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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第一章 「初めての部活、初めての舞台」
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『数日後。』

 あれから数日後。


 本日の五時限目の授業が終わり、ゆっくり背伸びをして、凝り固まった体をほぐす。

 今日は全部で四つの科目があったから、結構体が堪えた。

 昔の僕なら突風の如く、最短の道のりで帰っていたのだが。

 今はこの疲労でも、部活に行きたいと思っている。


 何げに楽しく思っているせいか。


 そもそも皆と同じ目標に向かうことや一緒に行動することが今まで無かったから、今まで味わったことのないワクワクを胸の中に感じていた。

 机の上にある教材をバックに詰め込み、カバンの紐を肩にかけて教室を出る。


「あら。こんにちは」


 教室を出てすぐ、見覚えのある女性に声をかけられた。


「こんにちは。先日はどうも」


 にっこりと微笑む。小百合さん。

 自然とこっちもにやけてしまう。


「部活の練習どう? 調子いい?」

「調子いいですよ。何か今まで味わったこと感覚ですね」

「それはよかった。最初に会った時に比べて目の色が変わっている」

「そうですか?」

「そうだよ」


 何か嬉しくもあるし、少しばかり恥ずかしい。

 最初に会った時は、友達が一人もいなかった頃の授業だ。

 あの時は一言もこちらから話題を作ることができなかったから、今思うと辛すぎる過去だ。

 数日前にばったり会って仲良くなったことに、正直嬉しい。

 今みたいに会話できるのだから、僕にとっては願ったり叶ったりだった。


「クラブの発表会ってあるの?」

「ありますよ」

「いつ頃するの?」


 言われて気がついた。考えてみると、まだ明確な日程を聞いていない。もう六月中旬になっているのに、少し先輩たちが心配になってきた。


「まだですね。決まり次第連絡しますよ」

「そうね。あ、でも連絡先知らないね」

「あ」


 自分で言っておきながら、分かりきっていた事実を見落としていた。まだ会って三回目なのに連絡とか、色々行き過ぎている。


「すみません。出過ぎたことを言いました」


 ペコッと頭を下げたと同時に、また自分の失敗に気づく。

 今度は萎縮しすぎた。

 顔がカーっと熱くなったのを感じた。

 調子に乗りすぎた。折角うまく話していたと思ったのに、これは絶対変な目で見られた。

 後悔と恥ずかしさでズタボロになった頭をゆっくりと持ち上げる。

 すると、口に手を当ててクスッと笑っていた。


「カゲルさん面白い」


 その笑いは、褒められているのか、侮辱しているのか。

 どっちにしろ恥ずかしい以外の何でもない。

 何か若干のデジャブすら感じているから余計に恥ずかしい。

 このまますぐにでも逃げたいという衝動をギリギリの線で我慢しつつ無言で立ち尽くす。

 何とか笑いを押しこらえたのか、手をそっと下ろす。


「いいわ。連絡先交換しようか」


 聞き間違いかと思った。

 いや絶対にありえないという先入観が働いていた。

 けど、その当人はポケットからスマートフォンを取り出している。

 その事実をだけ見ると現実のはず。


「本当にいいのですか?」


 それでも信じられない僕は、確認をとる。


「いいよ。それに前は君の家でお世話なったし、興味あったからね。純粋に見てみたいし」


 僕は心の中で雄叫びを上げた。

 体全身にエネルギーが漲ってきたみたいだ。


 僕はあくまで冷静を装う様にして、ポケットからスマートフォンを取り出し、連絡先を交換した。

 画面には新たな名前が表示される。


「『楠原 小百合』さんですか」

「『数谷 カゲル』さんね」


 互いに視線が合った。

 その一瞬、自分の心を暖かく優しい空気が包み込んでいった。


「ではまた。カゲルさん部活頑張ってくださいね」

「あ、はい。小百合さん」


 僕は、小百合さんがゆっくりと去っていくのを、ただぼんやりと眺めていた。


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