『舞台内容とルーティン』 その2
配役
王女様 アヤメ
執事 コウジ
国のパフォーマー エリ てるやん カゲル 大ちゃん メグ リナ
最後の一人 カスミン
「とまあこのような感じで決めたけど異論ある人!」
アヤメ先輩は念のために確認をとる。
「妥当だな」
「体格と実力を考えれば、自ずとこのような編成になるはずだけど」
耕次先輩とエリ先輩は腕を組んでうんうんと頷く。僕ら一年生も特に疑問に思うことはなかった。
この配役を聞いて異を唱える人などいない……。
「なんで俺は、モブ一なんだよ!」
いた。
てるやん先輩は「異議あり、異議あり。」と両手をバサバサと挙げて騒ぎ始める。
「じゃあどれがいいの?」
部長が首を長くして答えを待っている。
不意打ちだったのか、勢いで言って単に考えていなかったのかは知らないが、「え、ああ。」と声を詰まらせたあと、数秒間で必死に頭を振り絞って考えて、何とか言葉を紡ぎ出した。
「し、執事をやりたい!」
「……」
意外すぎる。苦し紛れの答えにしても、厳しすぎる選択をしたと思う。
一瞬の沈黙が流れて、さっきまで興味津々だった部長から出た一言は。
「却下」
「えええええ!」
『そりゃそうでしょ!』
二人は同時に手刀をてるやん先輩のモジャモジャのアフロ頭に直撃させる。
グハっとオーバーなリアクションで仰向けに倒れる。
「んってそんな簡単に倒れるかい!」
既のところで踏みとどまり、何とか立った。
そして大きく腕を横に伸ばしたあと、右親指を全力で立てて、自分の胸を指して訴える。
「アフロの執事って、斬新でいいじゃねえか!」
『いやいや。合わないって』
エリ先輩と耕次先輩が、同時に右手で軽く横に振る。
「んなもんやってみないとわからんだろ。というか二メートル強の執事も結構な違和感だからな。執事というよりガードマンの方が近いだろ」
「確かに」
隣にいたメグがハッとしたようにポンと手を打つ。
僅かにピクっとシワを寄せて耕次先輩はニッとする。
ついでに僕も妙に納得をしてしまった。一本を取られてしまって悔しい。
「ほら。納得した奴もいるぞ」
この茶番劇の最中にも隙なく見ているところが、てるやん先輩の油断ならない部分だ。
けど部長と副部長は全然納得がいっていないみたいだ。
両腕を組んで口をへの字にしてムスッとした表情のままだ。
「だったら二人ともスーツを着て、それでみんなで見て判断してみたら」
アヤメ先輩が妥協案を提案する。
「おーけい。今からスーツ持ってきてやるよ。それで判断してくれたら文句は言わねえ」
ノリノリに歩き始める。
「耕ちゃんはどうするの」
「仕方ない。ここまで言われたなら、俺も着替えるしかないな」
顔をほんの少し下げて首を振り、スーツを取りに歩き出した。
てるやん先輩と耕次先輩はそれ以上は言わずに、そのまま体育館を出て行った。
姿が見えなくなると、副部長が深々とため息をついた。
「あー。なんでこうめんどくさいのかな」
「仕方ないんじゃない。だって初の舞台だから、必死なんだよ」
カスミン先輩は逆に笑いをこぼして、少し楽しそうだ。
「分かってはいるのだけど」
軽く膨らました頬をそのままにして、納得いかなそうにカスミンさんをじっと見る。
「私も最初はムッとはしたけど、やりたいことをやりたいと言っている姿みていると、頑なに止めるのは違うと思うな」
「そうなんだけど」
口を渋らしたまま、軽く頭に手を当てて考え込んでしまう。
「そんな難しい顔しないで、着替えた姿を確認して判断したら」
ポンと肩に手を当てて微笑むカスミンさんをマジマジと見つめるアヤメさん、諦めたかのようにまた一つため息を吐く。
「みんなの意見を汲むのは大変」
完全に自分から折れた状態というのはわかった。
正直僕らには、男先輩二人のやりとりはあっという間で、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
僕の目にはてるやん先輩は執事になることを即興で決めて、ただ引っ掻き回したかったように見えていたのだが、カスミン先輩の話を聞くだけでは違うのか。
僕はもう少し人を見る目を養うべきなのかなと物思いに老けていると、横からニンマリとした表情でメグとエリ先輩が見つめてきていた。
「何考えていたんだね」
「いや特になんにもないですけど、逆に何故そんなにニンマリと睨んできているのですか」
「睨んでいるとは失礼ね。別になんにもないわよ」
メグのツンデレをやや変化させた言い方に、いかにも訳のありそうな言葉の糸を明白に見せている。
「いやいや、今のだと、何かありそうな言い方をしてるって」
「それはどうかな」
エリ先輩の言葉は疑問を重ね塗りしているようなものだ。
けどそこまで何かあるという疑いがあるのに、答えにたどり着けない自分の推理力の無さには、少し呆れてしまう。
「どっちの執事がいいのかな」
隣でぼやいている大介は、一人で「うーん」と純粋に頭を使って考えている。
そのせいで、今まで悩んでいたことが霞んでしまう。
「はいはい」
パンパンと二回ほど手を叩く音が響く。
疲れている表情は消えて、元のアヤメさんに戻っていた。
「二人が帰ってくるまで各自で練習、あと一年生!」
『はい!』
「一年には演技してもらう時の曲を準備しているから、ちょっと集まって」
僕とメグと大介はアヤメさんの元に集まる。
「あれ?今日はリナはどうしたの」
最後の一人の一年生がいないことに気がつき、すかさずにメグに答えを求めるように、目線が移る。
メグは、僕が訊いた時と同様にほんの一瞬表情に影を見せる。
「リナは、今日は少し遅れるとラインしてきました。それ以外の理由を聞いていないので、わからないです」
視線は落とすことなく、声のトーンは低めで淡々と答えた。
アヤメさんは数秒黙ったあと、「そう。わかった。」と一言つぶやいただけで、それ以上は何も言わなかった。




