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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『相談から協力へ』

「カスミーン。そんなっ。あと2年半も無いなんて」


 マッキーが、顔をくっしゃくしゃにしていた。

 涙をボロボロ流して、鼻をグスンとすすり、ハンカチで拭っても拭っても、止めどなく涙が溢れていた。


「マッキー」

「マッキー」


 何か声をかけようにも彼女の愛称しか出てこない私達。

 想像以上の反応だったので、どうしたら良いのかわからない。

 なだめるのも何か違うし、共感してくれたといって良いのかもしれないけど、喜ぶのも違うし、なんか

 困惑しつづけていたら、マッキーが顔を覆ってゴシゴシ擦るように涙を拭った後、真赤にした顔を私達に向けて。


「こうなったら、全面協力するよ!!」


 色々と呆気にとられた。

 はっきり協力すると言ってくれたことは嬉しい。不満なんてあるはずない。ただちょっとこれは意図してはいないのだけど、同情を図ったような後ろめたさを思うし、なんか上手く行き過ぎる。私が考え過ぎなのかな。

 いや。協力するとは言ってくれたけど、そこから先はまだまだ試練があるはず。

 気を抜くな私。

 必要か、不必要かわからない緊張を持つことにした。


「ありがとう。マッキー。でっ」


 でも本当にいいの? という言葉を飲み込んだ。

 その言葉が、疑っているようで嫌な気がした。

 いや実際に疑っていた。でもそれを言葉にするのは、マッキーの気持ちに水を差してしまう気がした。これは本当に心に留めておこう。


「カスミン?」

「ん。いや。何にもないよ。本当にありがとう」

「か、カスミイイーン」


 収まりかけた涙がまたぶあーと出てきた。

 

 マッキーの涙がようやく落ち着いて話を進める。


「それで、『オタマジャクシズ、知名度上げる計画』についてなんだけど」

「ん。ん。そうだけど、ざっくりは聞いたけど、具体的な案は?」

「有名な団体に交流会を組もうと思っている。それで、主に文化部の舞台系の部活に絞って」

「まあ。自然な方だよね。それで候補は?」

「今のところ大きい所かな、ダンス部辺り」

「なるほどね。……ん? うちは?」

「ん……? あっ!?」


 全くの不意打ちに、ハッとさせられた。

 マッキーって演劇部だった。いや知っていた。

 知っていたのは確かなんだけど、なんというか、灯台下暗しだった。


「ごめん。全く思いついてなかった」

「私も、完全に抜け落ちていた」

「大丈夫よ。私も今思いついたところだったし」


 そう笑ってくれたけど、私達は少々凹んだ。


「こういうこともあるから、2人の今日の行動はむしろ良かったと思おう! 実際に私も言われるまで、思いついてなかったし」


 マッキーがくれた言葉に、納得と安堵する。


「ということで! 演劇部とも部活交流会しない?」


 突然の提案に、思考が追いついていなかった。ただそうね。


「ぜひとも、やりたいです。 ただそちらの部長さんとまた一旦お話をしないとね」

「そうだね。これに関しては、すぐにとはいかないけど、私から話を通してみるよ!」


 あっさりと決まったのであった。想像とは違ったけど、1つの団体と交流会の可能性ができた。


「で、それで、当初の予定の交流相手よね」


 マッキーがフムと腕を組んで考える。

 

「大きいダンス部の団体って、あの人がいるところよね」

「あの人……。そうそう、マッキーが言ってた。松林……」

「ハヤトくん!!」


 マッキーの目がキラキラと輝き出した。


「グリーンシャークスのセンターだったよね」

「よーく覚えてんじゃん! そうそう。私の憧れの人」


 羨望というのかな。いやこれは多分ファンとしての瞳、それとも……。


「コホン。まあそれは置いといて」


 マッキーは、自分で空咳き込みをして、話を進める。


「ただ、ハヤトくんの部活はかなり複雑でね。グリーンシャークスは、部活の中の1つのグループでね。大きい括りでいうと、ヒップホップダンス部だよね」

「そうそう部員知名度1番大きいから。狙うなら1番大きいところと、思ったのと。ジャグリングと通じる所がありそうかなと思ったからかな」


 実際ダンス部と思われる人からアドバイスもらったからね。

 ……。

 あ、あの人!?

 ここに来て、あのアドバイスの人の正体に気がついた。けど、今は何とか堪える。


「んー。確かにそこと交流ができれば、多少は影響はあると思う。だけど現実問題、相手をしてくれるかだよね。1番大きい団体。対してこちらは出来立てホヤホヤの部活」

「やっぱり規模と知名度の問題かあ。それとも、向こうにメリットがない?」

「んー。メリットに関してはないわけじゃないから、一概にそうとは言い切れないよ。向こうがダンスにジャグリングを取り入れたらパフォーマンスの幅が広がるからね。ただ、それに気がつくかどうかもあるけど、そもそも時間的余裕があるのかが疑問だね」

「時間的余裕?」

「あ、そうか。ヒップホップダンス部は、大学内どころか、外部の大会でもバリバリ活躍しているから、練習なども絶対ストイックだし、時間だって他に割けるかどうかもわからない」


 アーヤが気がついて、渋い顔をして、口を曲げる。

 話をすればするほど、ヒップホップダンス部との交流会への道が厳しいことがわかる。


「とはいえ、何かアクションだけは起こしたいかな、他にも手は打ちたいから」


 決して演劇部だけでは心許ないというわけではない。


「んー。一応友達が1人ヒップホップダンス部にはいるから、聞いてみる。けど、厳しいと思っていて」

「わかった」

「わかった」


 私とアーヤは、頷いた。


「それで、他にもあたる団体の目処はある?」


 マッキーの問いに、私達は考えを述べる。


「ダブルタッチ部、体操部、あと他の種類のダンス部」

「舞台上に映えそうなところね。体操部は、なかなか攻めてるけど、バク転でも覚えにいくの!?」 

「まあ。体硬いし。私含めね」

「ある意味いいかもしれない。ただ、この中に知り合いか当てはあるの?」


 私は首を横に振った。


「そうかぁ。私も今挙げた部活は居ないんだよね。アヤアヤは?」

「いたら、良いんだけどね。いなかったのよね」


 アーヤが、少し悔しそうにする。

 マッキーに相談前に色々と話して、大体絞っては見たものの、その部活に知り合いがいないから、どう話を進めれば良いかわからない。

 

「この際、この候補関係なしに、とりあえず聞けそうな知り合いから、何とかたどり着けないかな? 知り合いの知り合いで。趣旨が変わりそうだけど、何とかこう文化部に繋げられたらいいから。まずカスミンの部員なら……。って言っておいて気づいた上に失礼極まりないけど、そういや、部活外の友達いないって言ってたよね」

「あはは、そうだね」

「マッキー遠慮しなくていい。それが事実だからこういう相談してるんだから」


 私とアーヤは、乾いた笑いしか出てこない。

 うちの部員は、そういうの苦手だからジャグリングしてる節も多少あるし。

 うーん。

 こうなったら、奥の手で新木さんに部統会絡みで連絡を取り付けられないかな。あーでもそこら辺、なんとなく厳しそうではある。

 会長が厳格で、副会長はやっかみられてるし、それに加えて色々迷惑かけてるからね。

 ただ、個人的なことでいけるかな。


「新入部員の新木さんなら、もしかしたら知ってるかもしれない」

「んー。まあ。猫の手も借りたいからね。それにちょっと気にしてる雰囲気あったし」

「へー。新入部員来たんだ! どんな人?」

「どんな人……。そうね。結構仏頂面で、気難しいんだけど、なんか真面目で、それで、カゲルの彼女の親戚……って。あ!!」

「……あ!」

「どうしたのカスミン!? というか、待って今とんでもないこと言ったよね!?」


 アーヤも気づいたようだ。マッキーは驚愕と困惑が両立し、体が前後に揺れる。


「実はね。カゲルに彼女ができて、軽音関係だったよね。このリストにはない部活になるけど」

「ブラックカメレオンのボーカルがカゲルの彼女」

「……。え? ええええええ!?」


 マッキーがびっくりし後ろの壁にベタと張り付いた。


「マッキー! どうしたの?」

「いや、あまりにも衝撃だったのと、その人そこそこ有名だったし、それに私、歌も聞いたことある。本当に歌が上手い人だよ! って、待って、もしかしてなんだけど、私、てんちゃんとカゲルと食堂にいた時見た! その時ちょっと距離離れたけど、いた。そうか、あの時から」

「なにそれ?」

「ものすごく聞きたいんだけど」


 マッキーの目撃情報が衝撃すぎて、身を乗り出す。


「断片的だけど、確かあの時、なんだっけ……。最初尾行されてたらしく、てんちゃんに協力して捕まえて、でもファンだったらしいから、そのままにしてるって感じだったはず」

「そこから何がどうなって彼女になったの?」

「そこから先の詳しい経緯聞きたい」


 アーヤが笑いをこらえている。

 反対に私はこう、笑う以前に色々と不安になっている。

 尾行されて、付き合うって、捉えようによってはストーカーだよね。

 いや。当人たちを見ているから、問題なさそうではあるけど、その経緯を不安に思ってしまう。


「とりあえずこの経緯はあとでカゲルに聞くとして、ブラックカメレオンって軽音部だっけ」

「そうだよ。ただ音楽か。どうなんだろう。大道芸に音楽は必要だから、関連はないこともないから、いけるとは思うけど」

「どうしたの?」


 マッキーの煮えきらない表情に疑問を向ける。


「いや。個人的な感想になるけど、癖が強いんだよね。確か軽音部」

「それは大丈夫かな。私の部活も似たようなもんだし」

「クセの強さは負けてないかと。張り合うのは変だけど」

「それもそうか」


 結構失礼極まりないけど、事実オタマジャクシズはクセの強い人達の集まりだ。

 クセが強い者同士、どういう化学反応が起きるかは全く予想はつかないけど、何となくそこはうまくいくと思いたい。


「あと他に当ては?」

「んー。文化祭で知り合った女テニとボードゲームサークルの方々かな」

「私たちにはないパイプを持ってそうだからね」

「なるほどね! 私もちょっと別方面で当たってみるよ!」

「マッキー本当? というか、そっちもそこそこ忙しくないの?」


 手伝ってくれるのはありがたい。だけど、彼女自身の心配をしてしまう。


「まあ。冬の公演あるから忙しいけど、それはそれでも、連絡をつなぐぐらいはできるし。なんとかなるよ。あと、そうそう、まだ早いけど、12月の公演観に来てくれる?」


 演劇部の公演。そういえば観たことがなかった。

 何かアイデアのヒントがつかめるかもしれない。


「わかった。観に行くよ!」

「私も行くよ」

「ありがとう!!」


 マッキーはパッと開くように喜んだ。

 

 知名度の拡大に少しずつ進もうとしている。本当に少しだけど、少しずつだけど。確かに進み始めたと思う。

 これから忙しくなるだろう。だけどここは頑張っていくしかない。

 でもまずは……。


「マッキー!」

「どうしたのカスミン?」

「相談にのってくれてありがとう!」

「いいよいいよ! うちとカスミンとアヤアヤの仲じゃない!」


 その気さくな笑顔に、相談に乗ってくれる懐の深さに私は感謝した。

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