『舞台内容とルーティン』 その1
「ということで、日程諸々決まりました!」
カスミさんはどうだ見たかという、自信満々に高々と白い紙を掲げた。
「おー」
「いや見えん」
「ポスターじゃないのか」
「というか。紙切れとドヤ顔を合わせるとは中々の心の持ち主だね。」
二人の苦情と、エリさんの斜め上のコメントと、相変わらずの口っぷりだ。
「いやぁ。それほどでも」
『褒めてねえ!』
カスミン先輩のノリの良さが上がったように思える。
いやこれが素かもしれない。
本気で顔を赤くさせて照れてる姿をしているからそう思えて仕方ない。
「はいはい。とりあえず説明に戻って」
見飽きたよと、ポンポンとアヤメ先輩が部長の肩を叩く。
ふてくされたカスミン先輩は、軽く頬袋を作るけど、アヤメ先輩にまた軽くあしらわれて、ううっと声を漏らす。
いつも以上にテンションが高いみたいだ。
「ゴホン。それより決まったことを話すね」
一人一人に、A4サイズの白い紙が配られた。
七月のクラブ発表会の詳細について書かれていた。
カスミン先輩は今後の発表会の日時と場所、練習日程を話していく。
具体的な事を聞くと、そろそろなのかと少し緊張してきた。
だがまだそれだけでは終わらなかった。
「とまあ。ここまでが前座で本題はこれです!」
と今度はバックの中から白の冊子を取り出して、ジャジャンとそれはテンション高く、その冊子を掲げた。
「舞台内容です!」
『おお!』
一同は感嘆の声を上げた。
遂に出来たかという気持ちが一番だろう。それに心なしか少しホッともしている。先輩たちの苦悩の一片を見ていたので、心配していた部分もあったが、問題は無さそうだった。
「それではストーリーをお聞きください。」
昔々ある国に、とてもとても美しい王女様がいました。
王女様は、大きなお城で、凛々しい王様の父様と心優しき女王様の母様と一緒にとても幸せに暮らしていました。
ある日、隣国の会議で父様と母様は出かけなくてはならなくなりました。
王女様もついて行きたいと懇願しましたが、父様と母様に三日後に帰ってくるからその日まで良い子にして待っているんだよと言われました。
王女様は二人の言うことに納得し絶対に帰って来てねと約束を交わしました。
そして二人は王女様を残して出かけました。
三日後、二人は帰ってきませんでした。
船が難破して、二人は帰らない人になったのです。
事実を知った王女様は部屋に閉じこもり三日三晩泣き続けました。
そしてその日から王女様は笑わなくなりました。
五年後、王女様は麗しき女性に成長しました。時期国の女王に国民は期待していました。
しかし彼女はまだ笑顔を取り戻してはいませんでした。
執事たちは悩みました。
どうしたら王女様を笑顔にできるか、でも自分たちではどうにもできませんでした。
考えた結果、国民に望みを託しました。
王女を笑わせることができたら、今後の人生は不自由なく暮らせるほどの報酬と高級の家を授けよう。
腕に自信のあるパフォーマーが集まりました。
だが誰一人、彼女を笑顔にさせることは愚か、口を開くことすらありませんでした。
諦めかけたその時、飛び入りで最後の一人が現れました。
その人はこう言いました。
全員で本気で考えて、みんなで王女を笑顔にさせましょう。
最初はその言葉は誰も響きませんでした。
それもそのはず、皆、報酬という欲があったからです。
信じてもらえなかった最後の一人は、単身で王女を笑顔にさせるために演技をします。
王女は笑いませんでした。
ですが、一言だけつぶやきました。
「あなたは少し違う。」
誰も口を開かせなかったはずの王女を話させたことに一同は驚きました。
それを見て皆、協力をしました。
そして今度は皆で力を合わせてパフォーマンスをしました。
最高の演技が完成した時、奇跡が起きました。
王女は遂に笑ったのでした。
笑顔を取り戻した王女とパフォーマー達は、国中に笑顔を届けました。
そして国は笑顔の絶えない明るい国として末永く繁栄していきました。
『おおー!』
本日二回目の感嘆の声が上がった。
僕は純粋にすごいなと思ってしまった。
どのへんがすごいかというと、はっきりとは言うことはできないのが、自分の語彙力の無さを痛感するしかないのだが。
「すごいと思ったけど、何かありきたの内容だね」
隣にいたエリ先輩にギョッとした僕は、思わず目をひん剥く。
でもカスミン先輩は普通に、むしろ笑いながら答える。
「正直ジャグリングがメインだからストーリーは、ありきたりで分かりやすくしたほうが良いと思ったから、こんな内容にしたの」
「なるほどね」
「なるほどそんな意図が」
「気がつかなかった」
先輩三人はフムと同じように頷く。
思考回路と仕草がシンクロしすぎて、面白い絵になっていた。
内心三人と同じく感心したのは間違いないのだが。
「カゲルも大ちゃんも意図には気がつかなかったみたいね」
メグが当たっているでしょと追加のウィンクを付け足す。
「そうだな。ってメグ戻ってきた」
「戻ってきたって軽く言うけど、何で呼ばなかったの?」
「呼んだけどお前全く反応しなかったんだけど」
「根性で何とかしなさい!」
「やけくそだ」
自分じゃ気づいていないから、尚更面倒だ。
「ええー。なんで分かったの」
時間差で大介は両手を上げて飛び上がる程の驚きを見せる。
「口をぽかんと開けていたら誰でも気づくよ」
「そういうメグはどうなんだ」
僕はすかさず切り返す。
「ストーリーを聞いた時に気づいたよ。話がありきたりだなと思って考えてたら、ジャグリングだから簡単にしたって聞いたから、感心しただけよ」
「……。それって結局、部長の話で気付いたってことだね」
「……。うん」
メグはさっと表情を隠して、ほんのりと肌を赤く染める。
これは本当に恥ずかしく思っているパターンだ。
そっとしておくことにしょう。
とまあ一通りの感想を述べ合うと、タイミングを見計らってアヤメさんがパンパンと手を叩く。
「はいはい。まあストーリーはこんな感じなんで、あとで詳細の冊子を渡すから確認しておいて。あと配役も書いているから覚えておくように。もう三週間しかないから、各自これまで以上に個人練習頑張るように。全体練習もするけど演技自体は個人だから責任をもって練習すること。あと三週間しかないけど、皆で舞台を作りましょう!」
「おお!」
みんなは勢いよく声を上げた!
全方位雷を経験、もの凄く怖かった。




