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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『私の家に来た後輩』 その2

「……」


 隣の後輩は両足を揃え、両手を膝の上に置き、まっすぐ座ったまま、軽く背もたれに寄りかかりながら、ボーッと宙を見ている。


「リナ!」

「ひゃい!」


 声が裏返り、両腕をさっと挙げて顔を赤くする。


「ご、ごめんなさい。考え事をしてました」


 さっと、視線をほんの少し横に逸らす。

 何だろう今胸にグッと来てしまうものがあった気がする。

 とまあ、でも後輩だから、そのちょっとした一面は微笑ましい限りである。


「ごめんね。私もいきなり声をかけたし、それに来て早々に騒動に巻き込んで」

「全然大丈夫です。むしろ……」


 と、一瞬言葉を止め、プクッと頬袋を作り、プッと吹き出す。


「今思うとおかしいですよ。なんでカレーにクリスタルを落とすんですか。普通に考えたらありえないですって」


 必死に口を押さえるけど、笑いを止めれていない。

 私はボッと急に顔が熱くなった。

 改めて言われると自分の行いが、どれだけ間抜けだったのかと思い知らされる。


「確かにそう。あ、これ、地元の友達に話そう」

「ちょっとアヤメやめて! 恥ずかしいじゃん」

「私も絶対話します」

「ちょっ。リナまで」


 アーヤは、顔を背けながらもプルプルと肩を震わせている。

 逆にリナは、いつもより目が輝いている。

 自分の顔の温度がぐんぐんと上昇していき、沸騰寸前まで近づく。

 慌てて顔を手で抑える。

 私は今全力で、穴があったら入りたいという気持ちがどんなのか解った気がした。


「あ」


 アーヤが力なく顔を上げ、正面をゆっくり指さす。

 その方向に私とリナは振り向き、忘れていた事実に気がつく。


「晩御飯どうする?」

「外食するにも、何かそんな気分ではないし」

「そうですね」


 先ほどの騒動で、そこそこ精神的に疲れたので、あまりここから動きたくない。外食以外となると思いつくのは一つ。


「出前にする?」

「そうね!」

「それで大丈夫です!」


 全員一致で、出前に決定した。

 食べれなくなったカレーを処理し、出前が届いたのでテーブルに並べた。

 テーブルの上にあるのは丸い桶に色とりどりのネタが並べられた寿司と、紙皿に六等分され具がたくさんのったピザだった。


「……今冷静になって考えてみれば、普通じゃあまりない組み合わせかな」

「いいんじゃない。特に気にしないしない」


 アヤメは気にし過ぎと思う。私は最後に届けられるものを気にする。


「ピンポーン!」


 最後の一品が届いた。

 リナが取りに行き、大きめな皿いっぱいに並べられた、レストランにでも出てきそうなほどの、豪華な生春巻きの詰め合わせだった。

 私とアーヤは、予想外の品に言葉を発することができなかった。


「ん。どうしました? 二人揃って呆然とした表情をしていますけど」


 対してリナは当たり前のようにテーブルの前に座って今にも食べる準備をしている。


「ちょっと待って。こんな豪華のまで出前できるの」

「知りません? 女性の間では人気なんです」

「ちょっと驚いた」


 アーヤも綺麗に並べられた生春巻きに釘付けになっている。顔を近くまで寄せて観察している。


「これって結構高い?」


 恐る恐るリナに顔を向けるアーヤ。

 私も大きく耳を傾ける

 先輩二人の注目を浴びる後輩だが、特に臆した様子もなく、驚く仕草もなく、この出前の商品のレシートを両手で持ち、私たちの顔の前で見せた。


「ざっと、これくらいです」

「ジャグリングのボール五個買える程の値段!」


 と思わず叫んでしまった。

 というか頭の中でついつい道具の値段で計算してしまうのが、ジャグリング好きの性格なのかな。


「ってカスミン。なんで道具単位で計算しているの」

「どうしようもない癖ね」


 軽く顔の前で手を出して、ゴメンのポーズをとる。

 アーヤは大きく開きかけた目を緩めては、力が抜けるように肩を落とす。


「カスミンのせいで、もの凄くびっくりしたはずなのに、印象が霞んだ気がする」

「それどういうこと」

「言葉の通り」

「えーー」

「そんなにびっくりする程でした?」


 私たち並かそれ以上に予想外と思っている後輩は、むしろ私たちの言動を見て、頭の中の疑問符がとていないようだ。

 アーヤが口を必死に動かそうとして、説得を試みようとしていたが、途中で何か気がついて、口をムッと閉じて押し込み、一言。


「んー。とりあえず、私たち貧乏学生にはこれほどの額は出せないから、驚いただけ」


 リナは無言で、その言葉を理解するのに十分な時間をかけてから、静かに口を開いて答える。


「あっ。すみません。私の価値観が違っていましたね。ついつい実家の時のノリで買ってしまいました。お金は大丈夫です。頼んだ品は私が全部払いますから」

『……』


 リナは申し訳なさそうに頭の後ろをさする姿を見て、私とアーヤは同じ事を考えた。リナの実家はどういう所か。

 それと後輩に私たち二人の合計より多くの額を払わせてしまったことに、後ろめたさを覚えてしまう。

 ここまで豪華な出前を頼むとは予想がつかなかったのだから仕方ないけど。

 私はアーヤと目配せして、同時に頷く。


「よし。とりあえず食べよう!」

「はい!」

「そうね」

 とりあえず目の前にある晩餐を楽しむことにしたのである。

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