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オタマジャクシズ!!!  作者: 三箱
第三章 「決意! 年越し!」
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『彼の質問、彼女の質問』

 少し遡り。


 私とアーヤは、帰り際にある人に話しかけられた。


「部長さん。すみません。少し時間いいですか?」


 話しかけてきたのは、新入部員の新木さんであった。

 皆がいなくなったタイミングだったので、少し警戒しつつ、チラッと隣のアーヤに視線を合わせた。


「はい。どうしました?」

「こんなこと聞くのも、アレなんだか、今日のミーティングでの交流の件だが、相手の当ては決まっていたりはするのだろうか?」


 思わぬ質問に、少し戸惑う。

 そしてこの質問をする意図が読めない。

 ただこの質問をするのだろうから、ある程度気づいているのだろうか。わざわざ周りに部員がいないタイミングであるから。

 アーヤともう一度目を合わせ、アーヤが小さく頷くのを確認して、話すことを決める。


「実際、まだないです。今から探している状態です」

「全く真っ白なのか」

「いや。次行くところは決めてはいます」

「どこですか?」

「ダンス部。一番大きいところの『グリーンシャークス』にしている。ただ直接アポを取る前に確認しにいく予定」

「……。そうか」


 そう一言言って、黙る新木さん。

 何を思っていたのかどうか分からない。


「どうしました?」

「いや、その団体がダンス部なのは、別に問題はない。ただ気にはなっていただけだ」


 そう……。なのか。それだけなのか。

 新木さんは依然硬い表情のまま。ただ、何かを含んでいる。そんな気がしてならない。

 

「あと、その余計な事を言ってしまったせいか、部内発表会という更なる仕事を増やしてしまってすまない。入って間もない俺は少々烏滸(おこ)がましかったかもしれない。俺の個人的な部分が出てしまった」

「その点は大丈夫ですよ。部内発表会は部員にとっても刺激にはなりますし、それに最近発表出来てなくてウズウズしている人もいますからね。1年生には多少酷かもしれないけど……。それに、あなたにとっても同じです! もう一回確認しますけど、大丈夫ですか?」

「問題ない。初心者だろうが、やってみる」


 新木さんの目がより大きく、そして力強く開いた。

 その意気込みは良いことである。

 ただそれでも入部してから1週間ぐらいしか経ってない。

 飲み込むスピードは早い。遠目でも確認していたから、わかる。

 ただ何がそれを駆り立てるのかはわからない。だが、予測を立てるとなると、カゲルに関係しているのだろうか……。

 そう色々考えを巡らせていると、変な間が空いてしまった。

 話の進め方? このあとの繋ぎ方がわからなくなった。


「その……。時間を取らせて悪かった。答えてくれて、ありがとうございます」


 困ったと思ったタイミングで、新木さんが自ら身を引いてくれた。

 軽く頭を下げたあと、静かに去っていた。


「……。んー。わからん」


 アーヤが、溜まった息を吐き出すように、困惑の気持ちをあらわにした。


「わからんって何が?」

「何か企んでいる様な、でもそれにしては微妙に不器用な」

「わからないけど、個人的な気がする」

「どういうこと?」

「これって細かく説明したっけ、新木さんの家にカゲルと連れ込まれた時の内容」

「あー。結局、詳細にはまだ聞いてないかも」


 その時の内容を簡潔に説明した。


「あー。ええっ。それって、ってカスミンはそれを知っていて入部させたの?」

「拒否する理由もないし、それに本人の入部の理由は別にそれじゃなかったし、それにああ見えて、節度はあるみたいだし」

「それ要するに……」

「私の勘」

「だと思った」


 はぁっとため息を吐かれた。


「まあ。でもカスミンのその勘って案外当たっているんだよね。でも部員は結構戸惑っているよ」

「それはそうでしょうね。知っての通り、近隣迷惑をかけてるから」

「でもなんで、嫌な相手なはずなのに向こうから接触してきたのかな」

「理由はわからない。ただ羨ましいとでも思ったのかな」

「嫌な相手でも羨ましい? 嫉妬?」


 そうなるのかな……。ある種の嫉妬になるのかな。今の話だけだとそうなるのかな。私は彼からの電話を聞いたから、たぶん違うとは思う。

 ただそれをうまく伝える言葉を持ち合わせてはいない。


「まあ。カスミンが良いと言うなら、それ以上は言わない。その勘は案外当たるし」

「ありがとう」

「じゃあ。この話は一旦終わり! 早く行くよ!マッキーが待ってる」

「わかった。って早っ!」


 小走りで進むアーヤを慌てて追いかけていくのであった。



「ごめん。マッキー。待たせた?」

「大丈夫!」


 演劇部所属のマッキーこと榊原真希乃はとあるお好み焼き屋の前で立って待っていた。

 金色の髪に赤いモコモコのセーターに黒の長ズボンだった。


「元気してた?」

「元気元気!? カスミンとアヤアヤは?」

「元気!」

「私は普通かな」


 アーヤが普通と言いつつ、微妙に表情に陰を落とす。


「アヤアヤって、結構気苦労するタイプよね」

「主に部長が原因で」

「ちょっとアーヤ!!」

「冗談だって」

「もう」


 笑う2人に、ちょっとだけムスッとする私である。


「とにかく! 一旦中に入ろうか」

「はいはい」


 笑いながら店に入っていった。


 今回入ったこの店は、マッキーが紹介してくれた店である。

 事前に相談の連絡を入れた際、マッキーがある程度長居出来る場所で固くならないここが良いと言って勧めてくれた場所だ。

 店に漂う芳ばしい匂いに、ジュウっとお好み焼きが焼ける音が、私の食欲に追い打ちをかけていく。

 座敷の席に座り、上着を備え付けのハンガーにかけ座ると、私は自然とメニュー表に手を伸ばし、バっと開いて、前を覆うように見つめた。


「早く。食べよう!」

「カスミンが獣の目に!?」


 対面にいるマッキーが私の顔を見て、プッと吹き出しながら座る。


「あー。確かに。私もお腹減った。カスミン。独り占めしないで、こっちにも見せて」


 強引に覗き込もうとするアーヤに、私はメニュー表をテーブルに置いた。


「さすが同居人、冷静ね」


 ニマニマしながら、私とアーヤのやり取りを見つめてくる。


「マッキー。いつもよりテンション高い?」

「いや? こんなもんよ私」

「そう?」


 アーヤの不思議な質問に私は首を傾げながらも、メニュー表のお好み焼きを凝視する。

 そして私は辛そばマヨお好み焼きのダブルを選んだ。

 注文をする際にマッキーがちょっと驚いていた。

 そして、届いてそれぞれ並べられると、私が鉄板全体の約半分を占領していたので、マッキーは驚きながら笑い、アーヤはちょっとだけ顔を後ろに退かせ、私も変な笑いがこみ上げてきた。

 ちなみに、アーヤはスタンダードな好み焼き、マッキーはシーフードが多めのお好み焼きであった。

 各々ヘラで切り分けながらモクモクと食べ始める。


「うまい!!」

「なかなかいけるね」

「でしょでしょ!」


 マッキーは誇らしげに私達を眺めながら、切り分けたお好み焼きをパクっと食べる。


「んー!! やっぱここのお好み焼きは美味い!」


 幸せそうな顔のマッキーに、私も自然と笑みがこぼれた。

 残り二切れー切れになった頃に、私たちは本題を切り出した。


「そろそろ本題に入るけどいい?」

「ん? あー。ざっくり聞いたけど交流と営業の話だっけ」


 マッキーは最後の一切れをもぐもぐしながら、目をぱちくりとする。

 話を進めやすくするために今回は予め内容は話していた。


「でも、なんで私を頼ったの?」

「単純に頼れそうな部活外の友達で、ある程度実情を知っている人で信頼がおける人物がマッキーだからね」

「そうそう」

「なんだか照れる」


 ほんのりと顔を赤らめる。


「でもそうか。あの時発破をかけたのは私だし、その意味でも今回の件は協力するよ!」

「あの時?」

「……ああ。そうかあの時、カスミンはいなかったよね」


 二人の視線が、私に集まる。

 それを感じつつ、いつ頃の事かと、頭を捻る、どの時に話したのか、私にはピンと来て……。いやもしかしてあの時。


「あ、あの時って、あの、あの時?」

「そうそう……。あの時」


 アーヤの言葉で、私たちの席に流れる空気がピリッとした皮膚が強張るような、心臓がギュッと握られたそんな緊張感に包まれた。

 マッキーは口を線のように閉じて、私とアーヤを交互に見てから。


「あ。そうそう! ん……。お酒頼んでいい? ん。失礼かもしれないし、結構繊細な内容なのはわかる。でも可能なら、本題前に聞いていい?」

「それはその!」


 アーヤが咄嗟に身を少し出して止めに入ってくれた。

 その気持ちはとても嬉しい。心が跳ねそうである。


 でも私は……。


 その不安と緊張感を受け入れた。


「アーヤ。大丈夫。いずれは話さないといけないことだし、それにあれだけ盛大にやらかして、今もまだ聞かない皆には、本当に感謝しかないんだから」


 そう。これは私のエゴだ。


 あとで部員皆にも話さないと……。いけないね。

 そう心の中でつぶやく……。


 アーヤに向かって私は小さく頷く。相棒は「わかった」と一言だけ言った。


 そして、マッキーにあの時の事と、私の特殊な身について話した。

 

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