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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『エクスカリバーアンブレラとエクスカリバージェノサイド』

「うおおお! エクスカリバージェノサイドだ!」


 てるやん先輩が、ディアボロと紐を振り回しながら、物凄い勢いで攻めてくる。

 何故か僕と大介をターゲットにされた。

 練習していた道具を放り出して全力で逃げる。


「毎回のように貧乏くじ引かされるのは勘弁してくれ」


 悲痛な叫びが声となって出てしまう。


「もうこれは宿命の領域じゃないのかな」


 大介に至っては諦めを通り越して悟り始めてる。


「そうそう。楽しまないとね」


 いつの間にか僕らの横にエリ先輩が並走している。


「エリさんは相変わらずですね」

「そうでもないよ。逃げる立場を演じるのは久しぶりだよ」


 調子に乗ってスキップまでし始めた。

 あまりにも余裕な動きに、こっちまで追いかけられている感覚が消えていくみたいだ。


「というか、それでもあくまで演じるなんですか」

「私が本気で逃げることなんて、大量のドッペルゲンガーが追いかけてくる時ぐらいだよ」

「何ですかその例えにしては微妙なチョイスは」

「分かっていないね。一人ですら厄介な性格の私が、他に全く同じ顔と同じ性格の私が大量発生したら、それこそ収拾がつかない上に、恐怖でしょ」


 エリ先輩が大量発生している光景を想像する。

 絶対に嫌だ。


「うえ」


 大介に至っては顔が青ざめて、吐き気までしている。

 彼にとっては卒倒ものだろう。


「理解できたかい」

「はい。もう十分に」

「よろしい! だけどさあ。色々わかるけど、先輩を前に吐き気を催すとは、いかがなものかね大介君?」

「ひ!」


 てるやん先輩に追いかけられる三人から、エリ先輩に追いかけられる大介に構造が変化した。

 血相を変えて大介は全力で逃げようとしたが、無駄なあがきだった。

 うさぎがチーターに追われる以上に差は歴然だった。


「無限クスグリ!」


 しっかりと大介を捕まえたエリさんは、体のいたるところをコチョコチョし始めた。

 悲痛な笑い声だけが、体育館にこだました。


 ご愁傷さまで、大介。


 とまあ、一つの攻防が終わったところで、自分は今の立場を確認する。

 あの二人が抜けたということは今は僕一人だから、ちらっと後ろを確認する。


「こら!俺なしで何楽しんでいやがる!」

「ですよね!」


 必死に走り始める。

 けど僕も運動部じゃないからそこまで速くはない。

 みるみる差が縮まってくる。


「くらえ!伝説の聖剣による大量殺戮!」

「日本語になった瞬間、ものすごく怖くなっているんですけど!」

「うおおりゃ!」

「ギャー!」

「おいおい」


 気がつくとてるやんさんの横に、城ヶ崎さんが立っていた。

 そして振り回していたディアボロと紐をヒョイっとてるやんさんから取り上げる。

 バランスを崩したてるやんさんはドテッと床に転んだ。

 僕は助かった事実を確認すると、へなへなと地面に座り込む。


「相変わらず扱いが雑だな。それにお前がやってたのは、ジェノサイドじゃなくてアンブレラだ。」


 その指摘を背中で聞いていたてる先輩さんはひょこっと起き上がり、頭をポリポリと掻きながら、子供みたいに笑う。


「いや。俺それできないんだよな」

「そうか?逆にその技のほうが俺にとっては難しいのだが」

「お前ゼッテーおかしい」


 二人は笑いながらもお互いを見つめ合い、真ん中で火花を散らす。


「ジェノサイドの方がムズイって」

「アンブレラの方が難しい」


 互いにどっちが難しいということで議論が始まった。

 端から聞いている限り、正直言って全く難しさが分からない。というかどっちがうまくできるかで争うのではなく、できない技の難しさで争うこと自体、論点がズレてる気がする。

 というか、てるやん先輩は専門道具じゃないし。


「ジェノサイド!」

「アンブレラ」


 ムムっと顔を近づける。


「なんで睨み合ってんの」


 後ろから、先輩たちには聞こえず僕に聞こえる程度の声で囁いてきたのはメグだった。

紺色にオレンジ色のラインが入ったジャージにポニーテール姿の彼女は、ジャグラーとしての心構えが変わったのか。


「何か今日は気合の入った服装だな」

「気分的にちょっと変えてみた。私服だと動きづらいし」


 発表会の発表から、メグの中で気持ちが変わっているのは、見たままで分かった。練習も黙々としているし、かなり積極的に耕次先輩に助言を求めている姿を見て、気持ちのスイッチが入っているみたいだ。


「それで先輩二人はなにやってんの?」

「何かエクスカリバーアンブレラとエクスカリバージェノサイド、どっちが難しいかで争っている」

「傘と大量殺戮ね」


 特に何事もなくサラッと略す。


「その略し方、対比させると比べ物にならないくらい不釣合いな二つだな」

「そうだね」

「ん? 特に違和感とか思わないのか」

「全然。むしろ日本語だったら、短くて言いやすいし、横文字のカタカナ言葉はなんか長ったるいし、こっちが覚えやすい。それにその不釣り合い感が、私の胸にビビッとくるの!」

「……」

「これは、日本略語の革命!」


 その決め台詞に満足をしているのか、キランと斜め上を見つめ指を差す。

 頬を若干赤く染め、ニヤリと笑う。


 始まった。


 これ以上言っても僕の言いたいことは伝わらないなと、こちらは静かな白旗を上げた。

 色々と次元が違いすぎる。

 説得を断念し、他の話題に切り替えようと考えると、ふと何か足りないと純粋に感じた。


「リナはどうした?」


 二人揃っているはずなのに、という言葉は心に留めておきながらも、いつもと違った光景の答えを求める。


 だけどメグの意識は帰ってこない。


 僕は大介を探すが、まだエリさんの洗礼を受け続けている。


 無理だな。


 いつも二人揃っているのが普通だった光景が、今は一人になっている。多分何か用事があっただけだと思うけど……。


 メグの表情から伺うと特に何にも問題は無さそう。

 不安が過ぎるが、考えすぎな気もする。


「はーい。集まって!」


 扉の奥から体育館全体に声が響き、カスミさんとアヤメさんがバックを片手に笑顔で現れた。

 あと右手には何か白く四角いものが握られていた。

 何か発表会に対して進展があるのかな。

 僕は固まっているメグの肩を叩くが、一向に戻ってこない。


 仕方なく自然解凍するまで置いとこう。

 カスミさんに向かう頃には一抹の不安は忘れていた。


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