」

「珍しく俺も気分が高揚している」


 ステージから客席を眺めるながら、感動に浸っている


「前みたいに体が光り出すとかじゃないだろうな」

「そんなわけあるか。あれとは全く別だ。こう体の内側から気持ちが吹き上がってくる感じ、要は胸の高鳴りだな」

「ほほう。お前がそんなこと言うとは、柄に似合わず相当ワクワクしてんだな」

「柄に似合わずは余計だ」


 いつもの茶々のいれ合いだが、今日の二人の会話は特に歯切れが良かった。


「これは私も気分上々だ」


 軽やかなステップで下りて行くエリ先輩。


「相変わらず。テンション高い」

「仕方ないよ。私だってワクワクしているんだから」


 三人の子供の様な行動に呆れつつも同意する副部長に、部長も演者としての血が騒いでいる感じだ。

 先輩たちはあんな感じだが、僕ら一年にとっては、足を踏み入れるのですら躊躇ってしまいそうな程の迫力に圧倒されていた。

 隣の大介はガタガタと震えている。


「カ、カゲル、ぼ、ぼく、あの舞台に、立つの?」


 震える指をやっとの思いで持ち上げて、ステージをさす。


「そうだね」

「はあ。僕あの舞台で生きて帰れるかな」


 今にも死にそうな目をして、肩を窄める程、背中を丸くしている。


「大介はシガーボックスあれほどできるだろう。心配しすぎだ」


 励まし程度に言うけど、彼は首を振って無理無理と呟く。


「あの舞台に立った瞬間に、絶対に絶命する」


 しっかりと頷きガッツポーズまでする。マイナス方向には自信満々に言う姿に、逆に感心してしまう。

 どうにかしてそれをプラス思考に持ってこれないか。


「すごーーーーい!」


 大介の隣から、跳び上がる程のフレッシュな女性がいた。


「メグ遅くない?」

「遅い」


 僕とリナのツッコミに、はてなマークを頭上に出現させた。僕は追加でツッコミを続ける。


「なんで先輩と同じ時期に反応しなかったんだ?」

「そうそう」

「あのステージを見て感動していたからかな」


 口を抑えつつ、プルプルと震えながら指を差す。

 感動の感情表現の現れかと思った。

 だけど、メグから出てきた言葉は意外なものだ。


「ステージに感動していたのは事実だけど、大ちゃん。さっきの指差すのは面白かった」


 口を抑えていたのは、笑い声を我慢する方だった。


「アハハハハ。傑作」


 大介もアレだが僕も開いた口が塞がらなかった。


「はい。とりあえず大ちゃん。そこでビクビクしないで行くよ」


 いつものようにしっかりと腕を掴まれてズルズル引っ張られる大介だ。


「メグ。ちょっとえ?」

「とりあえずシャキっとする。大ちゃんは実力あるんだから、大丈夫だから」

「さっき散々僕のことイジっていた人の言葉に、信憑性がほぼ皆無なんだけど!」

「どっちも本物だよ。どっちもあんたを必要としているわけ」

「え?それどう言うい……、痛い!」


 意味不明の状態で引っ張られる大介と、何故か上機嫌に引っ張っていくメグの姿に、いつもと違うふうに見えたのは、気のせいだろうか。


「リナ。メグは変わってきた?」


「フフ。変わったかな。色々とあなたの知らない場所で」


 僕はその言葉で眉をひそめる。

 だがリナはただ笑うだけで、何も答えずに舞台に下りて行く。

 結局意味がわからないままに、僕は階段を降りていった。



「今日から本番まで手伝ってくれるスタッフの皆さんです」


 カスミンさんの紹介で、対面していた数人のスタッフがペコリと会釈する。

 僕らも合わせて会釈した。

 そして、一番端にいた背の高い、顔たちの整った好青年ような人が、腰を低くして手を前にかざしながら、一歩前へ出てきた。


「放送部、機材部担当総括、二年生の放出(はなてん)送太(そうた)と言います。苗字と名前の頭文字取ると放送となるので、皆からはてんちゃんと呼ばれています」

「放送関係ねえ!」


 てるやん先輩が全力でツッコミを入れると、向こうの陣営から爆笑が起こる。


「ノリがいい部員さんがいて、ホンマ助かります。これでウけなかったら、ワイ逆立ちせずに逃げようかと思いましたよ」

『逆立ちしないんかい!』


 今度はてるやんさんとエリさんと合わせて僕もツッコミを入れてしまった。

 向こう陣営だけでなく、こっちも笑いが起きる。

 容姿からは想像がつかない程の関西弁が強く、とてもユーモアのある人で、親しみやすい人だった。


 初対面のスタッフとのぎこちない空気が一瞬で和やかになった。


 それからほかのスタッフの人たちも、簡単に自己紹介を済ませていった。

 そして最後の一人、黒縁メガネをかけ、ニット帽かぶったカジュアル服の女性が、自己紹介をする。


「二年の榊原(さかきばら)真希乃(まきの)です! 演劇部から来ました。舞台のサポートをさせていただきます! 三日間よろしくお願いします」


 ハキハキとした明るい快活な人だった。

 でも放送部の中で一人だけ何故演劇部の人がいるのかなと、僕はふと疑問を抱いた。


「今日からの三日間よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」


 全員の挨拶の元、舞台練習がスタートした。

眠気に負けじと書くが、やはり瞼は容赦なく下がる。恐るべし(笑)

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